【レポート】企業変革実践シリーズ第14回「森と暮らしをつなぎ直す ~森から学ぶ持続可能な企業経営と、そのためのUNLOCK~」

2021年10月21日(木)、DBICでは企業変革実践シリーズ第14回として「森と暮らしをつなぎ直す ~森から学ぶ持続可能な企業経営と、そのためのUNLOCK~」をオンラインで開催しました。今回の講師は、長野県伊那市で「森をつくる暮らしをつくる」を理念に森を起点とした持続可能な社会づくりに取り組む株式会社やまとわ代表取締役で自らも木工職人の中村博さんと、やまとわ取締役で森林ディレクターの奥田悠史さん。2人の実践経験を踏まえたお話しを聞いた上で、参加者との対話を通じ、今私たちに求められている"UNLOCK"への理解を深めるのが目的です。進行は、DBICディレクターの渋谷健が担当しました。

やまとわが活動する長野県伊那市は南アルプスと中央アルプスに囲まれた谷のまちで、森林率が82%という森のまち。森林ディレクターの奥田さんによれば、やまとわの企業理念は「森をつくる暮らしをつくる」で、4つの事業部で構成されているとのこと。夏は農業、冬は林業を実践する「農と森事業部」のほか、地域の木を使った家具やプロダクトをつくる「木工事業部」、地域に合った暮らしを考えて実装する「暮らし事業部」、持続可能な森をつくるための企画づくりの「森事業部」の4つだそうです。

まず、農と森事業部ですが、冬に林業をしているのは「木を伐るのは、冬がいい」から。木は夏にいっぱい水を吸い上げて成長し、冬には水を降ろして休んでいるという木々の生態に合わせた伐採の取り組みをするため。夏の農業では、同じ農場内のポニースクールの「パカパカ塾」と連携して、馬糞と地域資源を発酵させた有機堆肥を製造。その堆肥で土づくりを行い、無農薬・無化学肥料で野菜や大豆を栽培し、味噌や加工品づくりに挑戦しているそうです。
こうした"農の循環"は他社でも取り組んでいますが、やまとわの特徴は、同時に森の循環に対して配慮していること。木工づくりで出た端材は堆肥にして畑に還元、炭も意図的に粗くし、微生物が暮らしやすい環境づくりを心掛けているのです。

活動の様子

ところで、伊那市の市民有林の樹種は、カラマツが44%、アカマツが21%、ヒノキとスギで6%という構成。あとは雑木といわれる広葉樹というものです。やまとわでは、「たくさんあるけれど価値がつきにくい木を使う」ことを考えて、アカマツの木工利用に重きを置いているそうです。松枯れ病の被害が年々増加し、里山の風景が壊れてきていることがその理由で、松枯れ病に侵される前に木工利用しようとしているのです。

木工事業部では、「経木」(きょうぎ)に力を入れています。昔ながらの伝統の包装資材をリブランディングするのがその目的。実際、大手スーパーの鮮魚や肉の包装材として注目されてきており、家庭でも肉や魚の調理時に使われるケースが増加しているそうです。中村さんは、特殊な調理ペーパーと違って、刃物に馴染むという高評価をそこかしこから頂いていると嬉しそうでした。調理以外にも、敷く、包む、飾る、木のまま使うという需要はSDGsの高まりの中で注目されているそうです。経木を照明スタンドに使ったり、可愛いオブジェに使うケースも増えていると言います。経木づくりの良いところは、生の木から木取りができること。やまとわでは、夏は自然光、冬は端材をエネルギーにして経木を乾燥させるという無駄のない工程で取り組んでいます。

そうした木工事業部が10月に発売した新商品が、「DONGURI FURNITURE」。それまでのアカマツに代えて伊那谷の里山にある広葉樹(コナラ、ミズナラ、クリ、クルミ)を使用したもので、丸脚と無垢の天板のパーツを用途に合わせて組み立てられるのが特徴だそうです。
森事業部では、乗鞍高原の森林をどう面白くしていけるのかというプロジェクトを推進していて、注目企画がシラカバを使った「kimamaベンチ」。釘も接着剤も塗料も使わないベンチで、腐ってもいいという提案をしています。このベンチを高原プロジェクトの参加者と一緒につくる中で地域のコミュニティづくりを推進しているとのこと。ちなみに、電動工具の電源は、ソーラー発電から供給を受ける蓄電池システムを採用しているそうです。

経木を使った製品

やまとわの事業紹介に続いて、近年大規模化する森林火災の話しが奥田さんから紹介されました。それによると、世界の森林は加速的に減少していて、1990年から2015年までに消失した森林の面積は約1億2,900万haにも上っているそうです。また、1)世界の森林面積は約40億haで陸地の約31%を占めている(WWF) 2)世界全体の森林面積の65%を有する118か国で毎年1,980万haの森林が火災によって消失している(FAO) 3)野火全体の75%は、人間に責任があることが報告されている(FAO)―という悲惨な状況も。

続いて中村さんからは、薪ストーブのある暮らしがいかに心を豊かにし、地域コミュニティづくりに役立っているのかについて語ってもらいました。中村さんは、地元で森林整備の事業を展開、もう9年目になるそうです。伊那市への移住者の皆さんと週末林業という形で月に2回森林整備の活動をしているとのこと。参加者の大半は最初、皆で薪づくりをし、薪ストーブで暖をとろうと入会してきたのですが、活動を通して真っ暗な森を皆で伐採し、日当たりの良い遊歩道が出来上がっていくことに喜びを感じているそうです。薪ストーブは何回も暖かくなれるモノ。薪割りをする時、暖をとる時、料理を食べる時と3回以上は暖かくなれると言われているそうですが、中村さんによれば、1番暖かいなぁと思えるのが、薪ストーブ1台あるだけで地域コミュニティが出来上がることだそうです。

このほか、やまとわでは、伊那の小中学校に対する木工教室支援といった社会貢献活動、さらに森ジャズといったイベントの展開にも注力しています。森ジャズでは、広島県からプロの演奏家を招へいし、子どもも大人も一緒になって演奏会を繰り広げているそうです。音楽ホールとはまったく違う音空間が体験できるのが醍醐味だそうです。

やまとわが大切にしている理念は、1)人の暮らしを幸せにできるか 2)それは森の幸せに繋がっているかーで、そこから外れることは仮に事業拡大に結びつきそうでもやらないそうです。そうした理念を全員で共有するため、代表の訓話以外に、2か月に1度、「基本の木会議」を開催しています。スタッフが順番に自分が考えていることや興味を持っていることを発表するもの。中村さんの最近のイチ押しテーマは、「ミニ地球から循環を考える」ものだったそうです。ビンの中にひとつの生態系をつくるというもので、皆で森に出掛けて様々な素材を集め、実際にビンの中で光合成を発生させる実験に取り組んだそうです。

木工事業部

ここからは、渋谷DBICディレクターの進行の下、中村さん、奥田さんと参加者の皆さんとの一問一答がスタートしましたが、割愛させて頂きます。

<ご参考>株式会社やまとわ

【スピーカーご紹介】

中村 博(なかむら ひろし)氏
長野県伊那市出身。高校卒業後、郵便局員を経て木工職人の道へ。2016年10月、「森をつくる暮らしをつくる」会社、株式会社やまとわを設立し、代表取締役に就任。現在では、かんな削りの技術を競う全国的な組織である「削ろう会」信州支部の事務局長も務める。プライベートでは、2012年に地元有志で森林整備の団体を立ち上げ、週末林業に取り組みながら、日々森の中での暮らしを楽しんでいる。

奥田 悠史(おくだ ゆうじ)氏
1988年三重県伊賀市生まれ。信州大学農学部森林科学科で年輪を研究。卒業後、ライター・編集者を経て2015年にデザイン事務所を立ち上げ独立。毎週開催のマルシェをスタートし、マルシェの回数は、300回を超える。2016年に暮らし提案を通して森を豊かにすることを目指す株式会社やまとわの立ち上げに参画。編集・デザインの経験を生かし、森林ディレクターとして、森を生かす事業提案、プロダクト開発、ブランディングなどを担当。

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