【シンガポールレポート】マーケットダイブツアー(タイ)

今回のマーケットダイブツアーの目的は、東南アジアにおける有力マーケットの1つであるタイのビジネス環境を学ぶこと、タイのデジタルイノベーション戦略を理解すること、そしてパートナーの候補となるタイのスタートアップ企業と接触しそのビジネスモデルを学ぶことです。

日程2019年6月17日(月)
      ・イノベーション施設「True Digital Park」訪問 ・コワーキングスペース「モンスター・ハブ」にてインタビュー  >DNPタイ現地法人インタビュー  >Monstar Hubインタビュー
2019年6月18日(火)
      ・JETROバンコク訪問 ・CP Nakhon Luangライスファクトリー訪問
2019年6月19日(水)~20日(木)
    ・タイ最大級のイノベーションイベント「Tech Sauce 2019」参加

イノベーション施設「True Digital Park」訪問

最初に訪問したのはタイ最先端のイノベーション施設である「True Digital Park」(以降TDPK)です。 Punnawithi駅近くに建設されたTrue Digital Park Trueはタイ最大のコングロマリットであるCPグループ傘下の通信事業者であり、政府・大学・民間企業と連携し、タイ最大のイノベーションエコシステムを構築することを目的として、2018年にTDPKが設立されました。バンコク中心部から電車で約20分ほどの距離に位置し、フロア面積20万平方メートル超の広大な建物内に、大手企業のイノベーションラボ、スタートアップのインキュベート施設、デジタル関連の教育施設、そしてショッピングモールやレジデンスなどを有する、まさにタイの総合イノベーション発信地です。 明るく広々としたコワーキングエリア 案内をしてくださったのはChong Cui Ling様。TDKPには公式のビジターツアーがあり、事前にサイトから申し込みをすることで「AXIS Z BUILDING」と呼ばれるシェアオフィス施設内を見学することができます。(ガイドは英語のみ) コミュニティスタッフのChong Cui Ling様 このビルの興味深い点が、通常は競合となるコワーキングスペース事業者の「WeWork」とパートナーシップを結び、同ビル内の5階がWeWork、6階と7階がTDPKという構成になっている点です。WeWorkはスタートアップ向けのシェアオフィス、TDPKはよりオープンなコンセプトのイノベーションラボや実験施設、として住み分けているとのことです。スタートアップだけではなく大企業も巻き込んで、他を圧倒するイノベーションエコシステムを構築しようとしているCPグループの戦略が感じられます。 息抜きに卓球を楽しんでいるコワーキング入居者 Googleの教育施設であるGoogle Academy、AWSがサポートするTrue IDC (Internet Data Center)、タイの宇宙開発企業であるMy Space Corpの研究施設、シンガポールを拠点とするUOB銀行のイノベーションハブ、シンガポールの起業家支援団体であるACE (Action Community for Entrepreneurship)など、多数のイノベーション関連組織が入居しています。さらにCPグループ自体のINNOVATION CENTERも建築中です。 オープンオフィスエリア 施設も非常に充実しています。2階建てで400席の大講堂、タウンホールと呼ばれる対面型のプレゼンテーションホール、150名以上に対応する3つのワークショップルーム、そして広大なコワーキングエリアなど、入居企業の活動をサポートする設備が整っています。このTrue Digital Parkは現在も拡張工事が進んでおり、1つのスマートシティとして開発されています。この施設で産官学民のオープンイノベーションが進み、タイ経済の新たな原動力となることが期待されています。 対面にスクリーンが設置されているプレゼンテーションホール

DNPタイ現地法人インタビュー

次はバンコクの中心部アソーク地区にあるコワーキングスペース「Monstar Hub Bangkok」に移動し、シンガポールイノベーションプログラム参加企業の1つである大日本印刷株式会社様の現地法人である「Dai Nippon Printing Thailand Co., Ltd.」(以下DNPタイ)に勤務されている山口龍一様とNipanan Noonnak様にお越しいただき、DNPタイの事業内容と、タイのビジネス環境や文化・社会についてインタビューしました。 アソーク駅から徒歩5分に位置するコワーキングスペースMonstar Hub DNPタイは東南アジアにおける主要マーケットの1つとして、日本の高品質な技術を武器にタイで事業を展開されています。しかしここは東南アジア。消費者はあまり品質にこだわりがなく、製品の品質より価格が重視される傾向があります。また近年では現地企業の技術・品質も向上してきており、日本企業の強みが活かしにくい環境になってきています。 そしてタイのビジネス環境の特徴としては、創業者一家が経営を掌握している企業が多く、ファミリービジネスが中心であることが挙げられます。営業も飛び込みスタイルではなく、いかにそのファミリーネットワークに深く関わることができるかがポイントになります。 DNPタイ・ゼネラルマネージャー 山口 龍一様 続いて現地スタッフのNipanan Noonnak様にお話をうかがいます。海外企業がタイに現地法人を設立した場合、外国人1名に対して4名の現地スタッフを雇用する必要があります。また急にスタッフが辞めてしまったりするケースもあるため、DNPタイでは3名の日本人駐在員と常時15名前後の現地スタッフが勤務しています。 Nipanan様には現地スタッフの日々の生活を教えていただくと共に、我々が考えているプロブレムステートメントを聞いていただき、タイの人々から見た課題を指摘していただきました。 DNPタイ・セールスコーディネーター Nipanan Noonnak様 タイでは近年スマートフォンの所有率が増加し、社会が急激にデジタル化し始めています。1日あたりのスマートフォン平均利用時間は9時間を超え、注目されているのはエンターテイメントやコミュニケーションの分野です。一方で、現時点では社会課題に対する関心は決して高いものではなく、日本では社会課題として捉えられているゴミ問題や障がい者雇用の問題がそもそも課題として捉えられていない点に気付かされました。 プロブレムステートメントをプレゼンテーションする参加者

Monstar Hubインタビュー

続いてコワーキングスペース「Monstar Hub Bangkok」を運営されている辺田剛士様にタイのスタートアップ環境についてお話を伺うことができました。このスペースは日本を拠点とするIT企業「Monstar Lab」によって運営されており、主に日本のスタートアップ企業がタイに進出する際のサポートをされています。 Monstar Hub Managing Director 辺田 剛士様 タイのイノベーション環境を考える上で忘れてはいけないのが言語の壁です。タイは独自の言語圏・文化圏を形成しており、日本と同様に英語の普及率が低いため、簡単にはグローバル市場に進出することができません。 よってタイ発のスタートアップ企業はタイ国内をマーケットとして見ており、海外の企業はタイを1つのローカルマーケットとして見ている、という特徴があります。これは日本にも共通している点であり、グローバルに成長するユニコーン企業が生まれにくい要因になっています。 辺田様へのインタビューの様子 一方でPantipというタイ語の掲示板サイトが絶大な人気を得ていたり、Eコマースやフードテックの分野でスタートアップ企業が成長しているなど、タイ独自の文化が生まれている側面もあります。単なるマーケットとしてだけではなく、新たなアイデアを見つける場としての可能性が広がってきています。 バンコクの喧騒からは想像できない落ち着いたコワーキングエリア

JETROバンコク訪問

翌日はラーチャダムリ駅にあるJETROバンコクを訪問し、投資アドバイザーの田口裕介様にタイのビジネス環境についてのレクチャーをしていただきました。 JETROバンコクが入居するナンタワンビル 経済成長中のイメージが強いタイですが、実はすでに人口の増加が止まりつつあり、合計特殊出生率が1.4%と日本と同水準まで落ち込み、急激に少子高齢化が進みつつあります。この状況に対してタイ政府もイノベーション政策を推進していますが、現時点ではシンガポールやマレーシアと比較して政府による投資や支援プログラムが限定的な状況です。スタートアップへの投資は年々増加しており、ベンチャーキャピタルやアクセラレーターも増加しているものの、まだユニコーン企業の輩出には至っていないのが現状です。 JETROバンコク・シニアインベストメントアドバイザー 田口 裕介様 政府・自治体の代わりにイノベーションを推進しているのがAIS、dtac、Trueなどの通信事業者や、バンコク銀行などの金融機関に代表される民間企業によるインキュベーション活動です。このボトムアップ型のイノベーションエコシステムがタイの特徴であり、スタートアップの囲い込みが進んでいます。今後は企業間・産業間を跨ったイノベーション活動への取り組みと、その活動を担う人材の育成がタイの大きな課題になっています。

CP Nakhon Luang ライスファクトリー訪問

午後はバンコク中心部から車で90分ほどのアユタヤ郊外にある「CP Nakhon Luang ライスファクトリー」を訪問しました。この工場はタイ最大のコングロマリットであるCPグループ傘下の「CP Intertrade Co., Ltd.」(以下CPI)が経営するタイ米の生産工場です。タイ各地で生産されるタイ米の貯蔵・精米・パッケージング・物流を担っています。 CP Nakhon Luang ライスファクトリー この工場で生産されているのは「ロイヤルアンブレラ」というトップブランドを中心とした各種のコメ製品です。特に「Hom Mali」と呼ばれるプレミアム品種を生産していることで有名で、タイ国内はもちろんシンガポールやベトナムなどの周辺国でも人気があります。 CPIのボードルーム 今回はAssistant Vice PresidentのKamol Satcha様にご案内いただき、CPIのご紹介と工場内の見学をさせていただきました。工場内は撮影禁止のため写真を掲載することができませんが、デジタル化が進んだタイ最新鋭の工場です。 まずご案内いただいたのは巨大なディスプレイが設置されたコントロールルームです。画面には情報ダッシュボードが表示され、タイ全国に広がる農場の生育状況、倉庫にあるコメの貯蔵量、精米の歩留まり率、物流のステータスなど、主要な指標(KPI)をリアルタイムで把握することができます。また問題が発生した場合はこの部屋から直接指示が発信されます。 CPI Assistant Vice President Kamol Satcha様 工場内には過去に出荷したコメの全サンプルを貯蔵する施設や、コメの食味を試験する研究所などが設置されており、日々製品の改良が進められています。タイ国内では新米が好まれますが、シンガポールでは6ヵ月ほど貯蔵した熟成米が好まれるなど、地域に合わせた製品開発がされています。 Kamol Satcha様のお話を伺う参加者 工場見学の後はKamol Satcha様にCPIの事業や人材育成についてお話を伺いました。興味深かったのは「どうすれば短期間で売り上げを2倍にできるか」という問いでした。CPIのような大企業では一般的な販促活動では大きく売り上げを伸ばすことはできません。そこで考えられたのが流通に関わるブローカー向けの情報プラットフォームを提供することでした。 従来は紙で実施していたコメの取引をデジタル化することにより、各地のブローカーがプラットフォームに取引情報を入力するようになりました。その結果、CPIでそのデータを集積・分析することで各販売店の在庫状況を把握することができるようになり、販売店に対しより利益率の高い商品ラインナップを提案することで、売り上げを倍増することに成功しました。まさにデジタルトランスフォーメーションによるデータ活用の好事例と言ってよいでしょう。 インタビューにご協力いただいたCPIの皆様

タイ最大級のイノベーションイベント「Tech Sauce 2019」参加

6月19日(水)からはいよいよ「Tech Sauce 2019」です。このイベントは民間企業によって運営されるタイ最大級のイノベーションイベントで、50以上の国から15,000人以上の参加者が集まります。会場はその名の通りタイの中心と言える「Central World」です。 Tech Sauce 2019の会場となるCentral World 今年度は事前に自分たちの取り組みテーマを決め、イベント前にタイのイノベーション環境を学んでいたため、積極的にスタートアップブースを回って情報収集をすることができました。また前述のMonstar Lab様がジャパンパビリオンを出展されており、タイで活躍する日本のスタートアップの方々との交流も深めることができました。 スタートアップ企業の情報を収集する参加者 昨年度と比較して大手IT企業のブースが減った一方で、アクセラレーターやスタートアップのブースが増加しており、参加者も大幅に増えて活況でした。驚くような新技術を持ったスタートアップは少ないのですが、Eコマースや保険の分野でタイの文化に適応したサービスが多く見受けられました。またタイのみなさまの国民性もあり、とても話やすい雰囲気でネットワーキングできる点が印象的でした。 人物画像の特徴量を抽出するソリューションの例 今年度は事前に情報を得てからイノベーションイベントに参加することにより、多くの収穫を得ることができました。参加者はシンガポールに帰国してからタイのデジタル戦略をレポートにまとめ、1つのポテンシャルマーケットとして深く理解しています。新しいビジネスを考える際に、複数のマーケットを想定しながらアイデアを考えられることは強みになります。この知識と体験を活かして今後のビジネスモデル策定に取り組みます。

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