【横塚裕志コラム】DXのテーマは「生産性を50%上げる」とすべきでは

OECDの2020年平均賃金調査では、日本が22位の38,515ドルで、1位の米国は69,392ドル(日本の1.8倍)、6位のデンマークが58,430ドル(日本の1.5倍)、お隣りの韓国が18位で41,960ドル(日本の1.1倍)という状況にある。日本がこの30年低迷している間に、世界は大きく変化している。
平均賃金を上げていくためには、やはり生産性を上げるしかない。小手先の賃上げ税制では難しい。だから、日本企業復活のテーマは生産性を飛躍的に上げることに尽きる。一挙に2倍などを掲げても現実感がないので、5年、10年かけて1.5倍を目指すことにしてはどうだろうか。これこそ、企業変革「DX」そのものだと考える。

しかし、このテーマを掲げて活動している企業があるだろうか。経営者の会合で「30年の低迷は我々経営者の問題だと認識すべし」という議論が行われ始めているとの報道もあるが、目立つ動きは見えない。なぜなのだろうか。やらない理由は大きく二つありそうに見える。

1. 社員にこれ以上頑張れとは言えない
この30年もさぼっていたわけではないし、業界内での熾烈な競争もあり、またグローバルにもマーケットを拡大してきた。それは、社員の頑張り以外の何物でもない。もっと働けと言えるはずがない。

2. 生産性を5倍にする施策が思いつかない
残業時間の低減を図るだけでも苦労があるなか、生産性を上げる余地が見つからない。ITもそこそこ活用しているし、定型作業は海外や外部に委託したり、それなりの施策は実施してきている。これ以上無駄はないように思える。

少し極端に書いたが、このような状況でスタックしている企業が多いのではないだろうか。では、どうすればいいのだろうか。

私は謙虚に「学ぶこと」が必要だと思う。私たちの今までの成功体験では考えつかない課題なのだから、私たちが謙虚に先進国や先進企業から「学ぶ」しかないのではないだろうか。役員も社員も「頑張っている」かもしれないが、それは所詮今までの経験の中での知識レベルであって、私たちが知らないことが世界にはたくさんある。海外のビジネス書はほんの一部だけ邦訳されているが、それさえ、大して売れていないようだ。日本の雑誌・新聞には生産性の記事はほとんどない。つまり、私たちは、世界の動きから閉ざされていて、日本の昭和という洞窟の中でもがいているだけなのではないだろうか。

なぜ、私たちは謙虚に学ばないのか、ということが次に大きな問題だということがわかってくる。なぜなのだろうか。

自分たちの知恵を出せば、どんな課題でも解決できると過信しているかもしれない。今までは頑張れば何とか出来た、という成功体験がある。ビジネススクールで教えている経営戦略理論など机上での学問であり、生の経営に生かせるはずがない、とも思いこんでいるふしがある。優秀な学生を採用しているのだから、これ以上の人財はいないはずで、この陣容で頑張るしかない、という思いもある。でも考えてみると、最新の経営理論を知らないし、社内での人財育成が正しいやり方かどうかも不明だ。

例えば、ビジネスプロセス分析、システム思考、クリティカル・シンキング、デザイン思考、アート思考、などなど様々な方法論がビジネスを改革するために使われているようだが、私たちはどれも真剣に学んだことがない。聞きかじっているだけで、なんとなくその内容を勝手に推測しているが、その推測が正しいものなのかどうかも実はわからない。もっと深く学ぶことで、これらを業務で使いこなすことができたら、どんなことが起きるのだろうか。デザイン思考はシンガポールでは国を挙げて取り組み、その初級の研修でも1週間が必須と聞くが、なぜ日本の研修は1日で済んでしまうのだろうか。

私たちは、なにか「思いあがっている」のかもしれない。生産性さえ上げられないくせに、一流国だと威張っている。私たちは、勤勉という仮面をつけて、なにか決定的なことをさぼっているような気がする。

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