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【横塚裕志コラム】自分の考えを正しく伝える言語化能力

21世紀型の教育の中で一番重要とされているのがこの能力だ。
オランダの小学校の先生たちに「教育に一番大切なものは?」という質問をすると、全員が「この能力を育成すること」と答えるようだ。また、合格率2%未満という超難関のミネルバ大学でも、この能力育成を主眼とするので、講義形式の授業は一切なく、20名以下の少人数で事前課題を提出した学生だけでのディスカッション中心の授業にしているそうだ。おまけに、教員は90分間のうち最大10分だけしか話してはいけないというルールまで作っているそうだ。

私もこの能力の大切さと育成の難しさを感じている。私自身、このコラムを書いたり、DBIC VISION PAPERを執筆したり、研修プログラムでメッセージを発信したりしているが、「正しく伝える」ためにはどのように表現したらいいのか、とても悩む。特に、自分の考えを整理することもままならない上に、読み手・聞き手が何を語ると感じていただけるのかがわかないことが多い。
この「自分の考えを正しく伝える言語化能力」の難しさは、現役時代にたびたび遭遇している。一例をご紹介する。

新しい業務プロセスと新しい情報システムを定着させるために、現場に出向きその説明会を行うと、以下のようなことが起こる。
ビジネス側の人:「この業務改善は、お客様の立場に立って改善したものであり、スピード感を持って、システムの操作に慣れていただくことが重要です。」という感じで、プロジェクトの趣旨や目的を具体的に語らずに、美辞麗句を並べる。たぶん、自分の考えがないのだと思う。
システム側の人:「このシステムは、1年3か月の期間をかけて、タイトなスケジュールの中、必死に開発したものです。」という感じで、利用する側が何を聞きたいかを考えずに、自分の苦労だけを語る。何を伝えるかがわかっていないのだと思う。
大企業の社内のビジネスコンテストやスタートアップのプレゼンなどでも、同様のケースをよく耳にする。
大げさと思われるかもしれないが、企業人の多くは残念ながら、自分の考えを整理することも他人に説明することも不得意だ。それはある意味仕方がない。小学校から大学までその能力の訓練を受けていないし、就職してからも意識した訓練は受けていないからだ。

欧米では、21世紀の社会ではこの能力が最重要と位置づけている。そのために、育成カリキュラムを先生の講義形式から学生が発信する形式に大きく変革し、小学校から大学に至るまで一貫してトレーニングしているようだ。要するに、この能力の育成方法は「考えを整理して他人に伝える」機会をできるだけ多く経験することに尽きるようだ。簡単に会得するプログラムは存在せず、自分の考えを整理して正しく伝えるという作業を繰り返すしかないようだ。スポーツの鍛錬と同じで、練習と試合を繰り返しながら時間をかけて上達していく道しかないようだ。

さて、日本でこの能力をどのようにとらえるべきだろうか。私は、世界と同様にとても大事な能力として認識し、人財育成の中心に据えるべきテーマだと考える。その理由は以下の通りだ。
この「自分の考えを正しく伝える言語化能力」は、新しいビジネスを創造する観点でも、新しい日本を築く政策立案の観点でも、とても重要な能力であると考える。それは、私たち一人ひとりが「自立」するための基盤として必須の能力と考えるからだ。
例えば、企業人であれば、会社という組織に属するという感覚ではなく、一人の人間として会社と対等に向き合い、自分の人生観の中でいい仕事をする、という感覚が大事で、この「自立」を生み出すためにこの能力が必須だからだ。行政分野においても、政治家や上司に忖度するのではなく、自分の考えを市民とぶつけ合いながら市民とコンセンサスを得ていく態度が重要と思うからだ。

そして、この「能力」は大きく二つの能力で構成される。それぞれ日本人にとっての弱点を改善していくために必須の力だと思う。

  1. 自分の考えを持つこと、そして、それを構造的に整理すること
    日本人は特に自分の考えを持つことが苦手だ。しかし、先行き不透明な時代、一人ひとりが自分で考えることが創造性や生産性に有効であり、常に自分の意見を持つ習慣が何より大事。そして、立ち向かう課題は複雑なので、自分の考えを構造的・俯瞰的にとらえることで、課題の本質をえぐることができる。
  2. 言語化して「正しく」伝えること
    伝えるためには、どういう切り口から説明すると相手が関心の心を開いてくれるかを感じることが必要。また、それを言語によって正しく表現する技術がかなり難しい。しかし、これができないと仲間を増やすことや、多くの意見の中からコンセンサスを探すこともできない。社会課題は複雑なので、〇か×かということでは整理できない。その中庸のコンセンサスを探す能力が必要だ。

では、日本でこの能力育成をどう進めればいいのだろうか。学校や企業の一部で取り組みが行われているものの、もっと意識した本格的な活動が必要だと思う。DBICも、変革リーダー育成プログラム「DX QUEST」の中で取り組み始めている。DBICは、この能力がまさに日本企業復活のための「信頼経営」そのものを実現していく必須基盤だと考えるので、日本中のいろいろな取り組みを応援するハブになっていきたいと考えている。

デジタルビジネス・イノベーションセンター(DBIC)が活動を続ける理由

設立エピソード

2014年、世界で起きていることを肌感覚で確かめるため、半年をかけて世界を回った。そこで感じた危機感を日本企業に正しく伝え、行動を促すための研究会を発足するために奔走。26社の名だたる企業と世界有数の大学と連携し、デジタルビジネス・イノベーションセンター(DBIC)の立ち上げとともに我々のイノベーションジャーニーが始まった。

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