【横塚裕志コラム】マイケル・ウェイド「DX実行戦略」に「イノベーション」という言葉が一度も出てこないのは何故か?

彼はにっこり笑って「よく気がついたね。意識して使わなかったんだ」と言って、その理由を話してくれました。その内容を私が意訳して以下に記述します。

既存企業に必要なのは「10年先の競争力」

  • 今、既存企業の最大のテーマは、先行き不透明なVUCAの時代に、そして、デジタル技術を駆使したディスラプターが襲ってくる時代に、どのような戦略で生き残っていくのか、ということだ。
  • この戦略は、20世紀のものとは違う。3か年計画で売り上げや利益を決めてゴールに進んでいく戦略、業界内でのマーケットシェアを争う戦略、コスト削減による値下げ戦略、などの従来型の戦略では通用しないのは明白だ。経営戦略自体を大きく見直さないと、世界で戦うことはできない。
  • 日本のマーケットは、未曽有の人口減によりシュリンクしていくことは必至の状況であり、世界に出て行って戦うことが生き残りの条件である。
  • そのための競争力を、今からしっかり準備していかないといけない。それを10年かけてでも準備していくことが必要で、それを「DX戦略」という。
  • 10年先の競争力を準備していくという観点で、国単位で見たものが、「世界競争力ランキング」であり、「世界デジタル競争力ランキング」で、隣の研究室(IMD世界競争力センター)で毎年発表している。ポイントは、10年先のための準備をしているのかにある。

従来の大企業目線を180度転換する

このDX戦略の内容は本に書いたとおりであるが、ポイントはいくつかある。

  1. その企業が存在する意義、実現していこうとする社会的価値は何かを定めること。売り上げを目標にするだけでは難しい、ビジョンが必要だ。
  2. その目指す価値を実現するために、商品政策、チャネル政策、パートナー政策、人材政策、デジタル政策などを顧客の価値から根本的に見直した新しいビジネスモデルを構想し、それを全社でオーケストラのように演奏する。
  3. 企業の文化も大きく変革する。計画よりアジリティ、経験よりデータ分析、謙虚に学ぶ姿勢、社会課題を解決する意志、顧客にとっての価値を最優先に考える姿勢など、従来の大企業目線を180度転換すること。

DX戦略の先に、初めて「イノベーション」が現れる

  • このDX戦略の企画・実行が何より重要だが、95%の企業で失敗している。デジタルツールを使う戦略と誤って解釈しPOC作りに専念している企業、一部の部署に役割が押し付けられてバイオリンだけ演奏しているがオーケストラは後ろを向いている企業、アイデアソンばかり繰り返す企業など、DX戦略が理解されていない事例が多すぎる。
  • また、個別の新商品、新サービスなどのイノベーションだけに焦点を当てている企業もあり、それだけではたぶん生き残れないと思う。順番として、まずは、DX戦略をしっかり企画し実行することにより企業の存続を進めたうえで、新しい価値観のもと「イノベーション」に取り組み、新しいサービスを開発する、という順にすることが必要である。
  • だから、DX戦略に専念していただくために、私はあえて「イノベーション」に触れないことを決めた。実は、今、次のシリーズとして「イノベーション」の本を執筆中だ。

DBICの施策にも反映

以上がマイケル・ウェイドIMD教授からの回答でした。 私なりに咀嚼すると、日本の大企業は今、大きくふたつのことを実行すべきときと考えます。

  1. 真のDX戦略
  2. イノベーションのチャレンジ(イノベーターの発掘と育成 / イノベーションチームの支援)

あえて、上記ふたつのことを分けて考えることを私はお勧めします。その方が、やるべきことがはっきりしてくる感じがします。 DBICの施策もこのふたつに分けて考えてみようと思っています。

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