主体性は 時間をかけた自己変容プロセスから生まれる

「世界を獲るノート」島沢優子著(2019年)では、アスリートとして世界レベルで活躍するためには「自分で考える主体性」を選手自身が持つことが成功につながっていると分析している。そして、卓球の伊藤美誠選手や早田ひな選手、柔道の朝比奈沙羅選手が毎日コーチとの間で交わすノートの存在が、その主体性を育てるための有効なツールになっていると紹介されている。
島沢氏の主張を要約すると以下の感じだ。
「旧来の軍隊式の根性論による厳しい練習では強くなれない。コーチの言うことをハイハイと聞くだけでは上達できない。『自分から考える、動く』というマインドセットを持たない限り上達しない。そして、そのマインドセットは時間をかけて自己と向き合いながら自己を変容させるプロセスによって醸成されていくものだ。その変容のためにはメンターとしてのコーチの役割が大きい。これらは脳科学の観点からも説明されている。」

そして、名コーチがそろって日本人の主体性のなさを感じ取り、主体性の育成を図ることで選手やチームを強化しているとある。著書から一部を以下に引用する。
サッカーのイビチャ・オシム氏
「日本人はコーチから右へ行けと言われたらみんな右へ行く。欧州の選手はコーチが右だと言ったら知らん顔して左へ行く。日本人の従順さが残念。初めて斜めに走った選手にだけブラボーと拍手した。」
ラグビーのエディー・ジョーンズ氏
「ラグビーを教えるよりも選手を自立させることの方が難しい仕事だった。」
ゴルフのガレス・ジョーンズ氏(畑岡奈紗選手らを教えた日本ナショナルチームのヘッドコーチ)
「日本のアスリートが抱えている問題は、多くの競技に通底している。」

スポーツの分野では優劣がはっきりするのでわかりやすい事例だと思うが、同じことがビジネスの分野でも言えるのではないか、と日々感じている。「自分で考える、動く」「自分の独自の意見を持つ」という主体性を持ち自立することが、ビジネスを成功させるための大きな要素になっている。さらに言えば、変革なりイノベーションを実行するためには必須のマインド能力だ。そして、残念ながら、日本人の特徴として「自立できていない」状況はビジネス界でも同様の問題がある。それは、DBICでのワークショップの参加者の状況を見ればすぐに感じる点だ。周りの空気に合わせようとか、何が正解として求められているのかを探ってしまう習慣がまとわりついている人がほとんどだ。また、ITベンダーは「お客様が求めるものを作る」という受託モデルのせいか、自分の意見を言うマインドが一般の業界よりさらに低い傾向を感じる。もちろんお客様の課題もある。DX人財の議論の中で、テクノロジーの話題が多く、この主体性の議論がほとんどないのが不思議でならない。DXという今までの常識を覆す変革を実行するには、自立した強い意志が何より重要だ。

では、「主体性を出せ」と上司が部下に言えば、主体性が出てくるのだろうか。
社員を社内で昇進競争させれば、自然と主体性が養われるのだろうか。
社員が1000人いれば、主体性がある人は一定の確率で存在するのだろうか。
答えはすべてNOだ。主体性は、簡単には持てない。主体性は、時間をかけて自己変容するプロセスを経験することで、少しずつ醸成されていくものだ。アスリートのコーチとの交換ノートのやり取りをみると、それがよくわかる。少しずつ少しずつ選手が自分と向き合い、都度課題を感じ、それを言語にして発信することで自分の体がそれを感じ、行動が変わっていく。そういうことを毎日毎日繰り返すことで、主体性が醸成され、自立した選手に成長していく。さらに厳しいのは、そのプロセスのなかで脱落していく人が多く、自立できる人の確率はかなり低いのが実態のようだ。

あらためて言うと、ビジネスマンにおいても「主体性」「自立」のための自己変容プロセスが必要で、そのための時間をかけたプロセスとメンター的なコーチの存在が必要なのだ。それでも全員が自立できるわけではない。DBICではこの2年間それに気づき真剣にコーチングに取り組んで来ており、やっと成果も見えて来ている。ますます個人変容の重要性を認識している。
今までそんなことをしなくてもやってこれたじゃないか、というご意見もあるかと思うが、やってこれていないのが現実ではないかと反論したい。30年の停滞の要因はこの辺りにもあるのではないかと考えるべきではないだろうか。
経営者は、もっと「主体性」「自立」の醸成・育成を人財の課題として認識すべきと考えるが、いかがだろうか。

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