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【レポート】企業変革実践シリーズ第16回「HOWからWOWへ〜アートで、社会や会社を変える〜」

開催日:

2022年1月19日(水)、DBICでは企業変革実践シリーズ第16回として「HOWからWOWへ 〜アートで、社会や会社を変える〜」をオンラインで開催しました。講師の赤澤岳人さんは、人材会社での経験を生かし、「企業理念を壁画にする」というオフィスアートを中心としたアートの企画・プロデュースを実践。多種多様な分野の企業から制作の依頼を受け、WOW実現のために妥協しない作品を提案し続けている人物です。2020年3月には帰宅困難区域が解除された福島県双葉町で壁画アートを展開し、心を動かすWOWでの復興に尽力するなど、日本各地で見る人を感動させる壁画を作り出しています。今回の実践シリーズは、DBICディレクターでアートシンキング担当の岩井秀樹と「絵を描きたいのではなく、会社を元気にさせたい」赤澤さんとの対談を交えながら進行しました。

冒頭、岩井ディレクターから、DBICにおけるアートシンキングの取り組みについての説明がありました。DBICでは昨年から「DX QUEST」の一貫としてアートシンキングのプログラムを提供し、8月から10月にかけて武蔵野美術大学准教授で彫刻家の冨井大裕(とみい・もとひろ)氏の指導の下、アートシンキングのトレーニングプログラムを実施しました。何故、DBICがアートシンキングに取り組んでいるのかーー。DBICでは日頃から、「会社というメガネを通して自分や社会を見ていませんか?」という問いかけをしています。そうした姿勢でいることによって、「商品やサービスに付加された本来の価値を見つけられていないのではないか、会社というメガネは捨て去るべきです」。同時に価値を発見する力として、「おかしいと思う力」「試す力」「捨てる力」「人とつなげる力」「関連づける力」「気づく力」「挑戦する力」が大切なことを思い起して欲しいと強調しました。さらに、アートシンキングやデザイン思考を取り入れたからといって、それを活かす組織マネジメントや従来とはまったく違う業務プロセスを構築しなければその効果が得られないと岩井ディレクターは念を押していました。

続いて登場したのが、株式会社OVER ALLs代表の赤澤さん。アートで「楽しい国、日本」を実現しようとしており、1人ひとりが自分のWOW(好き)を表現できて、社会と"共感"できる国をつくろうというのが目下のテーマだそうです。恵比寿のDBICオフィスに講師として現れた赤澤さんは、「THE OVER ALLs」という文字が描かれた白のパーカー姿に半分金髪というインパクトある出で立ちで登場しました。ただし、口上はまさに"立て板に水の如く"、一気にWOWを表現した壁画アートにまつわる話しが展開されました。

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OVER ALLsの事業は4つの柱で構成。1)アートのセレクトショップ 2)壁画アート 3)オフィスアート 4)Art X というものです。セレクトショップは東京・目黒で展開しており、無名のアーティストの作品をメインに扱っているのが特徴だそうです。講演は、パートナーで画家の山本勇気(やまもと ゆうき)さんが描いた壁画アートとオフィスアートの2つの制作話しをメインに展開されました。
最初の事例では、すでに何店舗か手掛けているスターバックスの下北沢店や渋谷パルコ店の壁画の紹介。「サイレン」というスタバの人魚をモチーフに、彼女が横たわって、ギターに化した自分の尾ひれをつま弾いている「天はグルーブ」という壁画のほか、渋谷パルコ店での渋谷の街並みの俯瞰地図。ただ、常に変化している渋谷というコンセプトを反映させるために、コーヒーを飲んでいるお客さんの横でアーティストが新しい壁画を描く仕組みを取り入れているそうです。沖縄のトレーラー型ホテルでは、世界を車で旅する夫妻と各地で出会ったアーティストたちとの心象を描いたストーリー壁画を制作。コロナ禍で宿泊客が激減していたホテルでしたが、この壁画のお陰もあり、今では広告会社のPV撮影のメッカになっているそうです。 それ以外にも、パブリック施設での壁画を多く手掛けており、事例としては福岡の港地区が紹介されました。青年商工会議所の人たちが港の活性化のためにマルシェを開設するにあたって、活性しようとしている象徴的な壁画をという依頼を受け、5階建てビルの壁面いっぱいに「海賊たちの楽団」の絵を描いたそうです。

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いま、依頼が急増しているのが、「オフィスアート」だそうです。ここでは会社のWOWを壁画アートにすることによって、社員に伝える(押しつける)のではなく、感じてもらうことを心掛けているとのこと。例えば、「企業理念を絵にする」仕事。名古屋市の警備会社のエントランスに描いたものは、「警備員2人がおでこを突き合せた姿」。「ほんのちょっと良い明日のためにとことんまで」という企業理念を表したものですが、取材から制作まではかなりのご苦労があったようです。
赤澤さんは、白黒テレビがカラーテレビに変化した昭和の時代、大手家電メーカーが標榜していた「SPEC」から、今は「EMOTION」になっていると強調。現代は、「楽しい」「アガる」「面白い」「おしゃれ」「これ好き」「エモい!」など"WOW"が中心になってきている。それなのに、会社の上司は、ついつい「仕事をナメるな」「エビデンスを出せ」「数字は上がるのか?」「前例がない」「好き嫌い言うな」と発してしまっている。
また、冷蔵庫を例に、もう容量や省エネを謳う時代は終わったと言います。例えば、ビールが6本しか冷やせないけれど、スター・ウォーズに登場する「R2‐D2」の姿をしているハイアールアジアの実物大移動式冷蔵庫(約100万円)が数年前に完売したケース。次に、赤澤さんが最近購入したテレビのリモコンの話しでは、韓国製1つと日本製の3つのリモコンを比べながら性能とデザインについて触れましたが、日本の大手メーカーは消費者に怒られないように懸命に設計していると指摘。「もう、会議の模様が手に取るように分かります。とにかくHOWを詰め込んでいるだけ」と落胆することしきりでした。
続いて、「iPhone」の話し。iPhoneの箱は、敢えて開けにくくし、蓋をあけるのに約7秒間かかるようにしていると赤澤さん。SPEC重視の世界では、箱は頑丈で開けやすいのが当たり前。ところがAppleはそれを捨て、人が最もワクワクしイライラしない限界と言われる7秒を意識して設計している。電源スイッチをオンにすると「こんにちは」と表示されるのも家電メーカーの常識から言えばご法度の50%充電。そうしたWOWの追求がAppleの119.2兆円という時価総額にも表れていると強調していました。

神戸市でプレハブ工場からスタートし、従業員4,000人に成長した中古車修理会社のお話し。新社屋のエントランスに社歴を描いて欲しいというプロジェクトで、なぜ、彼らが4,000人の会社に成長できたのかなど、数人の社員とディスカッションして出てきたキーワードが「ハブラシ」。創業当時からオーナーは中古の車をハブラシで懸命にホイールを磨き、シートも外して丸洗い。とにかくピカピカにして、お客さんに喜んでもらおうという思いを込めて出荷していた。
赤澤さんが最初に提案したのは、関西の会社ということも忖度して、会長に勇退したばかりのオーナーが「いらっしゃい」という姿を描こうというもの。それに対して、若手メンバーからはオーナーの顔は伏せませんかと。これからは自分たちが主役になって「いらっしゃい」と言わなければいけない。そう思うから、別の内容にして欲しいということで、結果、多くの社員が登場して仕事にまい進している壁画を制作したそうです。
トヨタ自動車のグループ会社トヨタコネクティッドから依頼されたのがトヨタの歴史壁画。前身の自動織機製造の時代から現在のトヨタの姿を描いた仕事が終了したと思ったら、各国の役員が集合する部屋に「未来を描いて欲しい」という依頼。赤澤さんは、様々な角度から取材をし、結論に達したのが、モーターショーで見た1人の子供の姿で、それをモチーフに7人の子どもたちが空を見て何かを追いかけている「虹をかける仲間たち」。

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パート2では、福島県双葉町で描かれた壁画の数々が紹介されました。
最初にPPTで投影されたのが、「原子力明るい未来のエネルギー」という横断幕。双葉町は、過去10年間、誰も入れなかった町です。
赤澤さんらが最初に掲げた壁画のテーマは、「HERE WE GO!!!」
東京で偶然知り合った双葉町出身の高崎丈(たかさき・じょう)さんの人差し指をモチーフに"ココ"を指した壁画。10年ぶりに双葉町に帰ってきた時に、WOWと感動してもらえるための壁画を描きたいという思いが込められたものです。壁画制作のために赤澤さんは双葉町出身の多くの人々に取材。テーマは「思わず、笑ってしまうことは?」だったそうです。その第一弾が地元で居酒屋を営んでいたマスター・高崎さんの人差し指の壁画であり、古くから愛されてきた定食屋の名物お母さんの笑顔などでした。そうした人を描いた壁画が話題になりはじめ、全国紙の1面で紹介されたり、地元のテレビ局で紹介されたり。そうした流れに乗って駅前での壁画が今も増殖中で、2021年には「双葉町に新しい会社が誕生」したそうです。
赤澤さんは、ヤフー掲示板で「売名行為だ」とか「何の意味がある」と書かれても笑い飛ばしながら、「上下水道などのインフラが整備されてもまったく人が戻って来なかった町で壁画を描いていったら新会社が出来上がった。これこそがWOWの力なのです」と目を輝かせていました。ここから先はもう一度、HOWに戻っていく。そのHOWの力で具体的な復興を成し遂げてもらいたい。「感動から行動へ」。WOWの力を証明したくて、ひたすら描き続けていますとのことでした。

次のパートからは、赤澤さんと岩井ディレクターの対談形式での進行となりました。
岩井ディレクターは、現在も福島県在住で、震災の後、石巻市をはじめ様々な場所でアートを描く人々や作品を見てきたそうです。しかしながら、心底、作品の意味を感じたことはなかったと言います。赤澤さんは、「それは絵を描きたいアーティストが来て、絵を描いていっただけだから」と分析、「僕たちは、双葉町にWOWを起こしたいから絵を描きました。絵より楽な方法があったとしたら、そちらを選択していました」と。また、「バンクシーは、資本主義社会や物質社会への警鐘を鳴らそうと絵を描き続けていると思う。ただ、彼が取り入れているのはアートとしては1番チープな型紙にスプレーしているだけのステンシル技法。絵をボム(bomb)して人々が共感していることに価値を見出しているだけ。だから、オークションで億の値段が付いたと思ったら、シュレッダーにかけることも彼としては一貫している」と語っていました。
岩井ディレクターは、建築業界における復興支援でも、仙台市に大きな事務所を構えていたからビジネスとしてやるケースが少なくないと語る。「本当に住民を見ていますかと言いたいですね」と。そうした観点は震災の復興支援の話しだけではなくて、普段の商品開発においても一緒なのだろうと思います。"会社メガネ"を通さないで自分がどう感じるかが大切。1人の人間として社会をどう見るか、どう生きたいか、きちんと人と向き合って考えられるか、それが出来るようになったら、アートシンキングが出来たということですと解説。

続いては、OVER ALLsのWOWを引き出すプログラム「null」についてのお話しでした。これは、参加者に白紙のキャンバスを渡して絵を描いてもらうというプログラム。わざと長方形のキャンバスを配る。好きなように描いてというのが課題。そうすると優秀な人ほど、「縦ですか、横ですか」と聞いてくる。「白いキャンバスに絵を描くことって、テーマをどうする、構図は、絵具で何色にするかという意思決定の連続」。もう1つのnullの目的は、究極のフラット・コミュニケーションを体感してもらうこと。皆で絵を描き、作品について意見交換する場には、上下関係が存在しない状況が生まれるそうです。

最後のテーマは、「会社で何ができそうか、DBICで何ができそうか」でした。
岩井ディレクターは、アートシンキングを受講した人が会社に持ち帰ると、「それって、いつ儲かるのか」、「いつ結果が分かるのか」という上司の意見で潰されるケースが少なくない。会社だから、どこかで収支は見ないといけないけれど、あまり急がない文化が欲しい。「アートとはこういう特徴があるもの。だから、自分の会社ではこういう意味があるし、どのようにすべきなのか、今の商品・サービスは本当に良いものなのか、意思決定が遅くないか」などの課題を共有するなかで、DBICとして、アートシンキングを軸にした新たなサービスを提供していきたい、と結んでいました。

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【スピーカーご紹介】

赤澤岳人(あかざわ たかと)氏
株式会社OVER ALLs 代表取締役
http://www.overalls.jp
28歳まで無職を経て、29歳で株式会社パソナに入社。社内ビジネスコンテストにて優勝し、「人材による事業承継」をテーマに社内ベンチャーを起業。その後、2016年、画家の山本勇気とアート会社、株式会社OVER ALLsを設立。人材会社での経験を生かし「企業理念を壁画にする」オフィスアートを中心としたアートの企画・プロデュースを多数行い、依頼殺到中。2020年、目黒通り沿いにアートのセレクトショップをオープン。4期連続で増収増益を達成。アートとビジネスの文脈でのメディア出演多数。「アートで日本を楽しく」をテーマにアートと社会の架け橋になるアートプロモーター×アーティストとしてコンセプト作りから関わっている。今、まだ先行きの見えない社会に"アートの力"で、前向きな変化をもたらそうとしている。
現在はオフィスに企業理念などを描くオフィスアートに注力している。かつての仕事場をアートで彩り、新たな場を作り出し、社員の団結を高めたり働く意欲を高めたいという企業が増えている。オフィスの他、飲食店や美容室、公共の壁など、あらゆる所にアートを仕掛けている。
2020年3月に帰宅困難区域が解除された福島県・双葉町で壁画アートを展開。どう復興するかというHOWではなく、心を動かすWOW!の復興を目指し、WOW!の力を証明しようとしている。

デジタルビジネス・イノベーションセンター(DBIC)が活動を続ける理由

設立エピソード

2014年、世界で起きていることを肌感覚で確かめるため、半年をかけて世界を回った。そこで感じた危機感を日本企業に正しく伝え、行動を促すための研究会を発足するために奔走。26社の名だたる企業と世界有数の大学と連携し、デジタルビジネス・イノベーションセンター(DBIC)の立ち上げとともに我々のイノベーションジャーニーが始まった。

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