【横塚裕志コラム】デジタル庁構想へのDBIC的アドバイス

「デジタル庁」構想へ、DBIC VISION PAPER(以下、DVPと略)に基づいてアドバイスすると以下のようになる。

問題の所在

 行政も企業も「業務の機能」で分解した縦割り組織になっている。例えば、教育は文科省、医療は厚労省というもの。これをまじめに徹底すると、「教育」という文言は文科省しか使ってはならないという暗黙のルールができるくらいに、縦割りの弊害が生まれてくる。
 この組織形態は、「既定の仕事」を「行政側の論理」で執行するためには、効率的な面があるのは事実だ。しかし、ひとたび、国民目線、顧客目線で、「役に立ち」「手続きがシンプルな」「価値のある」プロセスに変えようと試みると、行政側の仕事ぶりを変えたくないといった理由で、大きな反対勢力になってしまうという特徴を持っている。企業も全く同じで、縦割り組織の弊害は大きい。働いている人間が意地悪く反対するのではなく、組織の論理として反対せざるを得ないことになるので、その解決が難しい。

 しかし、行政も企業も、既存の仕組みでは限界にきており、国民・顧客の価値創造というプロセスに変えないと破綻してしまうことがはっきりと見えてきた時代に なった。だから、デジタル庁という発想も時代の要請である。しかし、間違えてはいけないことは、あくまでテーマは「国民の価値創造」にあるのであって、決して「デジタル化」ではないということである。ともすると、スマホを3台持っている人をリーダーにしてはどうかとか、ITに詳しい民間人を入れればうまくいくとか、マイナンバーカードを普及させることがメインテーマだとか、間違った感覚で取り上げることになりがちであるが、そうなると本質を見失い、大きな失敗に終わる懸念がある。

 では、どのようにしたら、デジタル庁が「国民の価値創造」に向かうことができるだろうか。それを、DVPに基づいて考えてみようと思う。

DBIC的デジタル庁構想

1)10年後、日本をどんな国にしたいのか、国民がどのように感じる国にしたいのか、というビジョンをつくる

 首相直下にビジョンづくりチームを発足させる。メンバーは有識者ではなく、一般の主婦とか、子供とか、デザイナーとか、外国人とか、多様な方々で構成し、幸福度の高い国づくりを対話で昇華させていき、ビジョンにする。
 このビジョンに全省庁・自治体の方が共感するような大きなカルチャー変革運動を起こしていく。そして、このビジョンを実現するために各省庁は何をするのか、という各組織でのビジョンづくりを行い、ビジョンという「想い」で縦割りを排除していく。  したがって、各省庁での一般の仕事でも、ビジョンに沿っているかどうかを重要な意思決定要素とする。

2)デジタル庁は、このビジョンを実現するための行政プロセスを、徹底した国民目線で新たにデザインする

 従来の発想をすべて白紙にして、戸籍制度、不動産台帳、医療・健康保険制度、介護制度、税金の徴収制度、・・・すべてのプロセスを見直し、新しいプロセスを構想する。
 それを、10年かけてどのようなステップで実行するかを計画する。
この作業を実行するには、大きな二つの変革が必要になる。
一つはデジタル庁と既存省庁との権限問題。デジタル庁に権限がないと実行できないが、そこまで権限をシフトできるのかとなると、それは相当難しい。しかし、進んだ韓国などでは、国家情報院に大きな権限を集める法律を作っている。
もう一つは、新しいプロセスをデザインすることができる人材の登用である。この大仕事を実行できる人材はそうはいない。民間企業でも、ビジネスプロセスをデザ インできる人材はほとんどいない。積極的に全世界的な目線で人材を集める柔軟な発想が必要だ。日本の制度を外国人には任せられない、とかいう島国根性では実現できない。

3)改革を進める部隊は、自由で柔軟な組織にし、希望に燃えた人材を集め育成する

 ピラミッド型の組織形態では価値創造はできないので、一人一人が責任を持った自立したコミュニティのような新しい組織形態をとる。
 そして、「忖度」ではない、ビジョン達成のために人生をかけたいという人たちを発掘し、集め、デザイン思考やプロセスデザイン、行政の深い知識などを教育して、実行できる人材を育成していく作業が必要。現状の職員や民間から仕方なく派遣されてきたような職員で実行できるほど簡単な仕事ではない。
 まずは、どんなマインド、どんなスキルが必要かを洗い出して、育成方法の開発から始めないと、単なるデジタル技術の導入という貧相なプロジェクトで終わってしまう危険性が高い。

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