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【レポート】福島大学食農学類研究者によるソーシャルイノベーション・プログラム「第2回食の安全セミナー」

開催日:

2021年8月24日(火)、DBICでは福島大学食農学類研究者によるソーシャルイノベーション・プログラム(SIP) 「第2回食の安全セミナー」をオンラインで開催しました。全体のテーマは「食の安全・安心と地域イノベーション:原子力災害10年の経験を活かす」というもので、原子力災害という苦難を経験したからこそ得られた食に関する新たな技術やシステムをイノベーションと考え、DBIC会員の皆様と共有するのが目的です。第2回は、福島大学の新田洋司教授から「パック飯の可能性と水田農業復興」、同じく福島大学の高田大輔准教授から 「バーチャル果樹園と品質・安全情報の提供」 についてのテーマでお話しを頂きました。

新田教授からは、「パック飯の可能性と水田農業復興」をテーマに、米の主成分であるデンプンの説明、デンプンの顕微鏡写真を使ってのおいしいお米はどこが違うのかについて、また、水田農業の新たな一手についてお話し頂きました。

まず、米の栄養価についてですが、ご飯一杯(150g)に含まれる栄養価は他の食材に比べて極めて豊富であることが話されました。実際、エネルギーでは222kcal、糖質47.6g、タンパク質で3.9g、脂質で0.75g。これがビタミンB1では0.05mg、ビタミンB2では0.02mg、ビタミンEでは0.3mgとさやエンドウ12枚分、さらにカルシウムでは3mgとプチトマト3個分、マグネシウムではグリーンアスパラガス5本分にあたる6mgという驚異的な数字、鉄ではトウモロコシ1/3本分の0.15mgという数字が示されました。

おいしいお米はどこが違うのかですが、炊いたお米を急速凍結させて撮影した走査電子顕微鏡写真では、デンプンが糊の糸のようになり、網目構造になっている。奥の方ではスポンジのような海綿状の多孔質構造が広がっているそうです。これがおいしいお米のなめらかさや粘り、弾力の原因とのこと。例えば、山形県産の「つや姫」を炊いたものは、このなめらかさなどに加えて、びっくりするくらいお米の表面が真っ白だそうです。
逆においしくないお米では、表面が溶岩のような形状をしていて、内部をみると細胞壁がそのまま残っている。見るからに堅そうな構造だそうです。

次は、今話題の「包装米飯(べいはん)」、いわゆるパック飯の説明。これは容器の中に、お米と水を入れて容器ごと炊いているもので、無菌化包装して出荷している。食べる時は電子レンジで2分調理するだけですが、レンジ調理前と通常炊飯したお米の電子顕微鏡写真で見比べると、分散・伸長した糊の糸の表面構造ではほとんど差がないそうです。最近の包装米飯は、レンジで調理しなくてもおいしく食べられると強調されていました。
この包装米飯ですが、食の簡素化と食生活の変化に伴って、"非常食"から"日常食"としての需要が2010年から急増しているとのこと。包装米飯は、無菌クリーンルームで加工しているため、常温保存ができ、そのまま食べられるのも特徴のひとつと言います。

最後に説明されたのが「水田農業の新たな一手へ」です。福島県のお米は、海岸部から内陸部まで広域で生産されており、これまでは「会津のお米」、「中通りのお米」というイメージが強かったようですが、今後は浜通りのものも含めて、カット野菜やパック野菜のようにお米をパック製品として販売していければ復興の一助になるのではないかと期待されているようです。
新田教授は、お米の品質を分かりやすく示すためのパンフレット向けに電子顕微鏡の写真を提供しており、これまでに山形県の「つや姫」や「雪若丸」、新潟県の「新之助」、福井県の「いちほまれ」のPRに協力されているそうです。

2番手は高田大輔准教授で、テーマは「バーチャル果樹園と品質・安全情報の提供」。
まず、お話しされたのが、福島県産の果樹販売の現状について。なかでも、福島県産のももの価格推移では、東京都中央卸売市場における平均単価でみると震災前も後も全国平均価格を下回ったままで、特に岡山県産や山梨県産のももとは大きな格差がみられるようです。
高田准教授の調査によれば、消費者のイメージは回復しているものの、仲卸などの流通事業者の認識が改まらないままで推移。そのため、市場における構造が変わった商品を元に戻す(復権する)のは難しいと判断せざるを得ないといいます。

そのため、福島県では現状を打開するため「海外輸出」への取り組みを強化しているとのこと。 韓国、台湾向けは放射線問題への懸念から大変厳しいものがありますが、インドネシアやタイ、マレーシアなどの東南アジアでの販売量はこのところ急増しているそうです。例えば、バンコクの伊勢丹やドンドンドンキでは2個299バーツ(約1,076円)で販売されていますが、問題は単価。岡山県産や山梨県産に比べるとかなり安価で売られており、生産者も流通業者もこの現状に甘んじていることを懸念されていました。

そうした輸出強化とともに、高田准教授らが取り組んでいるのが果樹園におけるAI/ICT技術の積極導入戦略。VR(仮想現実)技術による果実の収穫体験を実現するもので、握り具合が分かるハンドセンサーなども開発中だそうです。これはプロと素人の果樹の握り方の違いを解析し、例えば、ぶどうなどの果実を傷めずに収穫する指導に生かそうとしています。

もう1つは、樹体の仮想空間上での3次元化で、こうした技術開発に取り組んでいるのは、作物の中でも、果樹が複雑な空間形態を取っているため。樹木における果実がなっている場所の点群データを収集し続けることで、栽培のポイントを空間的な解析のみならず時系列的に把握するのが目的だそうです。これにより、効率的な栽培・収穫、農薬散布の研究に取り組んでいるとのことです。

こうした動き以外に注目されているのが果樹園における「顔の見える生産体制」。最近では、果樹園の様子を動画配信する農家も増加していてネット動画でも好評。これにVR技術などを導入することでさらにステップアップできると期待されています。消費者にとって、産地や栽培過程、収穫方法などがネットで気軽に見られるようになれば"安心"が増すことから、普及促進に注力されているようです。

【講師紹介】
■新田洋司(にった・ようじ)氏
福島大学教授(作物学、栽培学、熱帯農学)
作物の安定・高品質生産と利活用に取り組んでいます。
おいしい米など高品質作物の構造を電子顕微鏡などで明らかにし、栽培に反映させます。また、夏の異常高温や低温下でも安定的に生産する栽培制御技術を開発します。さらに、バイオ燃料作物スィートソルガムの多面的利用を栽培制御技術とともに明らかにします。
東北大学大学院 農学研究科 博士課程後期 退学。高知大学農学部助手、茨城大学農学部教授・東京農工大学大学院連合農学研究科教授、茨城大学 評議員・副学部長(農学部)を経て、2018年より福島大学教授、2019年より同食農学類教授。

■高田大輔(たかだ・だいすけ)氏
福島大学准教授(果樹園芸学)
福島の果樹を世界に発信するべく、研究をおこなっています。
福島を代表する果物に関して、"福島の飛躍"を目指し、樹体生理に基づいた栽培方法の解析、ICT/AI技術の導入、海外輸出に関連した流通技術に関する研究や人材育成を行います。また、"復興"をキーワードに放射性Csの果樹園における動態解明を継続して行います。
岡山大学農学部博士後期課程修了博士(農学)。東京大学農学生命科学研究科附属農場助教を経て、2017年より福島大学農学系教育研究組織設置準備室准教授。

デジタルビジネス・イノベーションセンター(DBIC)が活動を続ける理由

設立エピソード

2014年、世界で起きていることを肌感覚で確かめるため、半年をかけて世界を回った。そこで感じた危機感を日本企業に正しく伝え、行動を促すための研究会を発足するために奔走。26社の名だたる企業と世界有数の大学と連携し、デジタルビジネス・イノベーションセンター(DBIC)の立ち上げとともに我々のイノベーションジャーニーが始まった。

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