【レポート】中川郁夫のデジタル社会研究会(2018年6月期)第3回

第3回は今シーズン完結編として「働き方改革とイノベーション」をテーマに、表層と本質のギャップを感じ取る力を身につけることを目的にしたセッションです。 中川郁夫様 2016年9月に総理大臣官邸にて「働き方改革実現会議」の第1回が開催され、2018年6月には関連法案が成立、2019年の4月からの施行に向けて大きな社会テーマとなっています。同会議が提示するロードマップでは2026年までの10年間を通して働き方改革を日本に浸透させるための膨大な施策が紹介され、経団連からも事例集が刊行されたり、関連書籍がベストセラーになったりと、話題になっています。 一方で「残業をゼロにすることが営業利益を上げる」といった、働き方改革さえ実施すればすべてが解決する、と言わんばかりの風潮に違和感を感じることはないかと、中川様は問いかけます。実際に参加者からも「仕事の効率化を伴わない、時短だけが目的化している」「労働時間が減ることで収入も減っている」「以前から過労死はあったのに、どうして今なのか」といった違和感が表明されました。 中川様は「残業が多い」ことと「生産性が低い」ことには実際の因果関係はなく、これらが結びついているような論説は「擬似相関」を使ったトリックだと説きます。問題の本質である「業務改善」を徹底すれば、労働時間の削減と生産性の向上は両立できるからです。 実際、事例集や書籍で紹介されている「働き方改革」の内容は、仕事の優先順位付け、会議の効率化、コミュニケーションの改善といったものであり、従来であれば「業務改善」としてカテゴライズされた伝統的な施策と同じです。 それでは、働き方改革は、従来型の「改善」だけをやっていればよいのでしょうか? 中川様はそこにはデジタル視点での「イノベーション」が不可欠だと解説します。 例えば広告ビジネスを事例に考えてみます。テレビ広告に代表される従来型のマスメディアにおける勝者である大手広告代理店は、テレビの放送時間という有限の「枠」を買い切り、匿名の大衆に向けて広告配信することで成功しました。 ところが、1990年代以降に急速に普及したインターネット広告においては、検索連動、ソーシャルメディア型と進化を遂げて、顕名個人に対して双方向の広告が配信可能になりました。これにより、コンバージョン率は急上昇し、マスメディアで1億人に対して0.01%と同程度のコンバージョンを、インターネットにおける100万人に対して1%で生み出せることが証明されてしまいます。 そもそも、働き方改革におけるキーワードになっている「労働生産性」とは「売上総利益(粗利)」を「従業員数」で割ったものです。GoogleやFacebookといったインターネット広告におけるグローバルカンパニーの労働生産性と、日本の大手広告代理店の同数値とを比較すると、前者のほうが10倍以上優れていることがわかります。今、本当に日本が向こう10年で取り組まなければならないことは、少人数の従業員で膨大な利益を生み出すデジタルカンパニーに打ち勝つための施策ではないでしょうか。 中川様は他にも日本のテレビ局とNetflix、日本のメガバンクとAlipay(アント・フィナンシャル)における圧倒的な数値差を紹介しながら、働き方改革には、単なる業務改善だけではなくデジタル視点でのビジネス改革が必要だと繰り返します。目標は事業構造の変化であり、働き方改革はそのための「前提のひとつ」に過ぎないのです。 今回のセッションで「中川郁夫のデジタル社会研究会(2018年6月期)」は一度終了となります。

DBIC副代表 西野弘がパーソナリティを務める「ダルマラジオ」で対談公開中

関連リンク

・イベント告知ページ

他のDBIC活動

他のDBICコラム

他のDBICケーススタディ

一覧へ戻る

一覧へ戻る

一覧へ戻る

このお知らせをシェアする