【横塚裕志コラム】DXの起こし方を 考えてみよう (1/4)

「何をしたらDXを起こせるだろうか」という問いに向き合ってみようと思う。巷には「DXをすべき」という情報があふれているが、言われたからできるというものでもない。「DX事例」もあるが、事後的な整理をして作成されている読み物であり、どのように起こしたのかを読み取れる部分が少ない。また、「DX人財」を育成するためのトレーニングはあるが、道具を学んだからと言ってDXを起こせるわけではない。

今回から4回シリーズで、「DXの起こし方」について考えてみることにする。
第1回は、「DXを起こす」ためのヒントをつかむために、自分が体験したDXを題材にして、「事後的な整理としてのDX事例」と「実際に起きた事実の物語」を比較して、その違いを考えてみようと思う。

2004年から2010年にかけて東京海上日動が実施したDX(「抜本改革」と社内では言う)について、事例説明と実際の物語を書いて比較してみる。

Ⅰ. 「抜本改革」の事例説明(パブリックになっている情報を集めて私が書いた)

  1. 抜本改革前の状況
    • 営業拠点の状況
      ① 代理店からの電話が鳴りやまないし、商品ごとに規定が違うから質問内容にもすぐに答えられない
      ② 代理店が顧客から領収した保険料を会社へ入金するまでの管理が大変
    • 代理店の状況
      ① 保険料の試算ができない
      ② 申込書の書き方がわからない
      ③ 代理店オンラインが難しくて使えない
  2. 原因分析
    • 商品構造の複雑さ
    • 事務処理規定の複雑さ
    • 代理店システムの機能不足
  3. 変革のための経営戦略
    • 商品の抜本改革:商品をシンプルに改訂
    • 事務の抜本改革:事務規定をシンプルに改定
    • システムの抜本改革:基幹系システムを再構築
  4. 全社プロジェクトの推進
    • 本社:商品・事務・システムそれぞれにプロジェクトチームが編成される
    • 現場・代理店:「新しい風」という名前の全社運動を展開

Ⅱ. 「抜本改革」の実際の物語

  1. 事の始まり
    • 情報システム担当役員に就任したばかりの某専務がIT企画部長に言う
      ・この会社は、血液がさらさら流れていない感じがする
      ・このままでは、10年後うちの会社はもたないかもしれない
      ・代理店の声を全国聞いて回ったが、システムが使いづらいと言っている   
    • IT企画部長が答える
      ・それは、システムが悪いのではなく、商品が複雑すぎることが原因です
  2. 社内での議論が始まる
    • 商品が複雑とは具体的にどういうことか。お客様の要望に応えてきた結果であり、お客様を裏切ることはできない
    • 事務滞留状況をデータで分析して、原因を調べてみよう
  3. 抜本改革企画チームを編成し、構想案を作成
    • 専任チームが、各部門と問題を分析し、現場での意見を聞き、構想をまとめる
    • 全商品の約款を全面的に改定、特約半減・事務規定は全商品共通化
    • 事務処理は100%代理店オンライン完結、100%キャッシュレス、例外なし
  4. 各部門が構想案に反発し、大論争が起きる
    • 全商品のシンプル化は顧客第一の経営方針に反する
    • パソコンを持たない代理店はどうするのか、現場のことを考えろ
    • お客様が現金で払いたいと言ったらどうするつもりか
  5. 経営にて構想案通りの変革戦略を決定
    • 戦略3本柱
      ① 全商品を徹底してシンプル化:シンプルによる高品質が顧客第一の真理
      ② 事務は代理店オンライン完結・キャッシュレス
      ③ 基幹系システム全面再構築:代理店のビジネスをデジタル化
    • 実行組織を新たに組成
    • システム開発期間3年を活用して、その間「新しい風」運動で、代理店のオンライン化・キャッシュレス化の変革を推進する

比較は以上だ。二つは決定的に違うところがある。「事例説明」は全体の整理で、標本のイメージ。「実際の物語」は生もので、行動を書いている。「事例説明」は知識にはなるが、検討プロセスを書いているわけではないので行動には移せない。ここが注意点だ。事例を勉強して横展開しようというのは無理ということだ。
次回は、「実際の物語」から行動の起こし方を抽出してみる。

他のDBIC活動

他のDBICコラム

他のDBICケーススタディ

一覧へ戻る

一覧へ戻る

一覧へ戻る

このお知らせをシェアする