ページ内を移動するためのリンクです。

【横塚裕志コラム】若い校長が挑みつづける ほんとうの育成モデル ~「信頼経営」の姿を求めて~

少子高齢化が進む典型的な地方都市の鳥取市に2014年に開校した青翔開智中学校・高等学校の織田澤博樹校長を企業変革実践シリーズ第19回 のゲストにお招きして、学校が目指している生徒の育成モデルについてお話を伺った。その学校経営の考え方の中に、日本企業が目指すべき「信頼経営」のヒントがあるのではないか、という仮説を持って臨んだ。案の定、ヒント満載のお話だったので、その概要を記録する。このレポートは、織田澤氏のお話を私が理解した範囲で私が言語化したものであり、内容に関する責任はすべて私にある。

DBICは、昨年度発刊した「VISION PAPER 2」の中でこれからの時代を生き抜くための新しい経営方式として「信頼経営」を提唱した。今年度は、その内容をより明確にする活動を行い、「VISION PAPER 3」として発信するつもりだ。「信頼経営」に関する解像度はまだまだ低い状況だが、織田澤氏のお考えを拝聴するとその香りがプンプンしてくる。その香りを以下に記録する。

  1. 生徒育成の目的:東大より灯台を目指す
    東大に代表される偏差値が高い大学への合格を目指すのではなく、灯台として掲げる人財像、「日本から精神的に脱出・自立し、世界のどこでも働くことができ、消滅可能性のある鳥取の家族を支援できる大人」を目指すことを、育成の目的として明確に決めている。そして、それを実現するために「探究」という教科に力を入れている。「探究」は、デザイン思考・アート思考を使いながら自分たちで社会課題を見つけ、実際の課題当事者との対話を行いながら解決策を考える教科で、中学1年から高校1年まではグループ研究、高校2年と3年では個人での論文執筆としている。この「探究」を学ぶ中で、課題発見力や創造力といった日本人が不得意とする分野での能力が顕著に向上している。加えて、結果として、海外の大学や東大など偏差値が高い大学への進学実績が出ている。総合型選抜(旧AO入試)・学校推薦型選抜での合格が60~70%というのも特徴だろう。
    結果が出たからいいものの、「偏差値が高い大学を目指さない」というビジョンはかなり学校ビジネスとしては挑戦的だったと思う。しかし、「教育界から変革して本来の人財をつくる」という校長の覚悟が、子どもを持つご家族の「それが本来の育成モデルだ」という共感を呼び、校長のビジョンにかける真剣な想いが、ご家族からの学校への信頼につながったのだろうと感じた。その信頼の輪が教員にも広がり、3者の熱い信頼が結果を出してきたのだろう。織田澤氏も「最初の2年くらいは試行錯誤の連続だった」とおっしゃっていたが、それを乗り越えられたのは、このビジョンに対する3者の信頼だったと思うし、その信頼がさらなる飛躍を生んだのだと思われる。ビジョンやパーパスを掲げても神棚に上げてしまう企業が多い中、ビジョンを愚直に貫き通す織田澤氏の真摯さが多くの人の信頼を勝ち取っているように感じる。
  2. 目的実現のための取り組み①:フラットな文化の醸成
    先生と生徒、校長と教員の関係は、元々上下の関係になっている。それを対等な関係に変革するために、学校の空気感・文化を何年もかけてフラットなものにする努力を続けている。教員の上から目線を徹底して排除し、「生徒指導」を「生徒支援」、「進路指導」を「進路支援」とするなど隅々に配慮している。職員室では、生徒が一段高い席に座り、先生を見下ろして質問するレイアウトにしている。
    その理由を織田澤氏はこう語る。「空気や文化をフラットにすることで、生徒が伸び伸びと自分の思いを発信し、創造的に活動する。その結果、生徒の学びが深まり、考える力が伸びていく。文化祭では、生徒の思いで作るといいものができるが、先生主導だと面白くないものができる。これは歴然としている。」
    フラットな空気感が、先生は生徒が自分で考えることを尊重する、という先生と生徒との信頼をつくっているように思われる。
  3. 目的実現のための取り組み②:目的を共感する教員だけを採用
    灯台を共感する教員だけを採用している。共感する教員だけで構成しているので、校長から教員への信頼があり、教員の自由度はかなり高い。全員が校長先生という信頼ぶりで、教員一人ひとりのアイデアで面白い授業がどんどん展開されている。先生の主体性、自立性が、生徒のお手本にもなっている。先生が鳥取砂丘でハンドボール大会を主催したり、生徒が鳥取でのeスポーツ大会を主催してみたり、中学生が小学生のための英語塾を主催してみたり、いろんなことが起きている。
    教員の採用基準が面白い。「クレイジー・シンプル・カジュアル」だそうだ。常識にとらわれない人、難しいことを1分で語れる人、上から目線ではない人、ということだ。
  4. 目的実現のための取り組み③:自分を大切にする文化
    校長は言う。「自分を大切にする考え方が日本人に不足している。その不足している理由は学校教育に問題がある。生徒と教員に、自分と家族を大切にするように言っている。授業前の部活の朝練とか、夕方以降の補習補講とかはない。自分を大切にすることで、自分を磨くための活動が増えるし、自分の感性を大事にした課題発見につながる。会社のために家族を顧みずに働く、というような大人にしたくない。」
    自分を大切にすることが、自分の意見を素直に発言できるベースをつくり、それがその個人特有の創造性を育み、人を自立させていくように感じた。そして、自立した人同士の対話が、相互の熱い信頼を形作っていくという姿に見える。

以上の4つの要素があったかい信頼の空気感をつくっている感じがする。それぞれが今までの常識とは違う感覚なので、理解したくないと思う企業人が多いかもしれないが、私はこの感覚が企業も目指すべき灯台ではないかと感じ始めている。

デジタルビジネス・イノベーションセンター(DBIC)が活動を続ける理由

設立エピソード

2014年、世界で起きていることを肌感覚で確かめるため、半年をかけて世界を回った。そこで感じた危機感を日本企業に正しく伝え、行動を促すための研究会を発足するために奔走。26社の名だたる企業と世界有数の大学と連携し、デジタルビジネス・イノベーションセンター(DBIC)の立ち上げとともに我々のイノベーションジャーニーが始まった。

SHARE