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【横塚裕志コラム】オードリー・タンが目指す「社会変革」

オードリー・タンが目指す(台湾が目指す)「より良い人間社会への変革」とは何か、を著書『オードリー・タン デジタルとAIの未来を語る」から以下に抜粋する。
「『この仕事をすれば、社会や環境、経済にいい結果をもたらす。ある種の公共利益をもたらす』といったことを自分の価値の源にするべきなのです。
『公共の利益を達成する』という考え方と、自分と他人を比べてどちらが優れているかを判断しようとするのは、まったく異なる二つの概念です。
隣の人よりも少し上手にできたことに達成感を求めるよりも、隣の人と協力して社会問題を解決することの方が、私は喜びの度合いが大きいと思います。」

彼は明確に、多くの人が「競争原理を捨てて、公共の価値を生み出すことを求める」ようになる社会を目指している。この「公共の価値を生み出す」という考え方を社会の「目的」に据えれば、あとは全員がその「目的」にフィットした工夫をどんどんやり始める。その社会をつくることが目指す社会変革のようだ。この文化の土壌に育ったものが、例えば、有名なマスクマップでもある。見習うべきは、マスクマップではなく、この社会変革にある。

「より良い人間社会」とは「多くの市民が、競争原理を捨てて公共の価値を生み出す」社会と定義し、それを「目的」と定め、デジタル技術を駆使してその実現に邁進している。まさに「台湾のDX」だ。この考え方には特筆すべき点が2点あると思う。

1.競争原理を捨てる、という考え方

資本主義の根幹をなしてきた「競争原理が豊かな社会をつくる」という考え方を否定しているところが実に興味深い。ダボス会議のテーマが「現在のグローバル資本主義からのグレート・リセット」だということにも通じている新しい考え方だ。他者より利益を上げるという競争を「目的」に据えることにより、現代社会はその大きな弊害を抱えてきた。故に、競争という概念から共感という概念に変革すべきという潮流に相違ない。まさにCO2排出による気候変動問題、社会の格差、貧困問題、など現代は課題噴出の状態であり、SDGsのバッチを付けたり、マイバッグを持つ程度の変革では全く解決できない、もっと深い社会の考え方を変革しなくては解決できないという危機感からの潮流であろう。またこの方向性は、企業の生産性や競争力をとってみても、20世紀型の「ライバルとの競争」をエンジンとした経営よりも、21世紀型の「共感」をエンジンとする経営の方が優れている、ということを意味している。IMDの世界競争力ランキング(2020年)でも、日本の34位に対して台湾は11位と上位に位置していることから、台湾が目指す社会変革の方が時代にあっている経営だということだろう。

市民一人一人が「公共の価値」を考えそれを発信して政治・行政に参画していく、そしてリーダーが市民の声を後押ししていく、という文化に国を変えていこうとしている。そのためにデジタルを使う、という発想だ。だから、5Gという技術は実際に課題が多い「地方」から導入するそうだ。企業に置き換えれば、企業の目的を公共の価値創造におき、その実現のために社員が自由な発想でデジタルを使う、ということになる。まさに、これこそ本質的なDXではないだろうか。

2.目的を公共の価値に置くから技術が効果的に使える

「目的」を市民の多くが共感する「公共の価値」に置くから、多くの市民からいい提案が出てきて素晴らしい「手段」が多数生まれていく。ダニエル・ピンクの「モチベーション3.0」にもあったように、隣と競争する環境より、純粋に課題に向き合った方が人間の創造性は活性化する。だから、生産性が上がる。21世紀型の新しいモチベーションのスタイルを実践している政策だと思う。
逆に、技術を使うことを目的にすると、共感・創造性が生まれず、結果、技術がうまく活用できない状態になる。DXが進まない典型である。日本の企業・行政では「ITをうまく活用したい」ということを「目的」にするから、「ITがうまく活用できない」という袋小路にはまっているように見える。もしそうだとすると、日本でのIT活用、データ活用、AI活用が進まない原因は、それ自身を「目的」に設定してしまっている経営の問題ということになる。これはかなり根っこが深い課題であると認識したほうがいい。IT人材がどう、とか、経営層のIT理解がどう、とかいう議論では何も解決しないということだろう。

デジタルビジネス・イノベーションセンター(DBIC)が活動を続ける理由

設立エピソード

2014年、世界で起きていることを肌感覚で確かめるため、半年をかけて世界を回った。そこで感じた危機感を日本企業に正しく伝え、行動を促すための研究会を発足するために奔走。26社の名だたる企業と世界有数の大学と連携し、デジタルビジネス・イノベーションセンター(DBIC)の立ち上げとともに我々のイノベーションジャーニーが始まった。

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