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【レポート】横塚裕志が聞きたいシリーズ 第5回 「新ビジネスのプロトタイプを2週間で開発する」

2017年7月11日(火)、DBIC/虎ノ門OGにて横塚裕志が聞きたいシリーズ 第5回 「新ビジネスのプロトタイプを2週間で開発する」を開催しました。第5回ではデザインシンキングやリーン・スタートアップ・モデルを取り入れた開発手法で成功を収めているウクライナ発のIT企業、ELEKSをお招きしました。

イベント概要:横塚裕志が聞きたいシリーズ 第5回 「新ビジネスのプロトタイプを2週間で開発する」 スピーカー:セヴ・オニシュケヴィッチ氏(ELEKS CCO・最高顧客責任者) / サジ・カリトノ氏(ELEKS CTO・最高技術責任者) 開催日時:2017年7月11日(火) 16:00〜17:30 会場:DBIC

ウクライナ発のIT企業が成功した歴史的背景

 まずはCOOのセヴ・オニシュケヴィッチ氏によるELEKSの企業概要説明からスタートします。ELEKSは1991年にウクライナで起業されたIT企業です。ウクライナはソビエト連邦の崩壊に伴い1991年に独立した国家ですが、ソ連時代に宇宙開発拠点があったことから統的に科学、数学に強い人材が集まっています。 セヴ・オニシュケヴィッチ氏は日本にも2回住まわれたこともある日本通  現在のウクライナでは高い技術力を活かしソフトウェア開発などのデジタル技術研究が活発に行われています。その中でもELEKSは世界に1100人以上のエキスパート社員を擁するグローバルなソフトウェア開発企業に成長しています。  ウクライナ以外にもアメリカ、イギリス、ポーランドの3ヵ国に拠点を持ち、2017年から日本市場にも参入すべく、現在は日本オフィス立上げに向けた準備を進めているところです。2017年7月時点で200社以上の顧客を持ち、特に金融や保険業界に強みがあります。

人材育成を最重視する専門家集団

 ELEKSが持つ最大の武器は人材だとオニシュケヴィッチ氏は語ります。エンジニアの85%が修士号、7%が博士号を持つ専門家集団です。社内に「ELEKS大学」を設立し、大学から学生のインターシップを受け入れながら、継続的に高い技術力を持った専門家を育成する仕組みを確立しています。 日本進出を始めたばかりのELEKSへの関心は高く、会場は大盛況となりました  これらの専門家集団がELEKSのデジタルプラットフォームソフトウェアを導入すると共に、ビジネス企画や製品開発プロセスの変革、デザイン思考やUI/UXデザインの推進を強力にサポートすることにより、ビジネスプロセスや企業文化のイノベーションを実現しています。2016年度は前年度比+37%の成長を達成しており、急成長を遂げている企業です。  オニシュケヴィッチ氏はこれまで17ヵ国に渡るビジネス経験があり、現在はアメリカ・ニュージャージー州のプリンストンに在住し、プリンストン大学で講義をすることもあるとのこと。プリンストンには多くのグローバル企業のヘッドクォーターがあり、若手社員がプリンストン大学で学び、そのナレッジを世界中に広げています。

AIへの取り組み

 ELEKSが近年最も力を入れて取り組んでいるのがAIです。現在は全プロジェクトの1/3以上にAIが関係しており、特に新ビジネス創出やソリューション開発など、市場進出の第一歩目に向けたAIの活用が試行されています。 セヴ・オニシュケヴィッチ氏(ELEKS CCO・最高顧客責任者)  多くのプロジェクトではELEKSの専属チームがデータサイエンス、機械学習、自然言語分析などに取り組み、ユーザービジネスの可能性を拡大しようとしています。このようなアプローチには、高速反復型のプロトタイピングが使われています。

第1段階「イノベートフェーズ」

 ここからCTOサジ・カリトノ氏にスピーカーが交代。同氏は30年以上のITに関するキャリアがあり、マイクロチップの開発からソフトウェアのテストまで、エンジニアとしての豊富な経験をお持ちです。 サジ・カリトノ氏(ELEKS CTO・最高技術責任者)  ELEKSにおける商品開発の最初の段階は「イノベートフェーズ」です。このフェーズではアイデアとコンセプトをブレインストーミングで生み出し、そのPOC(Proof of Concept:概念実証)を行います。  これを2~3週間で何度も素早く繰り返すことがポイントです。早い段階で顧客とエンジニアが顔を合わせ、様々な試行錯誤をおこない、一緒に相談しながら、何が顧客にとって最も重要な部分であるのかを突き止めます。プロトタイピングを行うこともありますが、あくまで重要なのはコンセプトが適切であるかを確認することです。

第2段階「MVP開発フェーズ」

 続く「MVP開発フェーズ」ではコンセプトをよく理解したチームが必要最低限のプロダクトを作成し、約3ヶ月の期間で市場にプロダクトを投入します。ここでは一般市場に流通させるのではなく、アーリーアダプター、つまり新しもの好きでブランドロイヤルティの高いターゲットに絞って製品を提供し、そのフィードバックを得ることが最大の目的です。 会場の横塚裕志  そしてユーザーからのフィードバックを元にブラッシュアップを重ね、優先度の高い機能をつけ足していくプロセスに入ります。このフェーズではスクラムに代表されるアジャイル開発が有効です。  機能を追加する度に市場に投入し、フィードバックを受けながら次の改善計画を立て、最終的な製品仕様に仕上げていきます。カンバン方式なども取り入れながら量産を進め、最終的には一般市場に普及させていきます。

第3段階「保守フェーズ」

 最後は「保守フェーズ」です。ここでもアジャイル開発体制を維持することがポイントです。開発プロセスに常に柔軟性と拡張性を持たせ、市場や顧客の変化があればすぐに対応し、保守フェーズでも素早く対応することが重要です。

 ここまでがELEKSのラピッドイノベーションの進め方です。そして次は「レベル2」と呼ばれるマネジメント変革のプロセスに移ります。各フェーズに適したチーム・組織を構築し、ビジネスプロセスや業務プロセスを改善し、企業文化や従業員のマインドを変革していきます。

「本当に必要とされているもの」をとことん追求する

 ELEKSが考える各フェーズにおいて最も大切なポイントは、このプロセスを正確に進めることではないとカリトノ氏は語ります。多くの企業は「やり方」を求めていますが「何が正しいことか」を追求することのほうが重要です。 セッション中には横塚裕志からの直接質問も  どんなスタイルであったとしてもデザインシンキングアプローチを続けながら、顧客は何を必要としているのか、顧客にはどういう問題があってどう解決すべきなのかを繰り返し考えることが重要なのです。  たとえば顧客が「日本から中国になるべく早く移動したい」とリクエストしてきた場合、東アジアの地理を知らないウクライナのエンジニアは高性能な自動車を作ってしまうかもしれません。しかし自動車では海を渡ることができず、使い物にならない商品が完成してしまいます。  初期段階である「イノベートフェーズ」、続く「MVP開発フェーズ」で何度もアイデアをテストしていれば、移動には海を超えることが必要であり、本当に必要なのは飛行機であることに早く気づき、安く短期間で開発することが可能になるでしょう。

さっさと失敗してとっとと直す!

 質疑応答が始まると参加者から「ウォータフォールからアジャイルに変革するにはどれぐらいの期間がかかるのか?」「ユーザー側には様々なニーズがあるが、どのように優先順位をつければよいのか?」「ELEKSのプラットフォームはオープンソースなのか?」「どのチームにどの程度のリソースを配分すべきなのか?」といった質問が矢継ぎ早に飛びました。 会場からの質問に答えるカリトノ氏とオニシュケヴィッチ氏  それに対してオニシュケヴィッチ氏から逆質問がありました。「アジャイルの基本アプローチとはなんでしょうか?」 オニシュケヴィッチ氏が提示した回答は「Fail fast and fix it!」でした。つまり、取り掛かる前から段取りについて心配している暇があったら「さっさと失敗してとっとと直す!」が、答えになるというわけです。

イノベーションパートナーであるために

 ELEKSのアプローチは従来からあるアジャイル&リーンの考え方に基づいており、決して目新しいものではありません。おそらく多くの日本企業が実際に取り組んでいる製品開発アプローチに近いのではないでしょうか。  しかしそのアプローチを体系的に整理し、素早く継続的にアイデアを生み出す仕組みを実現し、実際にイノベーション創出を支援しているという点に、ELEKSの急成長の理由があります。  企業にソフトウェアを販売して利益を上げるのではなく、パートナーとしてその企業のイノベーションを推進する、こういった共創パートナーとしての在り方が、ソフトウェア産業に関わらず、あらゆる業種において必要とされる姿ではないでしょうか。 イベント終了後に談笑するセヴ・オニシュケヴィッチ氏、横塚裕志、サジ・カリトノ氏

関連リンク

・イベント告知ページ

著者紹介

横塚 裕志 Yokotsuka Hiroshi
一橋大学卒業。1973年、東京海上火災保険入社。2007年に東京海上日動火災保険の常務取締役に就任、2009年に東京海上日動システムズ株式会社代表取締役社長就任。2014年より特定非営利活動法人CeFIL理事長となり、2016年にデジタルビジネス・イノベーションセンター(DBIC)を設立、以降代表を務める。DBICでは日本を代表するメンバー企業約30社と共に、DX促進や社会課題の解決に取り組んでいる。
  • 特定非営利活動法人CeFIL 理事長 / DBIC代表
  • 日本疾病予測研究所取締役
  • 富山大学非常勤講師

デジタルビジネス・イノベーションセンター(DBIC)が活動を続ける理由

設立エピソード

2014年、世界で起きていることを肌感覚で確かめるため、半年をかけて世界を回った。そこで感じた危機感を日本企業に正しく伝え、行動を促すための研究会を発足するために奔走。26社の名だたる企業と世界有数の大学と連携し、デジタルビジネス・イノベーションセンター(DBIC)の立ち上げとともに我々のイノベーションジャーニーが始まった。

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