【横塚裕志コラム】ナラティブに戦略を作成し、ナラティブに語る

先日、DBICの「トップ会議」でメンバー企業の経営者とご一緒に、IMDのマンゾーニ学長の講義「Leading Transformation」を学んだ。その中で、私は「戦略」に関する学長の熱い想いに強烈なインパクトを感じた。「戦略」は昔から議論されているテーマではあるが、VUCAの時代と言われる今だからこそ採るべき新しい視点からのアプローチであった。私なりの解釈で新しい視点を書くと以下の二つ。

1.全体戦略を確立する
「どこで戦うか」「いかに勝つか」の強力な戦略が重要。ナラティブで明確な戦略を決めて、そこに集中しなくては勝てない。戦略は、部門ごとの戦略を束ねるようなものであっては成功しない。「会社全体としての戦略」をナラティブに作成することが必要だ。(商品戦略・チャネル戦略などと部門戦略を立てたうえで、それを統合して会社戦略にしていることに対してのアンチテーゼだろう)

2.ナラティブに戦略を語り、ステークホルダー全員の行動をコミットさせる
「戦略」の実行は簡単ではない。社員を始めステークホルダー全員の強い同意がなければ実行できない。強い同意を得るためには、リーダーが毎月何百回となく、「戦略」をナラティブに語ることが必要だ。ナラティブに語ることで初めて強いコミットを得ることが可能となる。

特に「ナラティブ」に焦点を当てて考えてみたい。「ナラティブ」とはいったい何を意味している言葉なのだろうか。
「ナラティブ」を辞典で引いてみると、「物語」「話術」と出てくる。そのまま当てはめると、戦略を箇条書きで書くのではなく、ストーリーのような感じで立案し、語るべきと言っていると思うが、その意図された本質はもっと深いところにあるに違いない。私なりに過去体験したことを思い出しながら、本質に迫ってみたい。

① 私がまだ20~30代のころ、企画を書いた稟議書を上げると、上司から「ナラティブに書いてみろ」とよく言われたことを思い出す。確かに「文章」にして書いてみると、詰まっていない部分や曖昧な部分、論理的な矛盾などがはっきりしてくる効果があることを体感していた。

② シンガポールに半年常駐して現地のスタートアップと一緒に新規プロジェクトを立ち上げる、という取り組みをコロナ前までDBICで実施していた。その時にアドバイスをいただいた現地のアクセラレーターの方々が口を酸っぱくして言っていたのが、プロジェクトの戦略を「プロブレム・ステートメント」というステートメントで表現することの大事さだった。市民のどういう「プロブレム」をどのように解決するのかを「ステートメント」にできるか、ということが事業の成功への必須要件だということだった。これが、なかなか難しい。技術先行であれば、プロブレムがうまく書けないし、プロブレムを書いてみても曖昧過ぎるとか範囲が広すぎるとか、実は戦略になっていないことが明白になってしまうのだ。加えて、ステートメントでアピールすることで初めて仲間が増え、VCからの投資が呼び込める。リスクをとって活動する同志を集めるのは並大抵なことではできない。そのためには、ステートメントが必須だということだった。

私なりに総合して考えると、ナラティブの意味は以下の通りとなる。

〇「戦略」はナラティブに作成し、ナラティブに語ることが必要だ。ナラティブとは、自分たちの行動ストーリーとして、誰のために何をするのかを書くことだ。自分たちの言葉で書き、自分たちの想いを明確に文章で書き、曖昧な言葉・形式的な言葉を排除し、嘘は書かない。

〇「戦略」の実行は今までの行動とは大きく異なることを実行することだから、社員をはじめステークホルダー全員が強い参画意思を共有できるステートメントが必要だ。

〇社会に価値を生み出す戦略の実行は、一企業だけでは実現できない。社風を変え、企業カルチャーを変え、産業構造を変え、社会構造を変えていく行動が必要だ。そのためには、インパクトがあるナラティブな戦略を描き、毎日毎日、繰り返し「戦略」を語り続け、大きな社会的なウエーブを起こしていかなければならない。「変革」とはそういうものだ。

〇リーダー(経営者)が、その「戦略」の最大のファンであり、人生賭けた最高のコミットを約束し、成功の責任を持つものだ。

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