【横塚裕志コラム】カーボンニュートラル対策はどの程度やればいいのだろうか

「カーボンニュートラル対策にはコストがかかる。どの程度やればいいのか、相場観がわからない。」という声を聞く。私も、1社だけ突出してやっても世界のCO2が急に減るわけでもないし、どう考えればいいのかがわからなかったので、ESG経営に関して世界の最新情報に詳しい夫馬賢治氏(株式会社ニューラルCEO)を企業変革実践シリーズのゲストにお迎えして、世界動向の最新情報を教えていただいた。
そのお話を聞きながら、「3つの危機感」を感じつつ、「どの程度」への解にたどり着いた。

まず、3つの危機感とは以下の通り。

  1. 世界では、気候変動による人類の危機、産業存立の危機を強く意識している
  2. 対応が鈍い日本企業がマーケットから追放されてしまう危機
  3. 温暖化に関する世界の情報が日本のメディアでは報道されない

それぞれの危機感を少し詳しく書いてみようと思う。

  1. 世界では、気候変動による人類の危機、産業存立の危機を強く意識している
    世界の自然災害による保険損害額が著しく増加しており、東日本大震災クラスの損害が毎年発生している。国連のIPCC(気候変動に関する政府間パネル)第6次評価報告書では海面上昇のリスクについて言及されており、欧米では街ごとに海面上昇リスクマップが作成され、不動産投資の判断に使われている。人獣共通感染症が増加すると考えられており、コロナなどの新型感染症のさらなる発生が想定されている。健康リスクの高まり、害虫被害の拡大なども現実化している。
    このような中、金融当局は、気候変動が進めば破壊的な金融危機が起きると予測している(国際決済銀行「グリーンスワン」2020年1月)。そして、世界のGDPの90%を占める国々で、2050年カーボンニュートラルの宣言が行われている状況にある。
    2022年の世界経済フォーラムで、経営者が考える経営リスクのアンケートでは、1位が「気候変動対策の失敗」、2位が「異常気象」、3位が「生物多様性の喪失」となっている。
    日本も2030年の温室効果ガス削減目標46%を掲げて取り組みを強化しつつあるが、その道筋がはっきりせず、ここでもまた、日本が世界から取り残されている感が強い。
  2. 対応が鈍い日本企業がマーケットから追放されてしまう危機
    上記の危機感から、国連は「民間セクターが強力に取り組まないと政府やNGOだけでは対策が進まない」と考え、2015年にSDGsを宣言した。それを受けて機関投資家が立ち上がり、強力に活動している。取り組みが鈍い企業への投資を控えたり、株主総会で役員交代を提案するなど具体的な行動が始まっている。また、最近では、金融機関が対策の状況をみて投資や融資の判断を行うとか、保険会社が対策を進めている企業に契約先を限定するなど、カーボンニュートラルへの強力な加速が民間レベルで始まっている。各企業の経営内容の開示でも、カーボンニュートラルへの取り組み状況や、取引先の取り組み状況まで開示することが求められる時代になってきている。
    従って、取り組みを怠ると産業界のチェーンの中から排除されてしまう危機に陥ることも想定される。例えば、一般企業が経営内容を開示するときに、取引先の対策状況まで開示することが求められる。そうなると、クラウドサービスをどこに委託しているか、とか、データセンターをどこに委託しているか、まで開示することになり、カーボンニュートラルへの取り組みが進んでいる企業を選択せざるをえなくなり、再生エネルギーだけでサービスしているAWSなどが選ばれる比率が大きくなる。結果、日本のIT企業が選ばれないという事態も想定される。
    また、企業間の取引だけでなく、B2Cでも、できるだけ対策をしている企業の製品を買おうとする市民が間違いなく増えていくことも容易に想像できる。
  3. 温暖化に関する世界の情報が日本のメディアでは報道されない
    日本の新聞・テレビなどのメディアの記者は、日本語情報から情報を採ることがほとんどなので、世界での取り組みがほとんど報道されていないようだ。私たちが目にする媒体で世界の情報が報道されなければ、経営者を含む多くの日本人が世界の情報から隔絶される状態になってしまい、世界から取り残されてしまうことになる。これは、温暖化に限られた話ではなく、デジタルもセキュリティも同様だ。この日本の課題はとてつもなく深刻な問題で、それこそ、官民挙げて考えないといけない喫緊のテーマだと思う。

最後に、冒頭の「どの程度」への解だが、既に答えは明白だ。
日本企業は、死に物狂いで「カーボンニュートラルへの取り組み」を行うことが必須だ。そうでなければ、マーケットから追放されてしまうからだ。一方、コストがかかることも事実だ。だから、対策コストを大きく削減するための基礎研究、デジタルを活用したコスト削減方式を新しく考える、いくつかの企業で共同研究する、サーキュラーエコノミーを実現するためのコミュニティをつくる、などなど、現状を大きく乗り越えるイノベーションの実行が待ったなしの課題となっていると考えるべき、が解であろう。

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