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【横塚裕志コラム】Spotifyの「信頼経営」

スウェーデンで生まれたユニコーン企業であるSpotify社を題材にして、「信頼経営」の要素を探ってみたい。直接本社に行きたいところだが、まずは「ユニコーン企業のひみつ Spotifyで学んだソフトウエアづくりと働き方」ジョナサン・ラスマセン著(オライリー・ジャパン)から学びながら核心に迫ってみる。

前回のコラムで、「信頼経営」の5つの要素を取り出して考察した。

  1. 挑戦的な「存在意義」の設定
  2. 「信頼して」任せる「フラットな組織・文化」
  3. 自分の人生を第一に考える「自立した社員」
  4. 管理しない管理職、自立する社員を「育成」する
  5. 過去の経験則に依存せず、「学び・行動・改善」のサイクルを回し続ける

加えて、グーグル合同会社の谷本美穂氏(執行役員 人事本部長)のインタビュー記事から、信頼して任せる・管理しない経営の重要さ、日本人でも実行できる、ということを教えていただいた。

さて、Spotifyの経営戦略は、スタートアップ時代から変わらず以下の通りだ。

  • 重視するのは、顧客・インパクト・学習
  • 常連客も収益基盤もないから、適切な市場への最適なプロダクト追求がすべて
  • 利益計画など立てられない、実験と学習の繰り返しで最適なプロダクトを探し出す
  • 従業員に権限を与えて信頼する(誰が顧客になってくれるのか、何がプロダクトにあればいいのか、未知のことばかりなので、行動量を増やすしかない)

特に注目は、少人数(8名以下)で、クロスファンクションな、自律した、必要な権限を持った「チーム」が、あらゆる活動の中心になっていることだ。新規プロダクトの開発、新たな市場への参入、株式公開の準備など、どの場合であっても自律した小さなチームが中心にいる。そして、このチームに与えられている権限と信頼が一般企業のアジャイルチームのそれと比べて格段に大きいということが重要ポイントだ。

一般企業のアジャイルチームは、仕事をプロジェクトという形で渡されるのが普通だが、それとは異なり、顧客の問題に対する解決策全般がチームの役割で、自分たちで考えて、自分たちで仕事を生み出す。到達すべきミッションがあり、何をどう開発するかはチームが決める。チームはミッションを果たすために自分たちに必要だと思う仕事を自分たちで生み出す。
これは、責任のありかたが根本的に異なる。事前に仕事が用意されていて、解決策があることを前提とするのとは異なり、チームにミッションを与えて、自分たちで解決することを促すのだ。権限と責任の両方をチームに与えることが、高速なプロダクト開発とイノベーションの基盤だと考えている。管理職は仕事の指示は出さない。指示を出すと、チームは仕事を自分ごとと思わなくなるからいい仕事にならない、という考え方だ。

次に、一般企業の側からの疑問、「チームに任せてもうまく進まないリスクをどう考えるのか」ということに対しての著者の回答があるので抜粋する。(「第3章 3.6自律・権限・信頼」から)
―― マネージャーや経営リーダーにとって、「指示しない」ということほど恐ろしいことはない。経営リーダーの皆さんはヒエラルキーに慣れ親しんでいることだろう。他人に何をすべきかを伝えることで大きく成功してきたんじゃないだろうか。
だが私から言えるのは、「任せる」というのがユニコーン企業のやり方だということだけだ。こうやって彼らはスケールさせている。だから、部下に権限を与えて信頼してみよう。そうした場合の彼らの働きぶりに、良い意味でびっくりさせられるかもしれない。
何を根拠に言ってるのかって? すごいユニコーン企業ですごいプロダクトを作っている従業員の多くは、従来型企業の出身者だ。ユニコーン企業で彼らが良い働きをみせているのは権限付与と信頼の度合いが違うからだ。
ユニコーン企業は単に優秀な人材を雇っているんじゃない。優秀な人材を作っているんだ。手ごわくてやりがいのある仕事を与えて、それを遂行できるだけの権限を与える。失敗したらサポートする。そうやって人を育てている。――

Spotifyの戦略を超概略だが俯瞰した。やはり、チームへの「信頼」と「権限委譲」が重要な戦略になっている。それが、彼らの基本テーマである「顧客」「インパクト」「学習」を効果的に実践できる組織形態・文化なのだ。未知の分野の事柄について都度上司の判断を仰いでいても、それが正しいとは限らないし前へ進む力を失うことになる。VUCA時代の未知の分野への挑戦は、フラット型が似合うのかもしれない。加えて、従来型企業出身者でも「信頼経営」という文化に入ると活躍できるという主張は、前回のグーグルの谷本氏と同様で、勇気づけられる。

さて、「信頼経営」のキーは、権限委譲したフラットな業務形態・文化だということがはっきりしてきた感じがする。そして、そのフラットな文化は、先行き不透明なVUCAの時代にフィットした経営方式ではないか、ということだ。
では、多くの従来型の企業が、ピラミッド型の経営をフラット型に変革すべきなのだろうか。次回のコラムでは、そのあたりを考えてみようと思う。

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設立エピソード

2014年、世界で起きていることを肌感覚で確かめるため、半年をかけて世界を回った。そこで感じた危機感を日本企業に正しく伝え、行動を促すための研究会を発足するために奔走。26社の名だたる企業と世界有数の大学と連携し、デジタルビジネス・イノベーションセンター(DBIC)の立ち上げとともに我々のイノベーションジャーニーが始まった。

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