【横塚裕志コラム】「未来人材ビジョン」(経産省)から学ぶ

経済産業省が5月に「未来人材ビジョン」(以下「ビジョン」と略)を発信した。

経済産業省「未来人材ビジョン」

本内容は、求められる人材像を描き、その育成のための雇用と教育の変革を提言したものだ。従来の延長線上にない革新的な主張であり、日本復活のための本質的な提案だと受け止めた。その特長を2点ご紹介し、学びたいと思う。

1.どんな人材が必要か

<「ビジョン」からの抜粋>
グローバル競争を戦う大企業の社長や役員の方をお招きし、「これから求められる人材像」を伺った。その結果、これからの時代に必要となる能力やスキルは、基礎能力や高度な専門知識だけではないことが分かった。次の社会を形づくる若い世代に対しては、
「常識や前提にとらわれず、ゼロからイチを生み出す能力」
「夢中を手放さず一つのことを掘り下げていく姿勢」
「グローバルな社会課題を解決する意欲」
「多様性を受容し他者と協働する能力」
といった、根源的な意識・行動面に至る能力や姿勢が求められる。

<私のコメント>
4つ挙げられている能力・姿勢・意欲は、新しい価値をイノベーションしていくことの重要性を強く主張している。特に、常識にとらわれるな、夢中になれ、社会課題だ、多様性とのコラボだ、という視点は、これまでの大企業のエリート像とは大きく異なっている。大企業の伝統を守り、組織一体となって、売り上げ目標を達成する、みたいなエリート像とはかけ離れている。今までの殻を破った、新しい時代の人材像をあえて発信した委員の方々や経産省の方々の気概を感じる。
一方、「次の社会を形づくる若い世代に対して」という表現に出ているように、10年、20年先の未来人材をイメージしている構想だが、私はそれでは「遅い」と感じている。現在の日本産業にすぐにでも必要な人材ではないか、と私は考える。「ビジョン」にも書かれている通り、日本の競争力ランキングは30位以下に低迷して数年が経過している上に、働き手が無気力な状態にあるとのアンケート結果もある。もっと現状に対しての危機感を持って、新しい人材を今すぐにでも育成することに着手すべきではないかと私は考える。

<「ビジョン」からの抜粋>
新たな未来を牽引する人材が求められる。それは、好きなことにのめり込んで豊かな発想や専門性を身に付け、多様な他者と協働しながら、新たな価値やビジョンを創造し、社会課題や生活課題に「新しい解」を生み出せる人材である。そうした人材は、「育てられる」のではなく、ある一定の環境の中で「自ら育つ」という視点が重要となる。

<私のコメント>
「ある一定の環境の中で「自ら育つ」という視点が重要」との指摘は大事な点だと考える。先の4つの能力・姿勢は、外形的な知識とかスキルではないので、外からインプットするというより、自ら気づき、内面から自分で醸成していくものだからだ。しかし、その「ある一定の環境」が難しい。「ビジョン」にも具体的な記述はない。私たちDBICが育成を志すイノベーション人財は、まさにこの4つの能力・姿勢と同じ方向だ。そして、その育成方法を、4年かけて試行しながら、「自ら気づく場」として開発した。4Dの考え方を基本とした「QUEST」というプログラムがそれだ。一人に半年くらい時間をかけながら、一人一人が自ら覚醒していく場をつくっている。「自ら気づく場」とか「時間がかかる」とかで理解が得られにくいプログラムだが、この「ビジョン」で改めてその重要性を感じている。より多くの方々にご参加いただくことが、日本復活への道だということを再確認させていただいた。

2.雇用制度について

<「ビジョン」からの抜粋>
「旧来の日本型雇用システムからの転換」とは、人的資本経営を推進することで、働き手と組織の関係を、閉鎖的な関係から、「選び、選ばれる」関係へと、変化させていくことである。多様で複線化された採用の「入口」を増やしていくことでもある。 これらを通じて、多様な人材がそれぞれの持ち場で活躍でき、 失敗してもまたやり直せる社会へと、変化していく。

<私のコメント>
雇用関係を「選び、選ばれる」関係へと転換させよう、という主張は革新的だ。「会社は一つの大きな家族」という従来の考え方を改めて、会社と社員とが対等関係になるんだという主張に新しい時代への決意を感じる。社員に自立することを要請しながら、会社側も社員の滅私奉公に甘えない自立した経営に転換するという決意だ。日本社会全体を甘えの構造から、一人一人が自立した大人の社会に転換していくことも目指しているのではないだろうか。
私たちが提案している「信頼経営」は、一人一人の自立と、会社と社員との対等な関係に基づく互いの「信頼」で成り立つと考えている。その「信頼」をベースに、大胆な権限委譲を行うことで初めて高い生産性が実現できるのではないかというのが「信頼経営」の仮説だ。「ビジョン」の気概を意気に感じ、「信頼経営」の検討を進めていきたいと思う。

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