【横塚裕志コラム】「意地」が「使命」にかわるとき

私はどうも「根に持つタイプ」のようで、「意地でもなんとかしたい」と「意地」で考えるタチのようだ。50年仕事をする中で、ずっと「根に持って」「意地でもなんとかしたい」と思ってやってきたことがある。それが私の中心にいつも存在している。

1.事務処理体制を選定する戦い

1980年、東京海上は「第2次オンライン化計画」の企画をスタートした。全商品・全業務をオンライン化することで事務処理の効率化を図ることが狙いだ。東京海上が「大衆化路線」に大きくかじを切るにあたり、事務処理量が格段に増加することを効率化で吸収するという経営戦略だ。
このとき、社内を大きく2分する事務処理体制の議論が起きた。保険会社のビジネスは「事務そのもの」であり、この事務体制をどのようにデザインするかは死命を制する重要課題であった。システム部に設置した「第2次オンライン事務局」が提案する「発生時点処理」と、商品部や営業部門がこだわる「営業に事務を持ち込まない集中事務センター方式」との議論が役員まで巻き込んだ熾烈な戦いになった。

私は、7年目の社員で事務局に属し、発生時点処理体制がいかに効率的かを示すペーパーを書き、先輩と一緒に戦いに参加した。申込書1件の処理にかかわる事務量を秒単位で積算しながら、発生時点である営業拠点での処理体制が実は全体最適の観点で優れているという論理を展開した。一方、反対派は「外部委託してもいい事務処理を忙しい営業拠点でそれも社員が実施するのはおかしい」という主張で譲らず、社内政治的な動きにもなって血みどろの戦いになった。結果、間をとって、全国に10くらいの地区別の事務拠点を置くことで決着した。

私は、このときの戦いで二つのことを根に持った。

  1. いつかは「事務発生時点処理」という理想形を実現してやる。
  2. ビジネス側の常識のままでは、情報システムの効率化効果を享受しにくい。システム部門は常にビジネス側の常識を鵜吞みにせず、全体最適を考える責任がある。

2.意地でも理想形を実現する旅

その後、1988年実施の「第3次オンライン」では、営業拠点での事務完結方式を実現した。もちろん、私一人の怨念でできたわけではなく、OCRや通信技術の進化が発生時点処理をより合理的な体制にし、社内での合意ができたからだ。
そして、次は実際に募集活動をしている「代理店」という東京海上とは別の事業体のサポートに力を入れ始めた。マニュアルと電卓とボールペンでの仕事からオフコンやPCでの仕事に切り替えることを推奨した。

1996年、怨念がまた首をもたげた。本来、代理店が事務発生時点であるから「代理店での完結処理体制」が一番効率的なのではないか、と考え始めた。ビジネス側の人に相談してみたが、「保険募集をお願いしている別事業体に事務負担をおかけすることはあり得ない」とけんもほろろだった。しかし諦められないので、米国の世界最大の損害保険会社に出向き、5時間議論させていただいた。そしたら、なんと普通に代理店完結処理をやっているではないか。やはり、これが情報システムの活用モデルだと自信を持った。日本に戻り、説得して回ったが賛成者ゼロ。仕方なく、実験システムの開発だけシステム部門の責任で行い細々実験を開始したが、一人では会社を動かすことはできなかった。

2004年、白馬のナイトが現れた。CIOに就任したS専務から「会社全体の血液がさらさら流れていない。システムの開発に原因があるのではないか。」との問題提起があり、私の思いをぶつけることができた。「商品や規定を個別最適で複雑化した結果が原因であり、ビジネスプロセスとしては理想である代理店完結処理体制にすべき」と申し上げた。これを契機に、専務の剛腕で「第4次オンライン」が始まった。

2007年、「代理店完結処理体制」が実現した。「根に持って」から27年の歳月が流れていた。長い旅路ではあったが、怨念を果たした。

3.「意地」が「使命」にかわるとき

私の「意地」が、いつのまにか「使命」に変わってきたように思える。「今までのビジネスの常識を変えないと情報システムの効果が得られない」とか「過去の成功体験に引きずられることなく、ビジネスプロセスの考え方で全体最適な体制を白紙からデザインすることが必要だ」ということを意地で始めたが、いつしか私がやらないといけない「使命」にかわっていた。そして、「使命」を自分の中心に置くことで、私自身の仕事や人生が輝いてきたようにも思える。
「意地」が同志のつながりを生み、その同志が「常識」を動かす。そして何か大きな風が吹けば、「意地」が「使命」を形づくり始める。「意地」があるからこそ、学び続けることができ、それが「使命」にかわっていく。

今、「使命」をDBICで続けている。いつしか「信頼経営」を実現したいという「意地」が芽生えた。同志が増えていけば、そのうちピラミッド組織を「信頼」に変えることができる、と心底思っている。

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