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【レポート】福島大学食農学類研究者によるソーシャルイノベーション・プログラム「第1回食の安全セミナー」

開催日:

2021年8月19日(木)、DBICでは福島大学食農学類研究者によるソーシャルイノベーション・プログラム(SIP) 「第1回食の安全セミナー」をオンラインで開催しました。このセミナーは3部構成で、9月スタートを予定しているソーシャルイノベーション・プログラム(SIP)「食の安全」に先立って実施するものです。全体のテーマは「食の安全・安心と地域イノベーション:原子力災害10年の経験を活かす」。原子力災害という苦難を経験したからこそ得られた食に関する新たな技術やシステムをイノベーションと考え、会員の皆様と共有するのが目的です。初回は福島大学食農学類の則藤孝志准教授によるSIPについてのガイダンスと風評被害の構造や震災10年で得た財産についてお話しを頂きました。

3回にわたるセミナーは福島大学食農学類の6人の研究者に登壇して頂き、原子力災害10年の経験で得た「復興知」を共有してもらうことを目的に開催するものです。テーマは①風評被害の構造について②経験からのイノベーションとして「パック米飯の可能性と水田農業復興」と「バーチャル果樹園と品質・安全情報の提供」③企業の食品リスク対応として「醤油の危害物質と企業対応」④「原子力災害と福島県農業10年の経験~想定外の放射能汚染に対応し抑制対策と検査体制をどのように構築したか~」。これを3部構成で紹介してもらいます。 則藤さんは、ガイダンスの後、食品安全を確保する仕組みとしてリスクアナリシスとリスクコミュニケーションの重要性について強調、続いて日本におけるBSE(牛海綿状脳症)での苦い経験について話されました。

BSEとは、BSEプリオンと呼ばれる病原体に感染した牛は、脳の組織がスポンジ状になり、異常な行動や運動失調などを示し死亡するとされる病気。牛のプリオンを食べた人は変異型クロイツフェルトヤコブ病を発症するというもので、日本では2001年に社会パニックを引き起こしました。

日本は、世界で唯一「全頭検査」に踏み切った国ですが、則藤さんによればこれは全く意味のない施策であり、「風評被害を恐れて科学的に意味のないことにコストをかけてやった」とのことです。欧州などのBSE感染国で確立された対策とは①肉骨粉を餌として与えない②特定危険部位を取り除き廃棄する、というもの。日本はこの対策に加えてすべての牛の検査に乗り出したのです。30月齢を下回る若い牛の場合、感染している場合であっても検査キットでは発見できない。しかも日本畜産業では和牛は30月齢より若い段階で出荷されるわけで、検査はパフォーマンスに過ぎませんでした。厚生労働省は当初、若年齢の牛は検査しないと表明していたのですが途中で方針を変えたそうです。業界団体も消費者もマスコミも政治家も科学的な知識を得ないまま、「すでに実施した全頭検査を止めると風評被害が起こりかねない」という方を採ったのです。これは2003年の出来事ですが、その後の原子力の風評被害問題もあまり変わっていない気がするそうです。

次のテーマは「福島の農業」についてでした。
福島県の農業は、総合・バランス型。「ふくしまイレブン」という名前が冠されるほど農産物が豊富で、代表的なものだけでも米、きゅうり、アスパラガス、トマト、もも、なしなどがあり、いずれの作物も収穫量において全国で4位から8位の間に位置しているとのこと。
ただし、風評被害による農業産出額の推移をみると被災3県のうち岩手県と宮城県がかなり盛り返したのに比べ福島県は苦戦を強いられているようです。
とはいうものの、2017年度で米は全国6位の生産量を記録。ただし市場では値ごろ感が求められたままだそうです。もっと深刻なのはももで、震災以来、全国平均を下回った価格のままで1位の山梨県と比べて卸売価格で100円の差があるそうです。ただ、生産量のランキングをみると全国2位を維持しており、東京五輪でも福島産のももの美味しさがニュースで紹介されたほどです。一方、夏秋きゅうりは、2014年くらいから全国平均を上回るようになり、生産量は4位ですが現在では全国平均を上回る卸価格を維持しています。

最後に話されたのが「郡山ブランド野菜」についてで、マイナスをプラスに変えるチャレンジの話しでした。郡山ブランド野菜事業が始動したのは2003年。京都の京野菜や金沢の加賀野菜のような伝統野菜は存在しない福島県でしたが、地元に30万の消費者が存在し、かつユニークなレストランがたくさん営業している。そうした地の利を活かして1年に1品目ずつ選定し、育てていこうとスタートしたもので、ニンジンは「御前人参」、エダマメは「グリーンスウィート」、カボチャは「おんでんかぼちゃ」、タマネギは「万吉どん」といったように郡山にゆかりのあるネーミングを市民公募して決定していきました。ちなみに「万吉どん」というネーミングは、100年前に活躍した日本の農業経済学の草分けの斎藤万吉博士の名前から採られたものだそうです。

このプロジェクトが軌道に乗り始めた頃に震災が発生。プロジェクトに関与した人たちにとって消費者の気持ちよりも自分たちの不安の方が色濃かったものの、自分たちで放射能汚染の濃度調査を実施して客観的に現状を把握しようと立ち上がったそうです。茨城大学の高妻孝光教授に検査を依頼し、米や野菜の濃度を測ってもらい自ら安全性を知ることにまい進したのです。

放射性物質の汚染という極めてセンシティブな問題に向き合う中で、改めて、「食の安全とは何か」、さらに「土づくりとは何なのか」を気づかされた。もっと言えばより良い農業とは何かを丁寧に考えるようになったと則藤さんは言います。
そうして「おいしさの見える化」というプロジェクトに着手するとともにネットワークづくりにも乗り出したのです。地域内の小さなネットワークをどんどん広げていこうと、地元の人と一緒にマルシェや生産者のための料理研究会を開催。最初は自分たちが生産した野菜がどんな料理に合うのかを知らない農家が対象でしたが、そうこうするうちに近くのレストランのシェフなどが参加し始まったのが「畑のレストラン」です。畑に立派なテーブルを誂えて、農業体験後に地元野菜をふんだんに使った料理を食べてもらうもの。有名なレストランのシェフがキッチンカーで調理する企画で現在、大人気だそうです。
「原子力災害の経験をポジティブに捉え、マイナスをプラスに転化させる」
こんな取組みが福島県の各地で起こっているので、これからも注目して欲しいと則藤さんは強調していました。

【講師紹介】
則藤孝志(のりとう・たかし)氏
福島大学食農学類准教授(農業経済学、フードシステム論、地域経済・経営論)
研究課題:食と農の地域内産業連関の再構築に関するフードシステム的研究
地域産業クラスターとしての産地形成と農業・農村復興に関する研究
価格形成のプロセスに着目した品目別フードシステムの体系的研究

デジタルビジネス・イノベーションセンター(DBIC)が活動を続ける理由

設立エピソード

2014年、世界で起きていることを肌感覚で確かめるため、半年をかけて世界を回った。そこで感じた危機感を日本企業に正しく伝え、行動を促すための研究会を発足するために奔走。26社の名だたる企業と世界有数の大学と連携し、デジタルビジネス・イノベーションセンター(DBIC)の立ち上げとともに我々のイノベーションジャーニーが始まった。

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