【横塚裕志コラム】正しいマインドを持たないとDXは起こせない

いきなり新型コロナの話題で恐縮だが、2021年2月2日、緊急事態宣言の1か月延長が表明された。しかし、1月初旬くらいのピークから比べると少しずつではあるが陽性者数は減少傾向になっている。これはたぶん、私たち市民の多くが「手洗い・3密禁止・マスク着用」を徹底したから実現できたに違いない。では、なぜそれができたのだろうか。なぜ行動変容ができたのだろうか。その理由は以下の4つの要因が大きいのではないだろうか。

1. このまま感染が拡大するといつもの暮らしができないという危機感

2. どうも行政や政治のリーダーに任せていても埒が明かない、という事実の共有

3. 誰かが何とかしてくれるという無意識の他人任せではまずいと気が付いた

4. コロナの感染を防ぐのはこの3つの手段がベストだという知識を得た

そして、この成果は少数のリーダーが旗を振ったからできたことではなく、大多数の市民がその気になったということが主因であろう。台湾のオードリー・タンも、「社会変革のためには、少数の人が高度な専門知識を持つよりも、大多数の人が基本的な知識を持っている方が重要である。」とデジタル民主主義を語っている。

では、新型コロナから離れて、「企業変革(DX)」にテーマを移して、どのように変革が実現できるかを考えてみよう。マイケル・ウェイドIMD教授が企業変革の事例として挙げる「世界的なたばこ会社が、タバコをやめて電子タバコに転換する」ケースや、トヨタがすでに発表している「移動サービス業へ転換する」ケースを想定して考えてみよう。DXは、これらの事例のように、まったく別の製品・ビジネスモデルに転換して生き残りをはかるというすさまじい戦いだ。

だからDXは企業のカルチャー、社員の心の持ちよう・マインドを全面的に180度転換することが必然だ。そこで、先ほどの新型コロナでの社会変革の時と同じ4つの要因について、企業の一般的な現状がどのようなものかを見てみると、かなりお粗末な状況ではないだろうか。以下のような状況では、DXもどきのシステム開発はできても、真のDXは難しいのではないだろうか。とすると、現状のままでは生き残りも難しいのではないだろうか。

1. 自分の会社が10年後も生き残っているのかについて、正しい危機感がない

2. 会社の将来は経営者が考えることで、私たち従業員は日々の仕事に邁進していればいいと思っている

3. この産業がうまくいかなくなることは日本にとっても大きなインパクトがあることだから、誰かが助けてくれるに違いない

4. 新しいビジネスモデルへの変革といっても何をしたらいいのか思いつかない

このような企業や従業員がまだまだ多いのではないだろうか。これでは、生き残りをかけた激しく本質的な行動変容やそれを梃にした企業変革はできるはずがない。

この1~4の「心の持ちよう」を変革のエンジンとすべきなのだが、「心の持ちよう」を正しく変化させることはそう簡単ではない。その大きな理由が二つある。

  • 心の持ちようであったりマインドの問題なので、知識を習得するような感覚で本を読んだりセミナーを聞いてみたりするだけでは変えることができない。ある意味、宗旨替えをするようなものだから、戦う覚悟としっかりとしたトレーニングが必要である。
  • この1~4の課題は、「自分ごととして考えるのかどうか」という問題であり、やりたいことがないという傾向が強い日本人には簡単ではない。また、自分ごとが当たり前の欧米では、この課題の重要性はあえてビジネススクールでもテーマにしていないから、今まで誰も切り込んでこなかった。

私たちDBICは、4Dの一つとして「Discover Myself」というマインドの変容プログラムを提供してきた経験もあり、この大きなハードルの存在に気が付いたところだ。この「自分ごととして考える」というマインドに変革しないことには、IMDの研修を受けても、デザイン思考の研修を受けても、ポストイットでワークショップをやっても、企業変革などおぼつかないということにたどり着いたのだ。

では、この行動変容とは何か。これが、エスカレーションガイドブック(EGB)で主張する「UNLOCK」そのものだ。DBICとメンバー企業の皆さんとで熱い対話を続けた結果、「日本人はUNLOCKをしない限りDXはできない」という結論を導き出し、それを具体的なビジネス戦略に合わせて書き下ろしたものがEGBだ。

「DXを始めなさい」と指示しただけでDXができるわけはない。「正しいマインド」を持つ社員を増やすために「EGBから」始めること、それが遠回りのようで最短な登攀ルートなのだ、というのがEGBチームの明快な主張だ。

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