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【横塚裕志コラム】「信頼経営」の5つの要素を取り出してみる

前回のコラムで、青翔開智中学校・高等学校を率いる織田澤校長の学校経営の考え方を紹介した。この考え方はまさに「信頼経営」の要素を十分に含んでいるものと仮説を立て4つの特徴を整理したが、今回一つ加えて5つの要素で整理してみる。 織田澤校長の経営戦略の軸は以下の通りだ。

  1. 育成すべき人財は、大学の入学試験でいい点数を取る人ではなく、世界のどこででも生きていける自立した人だという本質的で挑戦的なコミットを宣言
  2. 空気感や文化を「フラット」とすることを決め、先生と生徒、校長と先生の関係を対等な関係とし、授業の内容は先生を信頼して任せる
  3. 自分を大事にする文化を根付かせ、自分を犠牲にしてまでも学校に尽くすとか、部活をするという人には育てない
  4. 学校の目的、文化、空気感に共感する先生を採用し、生徒・家族を募集する
  5. 挑戦的な人財育成を目標としているので、それを達成するための方法は未知のことがほとんどで、常に新しい方法を学び、試行錯誤を繰り返している

この5つの要素を、企業の経営に当てはめた言葉で言い換えると次の通りとなる。

  1. 企業が社会の中で存在意義を放つために、本質的で、挑戦的な「存在意義」を明確に定め、社会に向けてコミットする
    (その企業独自の考え方をステートメントにして表現することが必要で、抽象的な「お客様第一」というだけでは存在意義にならない)
  2. 社内の文化・組織を全員が対等という考え方で徹底するとともに、権限を担当者に委譲して仕事は任せ、管理職は管理せずに支援する
    (上下の命令系統をベースにする組織、予定調和になびく感覚など、従来のピラミッド型組織の文化を180度転換し、自立・対等を尊重する文化に変革する)
  3. 社員は企業という洞窟から自立し、自分と家族の幸福を第一に考えるなかで、企業の存在意義に共感しつつ、自分の想いを自由に発揮する
  4. 上から目線・管理する文化の管理職、指示待ちの担当者を、自立・フラットに変容・覚醒するトレーニングを行う
    (3、4ともに、個人のマインドを大きく変えるトレーニングが必要となる)
  5. 挑戦的な存在意義を実現するには、今までの経験則が使えないので、常に世界から学び続け、行動して改善するという方法を取り続ける

この5つの要素は、VISION PAPER 2でインタビューした4つの国の方々のお話を受けて、その感覚に近いところで整理したつもりだ。この「信頼経営」は、日本企業の多くが使っているピラミッド型の上下関係をベースにした管理型経営とは大きく異なる。「信頼経営」の解像度を上げるために、それを実践している企業の経営スタイルを調査したり、行動されている方々のお話を集めてみようと思う。
まず、グーグル合同会社 執行役員 人事本部長 谷本美穂氏(日本の人事部「HRアワード2021」最優秀個人賞)の受賞インタビュー(2021.12.20)から抜粋する。

――谷本さんは、現在の日本企業の人事部が抱えている課題とは何だとお考えですか。

他社の人事の方から「どうすれば個を大事にする組織にできますか?」とよく相談されます。今は自律した社員を育てていき、個を生かした組織に日本企業が変わっていく転換期にあるのでしょう。私がお伝えしているメッセージはシンプルで、「社員を管理しない」ことに尽きます。GEもグーグルもそうなんですが、そもそも人事には人事権がありませんし、社員を管理するという発想自体がありませんでした。会社が掲げるビジョンやミッション、追いかけている目標をきちんと透明性を持って共有する。それにひもづいた、それぞれのジョブのミッションや役割を明確にする。ミッションや目標の実現に向けてどう会社に貢献できるのか、貢献していけるのかを社員自身に考えてもらう。それを上司と話し合い、実践してもらう。その実践のやり方は100%、社員に委ね、信頼する。だから、どこで何時からどのように仕事をしてもかまわない。貢献というアウトプットを持って評価する。これだけのことなんです。

――リモートワークを導入した企業では、遠隔から社員を管理しづらいことに戸惑いを感じている方も多いと聞きます。

管理することこそ人事の役割だと捉えて、長くやってこられた方もいますよね。それが主流だった時代では、そのやり方でよかったのだと思います。しかし、いかに新しい価値を創造していけるかがカギとなる現代では、トップダウンで生まれるものには限りがあります。みんなのいろいろなアイデアや意見をいかに引き出して、生かせるかが組織の力になる。だからこそ、社員を管理せずに、自律と成長を促したいと考えている人事の方が増えているのではないでしょうか。オーナーシップを持って、社員が自分で自身のキャリアを探求していく必要があります。その仕組みをつくって、支援していくことが人事の役割だと思います。「そうは言っても、うちの社員は管理されるほうが好きなんですよ」と他社の人事の方に言われることがあります。そんなときは「本当にそうですか?」といつも聞き返しています。グーグルだから、外資系だから特別ということはないはずです。グーグル日本法人の社員の7割は日本人ですし、前職で管理型の日本企業に勤めていた人も多くいます。それでも、「自分のやりたいことや意見が尊重される」「自分で自身の将来を切り開いていかなければならない」環境に身を置くと、そのことをポジティブに捉えて成長していきます。だから私自身は、管理されるほうが好きという意見には懐疑的で、会社側の仕組みの問題なのではないかと考えています。

谷本氏のお考えも、「100%社員を信頼し委ねる」「管理しない」という「信頼経営」に近い考え方だと推測される。加えて、「管理型の日本企業に勤めていた方でもその環境に身を置けばポジティブに捉えているので、会社側の仕組みを自立型に変えるかどうかの問題」というご発言に大いに勇気づけられる。
組織や人事制度は人事部の担当と決めつけてご自身では関心を持たない方が多い。自分の会社の大事な将来のことだから、人事部任せにしないで皆さんで議論を始めることが必要ではないだろうか。むしろ、私はこの「信頼経営」への大変革をDXの本命として「DX推進室」が起案するべきと考えている。DBICでは、このような意識の変革、文化の変革なしには日本企業の将来はないと考え、VISION PAPER 2で「信頼経営」を提言したつもりだ。大事なテーマなので、このコラムでは引き続き「信頼経営」をテーマにして調査したり、考えたりしていこうと思う。

デジタルビジネス・イノベーションセンター(DBIC)が活動を続ける理由

設立エピソード

2014年、世界で起きていることを肌感覚で確かめるため、半年をかけて世界を回った。そこで感じた危機感を日本企業に正しく伝え、行動を促すための研究会を発足するために奔走。26社の名だたる企業と世界有数の大学と連携し、デジタルビジネス・イノベーションセンター(DBIC)の立ち上げとともに我々のイノベーションジャーニーが始まった。

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