【横塚裕志コラム】ナースとドクター、IT部門とビジネス部門

テレビの「ザ・トラベルナース」にはまっている。中園ミホの脚本で、主張するメッセージがグッとくる。「ナースは人に寄り添って人の病気を治すという重要な役割を持つ。ドクターの指示の下で働く地位の低い仕事だと卑屈に考えてはいけない。」
このメッセージが、私の中で化学変化する。「IT部門は人に寄り添ってデジタルを駆使して人の幸福をつくる重要な役割を持つ。ビジネス部門の要件をうのみにして働く地位の低い仕事だと卑屈に考えてはいけない。」

しかし、現実はIT部門の方が下という空気感があるのは否めない。私は、長くIT部門にいたので、身に沁みて感じていた。それが、IT子会社、ITベンダーになればさらにその度合いが強い。なぜ、上下関係になってしまうのか、私の体験では二つのことを感じる。

① 「指示」という役割分担が上下関係をつくる
情報システムを開発する際には、ビジネス部門が「要件」を作成し、それに基づきIT部門がシステムを開発するという役割分担になっている。そして「要件」がまさに指示書になっているので、上下になりやすい。また、最終のシステムテストを確認し、サービスインするか否かの判断をビジネス部門が行う役割にしているので、ここでも上下になってしまう。この役割分担は、ビジネス部門の責任と関与の必要性を明確にするために決めているもので、ある意味重要な側面があるのだが、一方で、上下関係の空気感を醸成しているのも事実だろう。

② 専門家に対する無知の偏見が差別意識を醸成している
私がCIOになった時に以下の体験をした。
役員会のときにビジネス側の役員から真顔で言われた。「システムの専門家が役員になるという時代が来たんだね。時代が変わったねえ。」
役員ゴルフコンペのときにビジネス側の役員から言われた。「システムの人は、ゴルフゲームをパソコンでやっているのかと思っていたけど、ほんとうのゴルフもするんだね。びっくりした。」
各社のCIOが集まっての会議では「私は営業出身でシステムのことは全く分かりません」と自己紹介するのが定番で、システムではなく営業という上の世界にいる人間だというアピールをする人が多かった。

以上のような誤解や偏見があり、どうしても上下関係になってしまいがちだ。その結果、「要件ありき」で対等な議論が進まず、ビジネス部門の真の課題を深掘ることができず、またIT部門の能力が十分発揮されないまま、表面的なIT利用にとどまっている。もっとお互いをフラットな関係にして、ITの効果的な活用の議論を深めることに取り組まなければ、IT後進国の改善は見込めないだろう。
では、フラットな関係にするために、IT部門は、SEは、何をしたらいいだろうか私の想いは次の3点だ。

1.ビジネス部門を圧倒する高度な専門性を持つ
フラットに議論するためには、ビジネス部門をリードできるIT・デジタルの専門性を身に着ける必要がある。業務プロセス、プロジェクトマネジメント、カスタマーエクスペリエンス、データベース、などその領域は何でもいいが、専門性によって業務要件の不足や課題を指摘する力が必要だ。

2.エンドユーザーに共感する能力を持つ
ビジネス部門でもエンドユーザーが持つ真の感覚を感じている人は少ない。企業側の論理で物事を考えている。従って、IT部門が意識してエンドユーザーへの共感力を鍛えることは大変貴重なことだ。その共感力を生かして、要件の課題をフラットに対話することで、デジタルの効果的な活用が進むのではないだろうか。そいう意味で、私はデジタル庁のデザインチームに大きな期待を寄せている

3.全体戦略を俯瞰した立場で中期的な経営変革をリードする
各ビジネス部門から要請されるデジタル案件に応えているだけでは、100年続けても会社の変革などできない。すべてが部門の視点での細かい些細なことばかりだからだ
デジタルを機能させて、会社全体のビジネスモデルを変革するプロジェクトや、大きく業務プロセスを変革するプロジェクトを全体戦略として実施していかないと会社の将来はない。それをリードできるのはIT部門ではないだろうか。

IT部門が、メンタルモデルを変革し、世界レベルの学習に努力する姿勢を持つことを大いに期待している。

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