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【レポート】福島大学食農学類研究者によるソーシャルイノベーション・プログラム「第3回食の安全セミナー」

開催日:

2021年9月7日(火)、DBICでは福島大学食農学類研究者によるソーシャルイノベーション・プログラム(SIP) 「第3回食の安全セミナー」をオンラインで開催しました。このセミナーは3部構成で、9月10日からスタートしたソーシャルイノベーション・プログラム(SIP)「食の安全」に先立って実施されたものです。全体のテーマは「食の安全・安心と地域イノベーション:原子力災害10年の経験を活かす」、原子力災害という苦難を経験したからこそ得られた食に関する新たな技術やシステムをイノベーションと考え、会員の皆様と共有するのが目的です。
最終回にあたる第3回は、福島大学食農学類の渡部潤准教授から「食品中の危害物質」、小山良太教授と石井秀樹准教授から「原子力災害と福島県農業10年の経験~想定外の放射能汚染に対応し抑制対策と検査体制をどのように構築したか~」についてお話しを頂きました。

渡部潤准教授は醤油メーカーに16年勤務された経験があり、専門は応用微生物学で、発酵醸造学の研究に従事されています。今回のテーマは、「食品中の危害物質」で、醤油の中の危害物質の説明、その物質の安全性についての捉え方についてのお話しを頂きました。
私たちにとって非常に身近な醤油ですが、その中には、ヒスタミンなどの不揮発性アミンをはじめ、クロロプロパノール類、ヒ素、フラン、4‐メチルイミダゾールといった危害物質の混在が判明しているそうです。ただ、5つの物質とも極めて微量なため通常の食生活ではまったく問題はないとのこと。ここで渡部准教授は食の安全に関する基本的な考え方として、1)絶対に安全な食品はない 2)その食品が安全かどうかは摂取量によって決まる―ということを強調していました。
とはいえ、こうした危害物質についての週刊誌報道などがあると、消費者からの問い合わせが殺到する可能性は大。特に食品メーカーなどは自社の製品の中に危害物質と言われるものがどれくらい混入しているのかを把握し、いつでも外部対応できる準備をしておく必要があると渡部准教授は強調しています。ちなみに、令和2年に発生した国内の食中毒は、全体で887件、患者数は1万4613人で、死亡者は3人だったそうです。

次にハラールについての説明がありました。イスラム法において合法なものを「ハラール」、非合法なものを「ハラーム」と言いますが、そのイスラム圏ではハラールの認証審査において実に厳しい要求が出されるケースも少なくないそうです。実際、「運搬用のパレットをハラール専用にして欲しい」、「倉庫もハラール専用にして欲しい」という要望が寄せられた話しをされていました。
科学的にはハラームが混入しないことは分かっているがこのような細かく真摯な対応をしないとムスリムは安心できないと担当者。渡部准教授は、この事例はまさに震災後の食品問題に通じると言います。安全だという押しつけは逆に反発を招くと。安全じゃないと思っている人あるいは気持ちが悪いと思っている人に対しては、一歩下がって、「やはり気持ち悪いですよね」というスタンスで対応していく必要があると思っているそうです。最後に、醤油は安全だが、すべての人の安心を獲得するところまでは至っていない。安全を提供するサービスはあるが、安心を提供することが今後、重要になってくるのではないかと提言していました。

次の講師・小山良太教授からは「食の安全と農の再生~風評問題と市場構造の変化~」についてお話しを頂きました。小山教授は食の安全・安心について分かりやすく説明するため、論文だけでなく、「美味しんぼ」などのメジャーな漫画や地元発行の「ふくしまノート」といった漫画に登場して土壌の測定や試験栽培について分かりやすい説明をするよう取り組んで来たそうです。そうした啓蒙活動を通して学んだのは「科学的に安心だということばかり強調してもなかなか相手に理解してもらえない」ということだったそうです。そうしたことから今は「測定した結果はここまでです。我々はこういう取り組みをしています」と報告し、結論は相手に委ねるというスタンスに変更したとのことです。

ただ、この10年を経て、福島県産の農産物は金額は別として出荷量は増加傾向に転じているそうです。小山教授はその牽引役を担ったのは流通などの企業だと結論付けています。例えば、セブン-イレブン。同社が年間に扱っているお米は20万トンですが、そのうち3万トンが現在、福島県産になっているとのこと。セブン-イレブンが安全性を確認し取り扱っているという事実が消費者にとって安心に繋がっていると言います。こうした事実の積み重ねが風評被害を1つずつ解決していったポイントで、行政や農業団体、政府、科学者、医学者がどんなに説明するよりも企業が実際扱ったという事実の影響が大きかったと感じているとのこと。
小山教授は、放射能汚染対策を説明する時に、大切なポイントとして入口(生産)から出口(流通)までの体系立った対策を具体的に説明しなければならないと言います。そうした時に、小山教授は、1)土壌の測定 2)吸収抑制対策 3)農畜産物の測定 4)消費者等への情報提供―の4段階について詳細な説明を心掛けているようです。

福島県の場合は、まず放射性物質が降り注いだ土壌の汚染測定をし、それをベースに除染を実施。しっかりと土壌の測定・除染対策をしたという点がチェルノブイリ原発事故後の対策とは大きく違うとのこと。2つ目は土壌汚染に対して吸収抑制対策を行ったこと。これは作物が養分を吸収する土の層(実際に根が張る地面から約10~15cmまでの層)の放射性物質濃度を下げるための大変労力の要る作業です。畑などでは表土の削り取りや土壌の天地返しといった作業、果樹園の場合は樹木の表面を削ったり、高圧洗浄機で洗い流したり、古い枝を切り落としたりという取り組み。さらに、作物が放射性セシウムを吸収しない効果があるカリウム散布を全農地で行ったそうです。お米に関しては全量全袋検査を実施するなど他県とは違う姿勢で農業に取り組んでいるとのことです。このような取り組みの成果として、沖縄県では、福島県産の「ひとめぼれ」や「米屋の一押し」といったブランド米がハードルの高い贈答用として購入されるまでに復活したという嬉しいお話しもありました。

最後の講師・石井秀樹准教授からは、「安全と安心の確保は、万全な対策の確立と確信を伴う取り組みの定着から」というお話しを頂きました。
福島大学で協力した主な放射能の計測作業は、1)森林の放射能計測 2)林道・農道・河川管理道路の空間線量 3)防火水槽の放射能計測 4)飲み水の放射能検査 などがあったそうです。これらは福島県全域で行ったそうで、この作業は福島大学や現JAふくしま未来が主体となって実施しましたがJAの職員だけでなく、全国各地の生活協同組合から多くの職員がボランティアとして参加。生産者と消費者の代表が一緒に現場を歩き、意見を交換できたことが大きな特徴になったそうです。

小山教授の話しにも出た吸収抑制対策のカリウム散布についてですが、作物のセシウム吸収は、交換性カリウム濃度に強く依存。具体的には、土壌中の交換性カリウム濃度が25.0mgを超えると玄米中の放射性セシウム濃度が大きく低減するそうです。こうしたことから放射能被害を受けたエリアではこのカリウム散布が多く実施されているわけです。石井准教授は、福島県のお米の生産額は約600億円だが、こうした検査費用に毎年50億円ほど、また、塩化カリウム肥料の散布には30億円くらいが投じられてきたと説明。これらの対策は、2012年度から2018年度までずっと続けて来られたそうです。

【講師紹介】
■渡部潤(わたなべ・じゅん)氏
福島大学准教授(応用微生物学、発酵醸造学)
発酵食品のおいしさの秘密を研究しています。
麹菌、乳酸菌、酵母といった発酵食品製造に広く利用される微生物を対象に、有用な形質を示す株のゲノムレベル・遺伝子レベルでの解析を行っています。また、これらの微生物が生成する成分(特に香気成分)の生成メカニズムに関する研究も進めたいと思っています。
新潟大学大学院自然科学研究科博士前期課程修了。食品会社を経て、2020年8月より本学食農学類准教授。食品会社在籍中に、独立行政法人酒類総合研究所共同研究員、新潟大学大学院自然科学研究科博士後期課程修了 博士(農学)。

■小山良太(こやま・りょうた)氏
福島大学教授(農業経済学、地域政策論、協同組合学)
食の安全と農の復興、農村の社会関係資本の再構築に取り組みます。
原子力災害による損害は3 つの枠組みで捉えられます。①出荷制限、風評被害による価格下落などフローの損害。②施設、農地が使用できなくなったことなど物財に関するストックの損害。③人材の流出やネットワーク、コミュニティの毀損、地域の分断など社会関係資本の損害です。いま重要なのは第3 の損害を再構築するかです。これは世界の地域が共通して抱えている問題です。
東京都生まれ。北海道大学大学院農学研究科博士課程修了 博士(農学)。2005 年より福島大学経済経営学類准教授、2014年同教授。福島県地域漁業復興協議会委員、多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会委員、日本学術会議特任連携会員。

■石井秀樹(いしい・ひでき)氏
福島大学准教授
里山管理論、環境計画、環境福祉
"生存"と"生活"をデザインする「科学」と「実践」を求めて研究に取り組んでいます。
人間は自然に生かされており、それ無くして"生存" も"生活" もできません。人間社会と自然環境の持続可能性を高めるため、農地や森林の多面的機能や動態の科学的研究と、それを保全・活用・創造するための計画や地域デザインの実践的研究、を融合させたものが食農学類における『里山管理論』です。
埼玉県生まれ。京都大学理学部卒業。東京大学新領域創成科学研究科自然環境学専攻博士後期課程単位取得退学。2010 年より法政大学サステイナビリティ研究教育機構リサーチアドミニストレーター。2012 年うつくしまふくしま未来支援センター特任助教。2013 年同特任准教授。2019年より福島大学農学系教育研究組織設置準備室准教授。

デジタルビジネス・イノベーションセンター(DBIC)が活動を続ける理由

設立エピソード

2014年、世界で起きていることを肌感覚で確かめるため、半年をかけて世界を回った。そこで感じた危機感を日本企業に正しく伝え、行動を促すための研究会を発足するために奔走。26社の名だたる企業と世界有数の大学と連携し、デジタルビジネス・イノベーションセンター(DBIC)の立ち上げとともに我々のイノベーションジャーニーが始まった。

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