【横塚裕志コラム】社員が自立マインドを持ち、会社をエンジンにして、社会価値を創造する時代

21世紀の時代、イノベーションは社会価値の創造だ。企業の利益だけを追求するビジネスでは社会から受け入れていただけない。つまり、イノベーションはすべて「ソーシャルイノベーション」に他ならない。
そして、「ソーシャルイノベーション」の目的は何か。それは、私たち地球人が幸福に生きていくために、そしてできるだけ永く持続的に生きていくために、その障害となる従来の枠組みを変革していくことだろう。

そう考えると、イノベーションは私たち地球人が主役であり、私たちの責任だ。つまり、○○会社の○○部長としての職務でやることではなく、私たち一人ひとりが一地球人としての役割と自覚して、私たちの社会が持続的により幸福になっていくためにやらなければいけないことだ。
社会課題は身近に多く存在する。例えば、日本企業の長時間労働の問題。毎日16時には退社して残業無し、年間5週間の休暇を取る、という北欧の生活を目指してはどうだろうか。満員電車の通勤もなくしたい。気候変動による洪水などの災害からの予防、体質に合わせた食の安全、スマホによる児童の睡眠障害から起こる発達障害などなど、取り組みたい課題が山積している。
これらの課題を解決するための施策が、まさに「イノベーション」であり、これを「企業のビジネス」として仕組み化できれば、それはかなり持続可能性が高いプロジェクトになる。補助金とか寄付とかに頼る仕組みでは長続きしないので、○○会社と○○会社のビジネスにすることが重要だ。しかし、これは○○会社の社長からの指示に従ってやることではなく、私たち社員が主役となって自発的に会社というエンジンをうまく利用してやるもの。社員と会社と社会とがWIN-WIN-WINになるものだ。

この「社員が主役」のイノベーションフレームワークが、21世紀のデジタル時代の新しい考え方になっている。20世紀のイノベーションはハード主体で会社利益のための会社主導であったが、今、大きく考え方が変わってきている。会社主導、政府主導ではイノベーションが生まれにくくなっている実態がそれを表している。社員という個人が主役だからこそ、オープンイノベーションという「共感」の輪が個人を通じて広がり、結果、いくつかの会社をつなぐことになる。

「社員が主役」になるためには、個人が「会社に依存する」「従属する」「奉公する」というマインドを改めることが大きな条件となる。個人として「自立」することが求められる。個人は、会社の仕事の前に、自分や家族の幸福を考えるというマインドが重要だ。「会社にお世話になっている」という感覚から「会社を選んでいる」という感覚に変わることが必要だ。最近の30代くらいまでの若い方は比較的そのような感覚になっているように見受けられる。逆に、私も含めて45歳以上の方々は、20世紀の感覚が染みついているからギャップを感じるかもしれない。しかし、時代は間違いなく大きく変化しているのも事実である。明治維新で侍の時代が終わった時のような変化なのかもしれない。

この新しい「社員が主役」というフレームワークで考えると、大企業の社員がよく言う以下の言葉は通用しない。「上司がイノベーションの障害になっている」とか「上司がうるさくて学習できない」とか「仕事が忙しくて勉強に出かけられない」とかである。
そういう障害は今乗り越えやすくなっている。目指す課題が、企業の存在目的であるパーパスに合致し、プロジェクトの内容が合理的であれば「共感」を得られやすいし、仲間を集めることができる。学ぶ時間が欲しければ自分でタイムマネジメントして学べばいいわけである。ハードルの存在を嘆くより、もっと「自立」することが自分の幸福や社会への貢献には大事だということに気が付く必要がある。
自立するためには、会社の多くの部門の方々と対等に議論していく能力を身に着ける必要がある。目指すビジネスに関する顧客への深い観察力、課題解決の専門知識や技術力、あるいはそれを説明できる表現力など、自分の能力をできるだけ磨くことは重要だ。それでなくては会社と対等に議論できない。しかし、自立を目的とするマインドに転換できれば、自発的に学びたくなるし、仕事が楽しくなるし、夢を描くことができる。

個人が自立して企業や行政や政治を客観的に評価し、自ら社会課題に取り組む日本にしていきたい。

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