【横塚裕志コラム】オリックスはなぜ優勝できたのか

1.優勝できた要因
下位に長年低迷していたオリックス・バファローズ球団が、2021年 中嶋監督のもとにリーグ優勝、2022年 日本一を果たした。当コラム表題と同名の著書(喜瀬雅則著)を読むと、多くの要因が書かれている。その中で、私は「選手の自立を促したこと」に注目したい。野球はチーム戦で団体スポーツだから、チームワークが大事ということは当たり前だ。しかし、それと同時に「選手個人の自立」が重要だという中嶋監督の考え方に興味をおぼえた。三つの事例から、中嶋監督のチーム強化の基本方針を学ぶ。

  • 2月からのキャンプ。1軍も2軍も午後2時には全体練習は終わってしまう。あとは個人練習となる。2021年、中嶋監督は、最初からそういう方針でキャンプを運営する。それは、選手個人ごとに練習したり鍛えたりすべき部分が違うから、個人練習の時間をしっかり確保して、個人が自分のプランで個人練習をすることに効果があると判断したようだ。個人練習にはコーチは指示しない方針になっていて、あくまで選手個人が自分で考えて練習メニューを決める。選手がアドバイスや支援を依頼してきたらコーチは対応するが、鬼コーチが猛ノックで選手を鍛えるということはしない。

  • 選手の練習に関する相談相手として、中垣氏というトレーニングの専門家を「巡回ヘッドコーチ」として配置している。中垣氏は、米国の大学院で運動学を学び、メジャーリーグなどで「最新鋭の野球トレーニング」を学んでいる。それは科学的で、従来の「下半身を鍛えるためにはランニング」という日本野球界の常識を真っ向から否定している。その中垣氏を位置づけが高いヘッドコーチとしているところに、「科学的」トレーニングに重点を置いていることがうかがえる。

  • 試合直前のシートノックもやらない。試合直前には両チームが交互に守備の練習をするのが全チーム通例だが、オリックスだけはしないことにしたそうだ。その理由は、試合前の集中方法は個人で違うから、それぞれの選手個々が好きなように音楽聞いたり、体操したり、自由にふるまって集中する、という自主性を考えたようだ。

「個人の自立」がスポーツの上達には大変重要なこと、というのは、別の本「世界を獲るノート」(島沢優子著)でも、多くのアスリートが語っていることだ。明日の練習内容を自分で決められるようにならないと世界は獲れない、と卓球でもゴルフでもラグビーでも、選手もコーチも語っている。自分で強くなりたいと思わない限り、強くはなれない。自分で自分の課題を分析して練習プランを作成できなければ、決して強くならないそうだ。オリックスの中嶋監督はそれを実践している。

2.ビジネス分野での取り組みはどうか
翻って、ビジネスの分野に目を転じてみよう。上記の3つの視点からビジネス界を考えてみる。

  • ビジネスマンがアスリートと同じように、自分自身の課題を分析して自分で練習なり勉強なり研修なりをプランして実行しているだろうか。
    毎年の目標管理制度の中で、キャリアプランとして自分の成長を考えるプロセスは存在している。しかし、その中身がどうだろうか。アスリートのように試合で力を試す機会が少ないので、真剣さが薄いかもしれない。また、雇用が安定しているので、学ばないといけないという切迫感、自立感が乏しいかもしれない。

  • 人財開発の専門家がそばにいて相談できる体制になっているだろうか。
    海外の会社や外資系の会社では、人財開発を専門に学んだプロのトレーナーが配置されているが、日本企業ではあまり見ない。そもそも専門家が少ない。人事部がその役割を担っているとは思うが、専門に学んだわけではないので、過去の踏襲という状況から抜け出せていないのが実情だろう。

  • 毎日の活動のなかでの自主性や自立は促進されているだろうか。
    マイクロ管理の息苦しさや、予算を守るという制約などの中でミドルが苦労されている雰囲気を感じる。「何かあったらどうするんだ症候群」の蔓延が危惧される。DBICから見ていると、30代のミドルが自由を奪われた感じで可哀そうでならない。

ビジネス界では、「練習する・学ぶ」ということが全体的に疎かになっているように見える。一方、IMDなどから「世界の学び」に関わる最新の情報を入手するにつけ、世界と日本との差がますます開いていく焦燥感に襲われる。日本の「学ぶ文化・土壌」を大きく見直すべき時期に来ているように感じられる。

3.日本の「学び」(トレーニング)を構造的に改革しなくてはならない
練習して上手になる、とか、学んで成長する、ということは本来人間の楽しみであり、本能であるはず。しかし、現在の日本は、社会がぬるま湯で覆われて、個人が自分の人生に責任を持って学びつづけるという本能を見失っている状況とも見える。

日本のみんなで協力して、学び成長する楽しさをみんなで喜ぶ社会、そういう文化を日本に取り戻したいと思う。また、「世界で最新鋭の学びの科学」を学ぶ専門家を日本に育てることにも注力していく必要がある。そうすることで、昭和の感覚を捨て、世界レベルの最新の学びを日本に根付かせることができるのではないだろうか。そんな「LX(Learning Transformation)」を社会全体で起こしていくきっかけをつくっていきたい、と切に考える。

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