ページ内を移動するためのリンクです。

【横塚裕志コラム】経営戦略に整合させた人材戦略 「人的資本経営」

世界的な動きとして「人的資本経営」への注目が高まっている。「人的資本経営」とは、「人材を『資本』として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる経営戦略」だ。そして企業価値を表現する「有価証券報告書」に、中長期的な企業価値向上を狙う人材戦略、例えば「人材育成方針」や「組織運営方針」などを具体的に開示することが議論されている。この「人的資本経営」が意味するところは、従来の人材育成とは考え方が大きく異なる。異なるポイントを3つのテーマから考えてみよう。

1.経営戦略としての人材育成方針とは何か
価値づくりが競争となっている現代では、なにより価値が創造できる人材が競争上のポイントとなる。従って、今までのような10年目研修とか課長研修のような社員一律のぼんやりとした育成では目的が達成できない懸念がある。もっと、経営戦略に同期し、個人の特性を生かす育成内容にすべきというのが世界の感覚だ。それを表現している記述が「人材版伊藤レポート」の「はじめに」にあるので以下に引用する。

「まず何よりも、各企業の経営陣が率先して、企業理念や存在意義(パーパス)に立ち戻り、目指すべき将来のビジネスモデルや経営戦略からバックキャストして、保有する経営資源との適合性を問う必要がある。とりわけ、人的資本の観点から、そうしたビジネスモデルとのギャップを見える化し、それを埋めていくことが求められる。人材戦略を経営戦略に適合させるという一方向の見方だけでなく、人材や人材戦略自体が、経営戦略自体の可能性を広げることにも注目すべきである。こうした人材戦略と経営戦略を同期させるプロセスを通して、中長期的な企業価値の向上に努める必要がある。」

将来のビジネスモデルからバックキャストしてみて、不足している能力を育成すべし、という議論に激しく同意する。将来のビジネスモデルを描くこと自体がとても難しいことだが、過去の反省ではなく、未来を見据えるという方向性に新しい経営の息吹を感じる。

2.「人材育成方針」は誰がつくるのか
人材育成は経営課題だ、人事部門の仕事ではない、というのが世界の感覚だ。それを象徴するように「人材版伊藤レポート2.0」の冒頭に伊藤教授が書いている。

「叱責されるのを覚悟であえて言えば、これまでの人事・人材をめぐる議論は人事部門の世界に終始し過ぎてきたのではなかったか。「管理思考」の議論の域をどれだけ出ていただろうか。経営変革、人材変革、企業文化変革というもっと広い文脈で議論してきただろうか。人材は「管理」の対象ではなく、その価値が伸び縮みする「資本」なのである。企業側が適切な機会や環境を提供すれば人材価値は上昇し、放置すれば価値が縮減してしまう。人材の潜在力を見出し、活かし、育成することが、今まさに求められている。」

まさに、伊藤教授が語る「人材は管理の対象ではなく、価値を育む資本財なのだ。」というコンセプトに心が震える。社員の潜在力を引き出すことが、経営の最重要課題ということだろう。

3.「人材育成方針」の骨格をどう考えるのかでは、継続して企業価値を上げていける組織・人材としていくために、具体的に何を育成すればいいのだろうか。私は、4つの視点が欠かせないと考える。

① 人材のマインドを変革する上司の言いなりではなく、予定調和を探すのでもなく、また過去の成功体験にこだわることなく、常に未来の課題に対して正面から向き合い、自分の考えを絞り出し発信する覚悟と勇気に満ちたマインドが必要だ。

② 人材の能力を育む企業のパーパスを実現するために必要とされる専門性の高い能力を洗い出し、それを持つ人材を育成・採用する。ゼネラリストではなく、専門性が高いプロ集団をつくる必要がある。そのためには、日本より数段進んでいる欧米の最新の研究や知見を取り入れる仕組みが必須の条件だ。

③ 多様な感性・想いを大事にし、社員と家族の幸福を尊重する文化を育む価値がある施策を創造するためには、女性の意見を必ず輪の中に取り入れる、とか、障がい者と同じフロアで働くなど、組織内に多様性を実装する。そして、社員とその家族の自由を最大限支援することで、組織を社会と共存させる。

④ フラットな組織文化に変革するタテ型社会の問題、すなわち、上司・部下のタテ関係と組織縦割りのサイロ問題、両方を解決した組織文化に変革する。そうでないと価値創造などできない。(この解決方法はあらためてコラムに書きたい)

世界的に活発な動きがある中、日本企業も「人的資本経営」を正しく理解し、真っ向から挑戦していくべきと考える。私たちもそれをサポートしていきたい。

デジタルビジネス・イノベーションセンター(DBIC)が活動を続ける理由

設立エピソード

2014年、世界で起きていることを肌感覚で確かめるため、半年をかけて世界を回った。そこで感じた危機感を日本企業に正しく伝え、行動を促すための研究会を発足するために奔走。26社の名だたる企業と世界有数の大学と連携し、デジタルビジネス・イノベーションセンター(DBIC)の立ち上げとともに我々のイノベーションジャーニーが始まった。

SHARE