【レポート】いま企業のトップが理解すべきデジタルビジネス・トランスフォーメーションとは? マイケル・ウェイドIMD教授を囲んで

2018.09.19

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2018年9月8日(土)、DBIC Tokyoにて「いま企業のトップが理解すべきデジタルビジネス・トランスフォーメーションとは? マイケル・ウェイドIMD教授を囲んで」を開催しました。

デジタルビジネス・トランスフォメーション研究の世界的な権威であるマイケル・ウェイドIMD教授をゲストに迎えてDBICメンバー企業の経営陣が集結し、自社のデジタルビジネスの状況や課題について膝を突き合わせてディスカッションする貴重な機会となりました。本レポートでは当日の内容を再構成してお伝えします。


マイケル・ウェイドIMD教授

海外からのデジタル・ディスラプターへの危機感

マイケル・ウェイド(以下、ウェイド):IMDは2016年〜2017年に世界の企業を対象に「デジタル・ディスラプションの影響は貴社においてどのように重要視されているか?」という調査を行いました。

グローバルでは「大きな影響がある」と答えた企業が34.3%あったのに対して、日本企業だけに限定すると24.1%です。同時期の「デジタル・ディスラプションは取締役会レベルの懸案事項となっているか?」という調査ではグローバルで64%が「はい」と答えたのに対して日本は34.5%しかありませんでした。

つまり、世界の傾向と比べて日本企業はデジタル・ディスラプションの影響を少なく見ている傾向があります。DBICメンバー企業の皆さんはデジタル・ディスラプションに対してどのように取り組んでいるのかお聞かせください。

DBICメンバー企業:国内のスタートアップの動向を見ても今のところ大きな脅威だと感じることは少ないのですが、海外からアマゾン銀行、アップル銀行、グーグル銀行のようなものが登場してきたらどうするか、ということは考えます。

これらのディスラプターは私たちより顧客数が多く、若い世代へのブランド力も高く、日本より高いIT技術を持っている。彼らがやってきたとき、果たして自分たちは今と同じビジネスを続けられるのか。明確なゴールは設定しづらいですが、いろんな組み合わせを考えながら、日本の技術基盤でどうやって勝負していくのか、というのを社内でよく議論しています。

ウェイド:ありがとうございます。まさにそれは、世界中で多くの企業の経営陣が感じている共通したディスラプターへの脅威です。

DBICメンバー企業:もしアマゾンのパワーがこのまま増大し続けたら、メーカーは流通に従属してしまうかもしれません。メーカーとして独自のバリューをどうやって出していくかという課題があります。

ウェイド:ディスラプターは「価格」「体験」「プラットフォーム」の3種類のバリューのうちいくつかを組み合わせて既存企業をディスラプトしてきます。例えばアマゾンはこの3つバリューすべてを持っていますが、アマゾンの「安い」というバリューがマーケットに浸透すると、そのうち消費者は価格比較すらしないで「アマゾンだから安いだろう」と想像して買い物をするようになります。

対症療法では時間稼ぎにしかならない

こうしたディスラプターに対症療法で対抗しても時間稼ぎにしかなりません。勝つためには自らがディスラプターにならねばならないのです。ただ、それによって自社の既存ビジネスを脅かすカニバライゼーションを起こすこともあるでしょう。

DBICメンバー企業:私たちは最初に何百億という大規模集中投資をして3年かけてインフラを構築し、投資回収に10年かける、といったビジネスモデルを長年続けてきました。しかし、今は外部からの市場参入に加えて、技術的な意味でのディスラプターが登場してきています。

彼らはこれまで技術的に不可能だと思われて誰も手を出さなかったことを解決して、市場に参入してしまうのです。これからは一社だけではだめで、オープンプラットフォームで異業種やデジタル企業を入れながらビジネストランスフォメーションをしなければ生き残れないと感じています。

最も難しいのはマインドセットの変革

ウェイド:ビジネストランスフォメーションは重要ですが、それだけでは十分でないでしょう。組織トランスフォメーション、人材トランスフォメーションなど、異なる分野を一気に転換しなければなりません。IMDではそれを「デジタルオーケストラ」と呼んでいます。すべての楽器をうまく鳴らしてハーモニーを奏でるのです。縦割りではなく、横串の変化が必要です。

その中でも最も難しいのはカルチャーやマインドセットの変革です。今週、私はDBICメンバー企業からの参加者24人を集めて4日間の「DBIC-IMD デジタルビジネス・トランスフォーメーションプログラム」を開催していましたが、講義中に転職経験の有無を聞いてみると24人全員が新卒から同じ会社で働いていました。スイスだったらせいぜい2〜3人、アメリカならひとりいるかどうかでしょう。皆さんのような日本企業では、同一カルチャーがとても深く根付いてしまっているのです。

DBICメンバー企業:以前、IMDにイノベーションについて相談に伺ったとき「日本の組織は縦割りでずっと同じ場所で仕事をしている。組織に多様性をもたらすためにゆさぶりをかけたらどうだ」とアドバイスを受けたので、それ以来、毎年組織を徹底的に再編成するようにしたところ、確かに組織の壁が壊れて、横の情報連携が生まれてきました。

この変革の時代に「長期計画は船の舵ではなく碇にしかならない」と言われていますので、計画より感知力を重視すればよいというご意見はもっともです。一方で、そうなってくると「計画」というものをどう考えたらよいのでしょうか? ビジネスとしては計画を立て、それをマーケットに約束してコミットし、組織に落とし込まなければならないという側面も無視できません。この矛盾をどうしたらいいのでしょうか?

ビジョンには厳格に、計画には柔軟に

ウェイド:それに対する私からのメッセージは「ビジョンには厳格に、計画には柔軟に」というものです。成功者は明確なビジョンを持っています。「10%売上げアップ」とか「業界で最大手になる」はビジョンにはなりません。ビジョンは具体的でインスピレーションを生むものです。選択を迫られたときに指針になるものです。

3年計画、5年計画の重要度はかつてないほど下がっています。安定している時代ならよかったかもしれませんが、今の時代は3年経ったら世界が一変しています。それでも3年前に立てた計画に縛られてよいのでしょうか。状況が変わったら計画を変えましょう。どんどん新しいテクノロジー、新しい規制、新しい競合が生まれています。

DBICメンバー企業:同じ会社の中でも、事業によって異なる尺度で話してしまうことに悩んでいます。例えば社内には海外のディスラプターそのものを取引先にしている部署もあり、そこではディスラプターがもっと成長して取引量を増やしたいので、このままでよいと考えられています。

他に悩ましいこととして、マーケットの変化にあわせて事業を変えていかなければならないことは自明なのですが、それにあわせて人事体制を刷新しようとなると、取締役会での意思決定に時間がかかってしまいます。

ウェイド:もっとアジャイルになる必要があります。アジャイルはバズワードですが、IMDでは「Hyper Awareness」「Informed Decision Making」「Fast Execution」という3つのキーワードで定義しています。中国のテンセントに「事業計画はあるか?」と聞いたら「そんなものはない」と返事をされるでしょう。変化に応じて対応するだけなので、計画は必要ないのです。

デジタルトランスフォメーションの目的はビジネスパフォーマンスの向上であって、それは組織変革からしか達成できません。しかし組織は長年変化をしていないから、変化のための筋肉がないのです。皆さんのような経営層の重要な仕事は、その筋肉をつくり、社員のカルチャーを「変化したい」という方向に向けていくことなのです。

注目すべきはディスラプションであって、ディスラプターではない

そのとき「注目すべきはディスラプションであって、ディスラプターではない」という点を意識してください。どうしても「Uberに対抗しよう」「アマゾンに対抗しよう」と、そのとき勢いのある特定の企業を考えがちですが、それは間違いです。

音楽業界のことを思い出してみてください。音楽業界はかつて、12曲入の3000円のCDを販売するビジネスを行っていましたが、2000年代初頭にナップスターが登場し、欲しい楽曲単位で音楽を販売することでマーケットを席巻しました。音楽業界は規制で対抗し、ディスラプターであるナップスターを業務停止に追い込んで元のCD販売の時代に戻ろうとしましたが、重要だったのは「楽曲単位で音楽が買える」というディスラプションでした。

そのため、ナップスターを駆逐してもCDビジネスの時代に戻ることはなく、次はiTunesでアップルが音楽市場を取ります。そしてアップルでさえもSpotifyに取って代わられました。新しいディスラプションの本質はサブスクリプションだったのです。

DBICメンバー企業:ITやAIに取り組む際に感じるのが、日本では生産技術が公開されていなくて、企業が内部で固有に持っているということです。そのため従来は私たちも取引先の企業のプラットフォームに入り込んでファシリティを組んできました。

一方でこれから日本の人口減でコストダウンや効率化が求められるのであれば、技術の標準化は必須となっていくでしょう。かつてパソコンが導入されたときに、日本企業がうまくすり合わせをして標準化に成功したのと同じように、ITやAIにおいてもうまくやっていかなければならないというのが課題です。

ウェイド:2018年のIMD世界デジタル競争力ランキングで日本は63カ国中22位でした。これは私の想像よりも低い順位でした。個別の要素を分析すると日本はテクノロジーや科学における順位は高いのですが、ビジネスアジリティが低いので総合順位を下げています。つまり、アジリティさえ上げればもっと戦えるようになるということです。これは、逆の状態よりもよっぽどいいことです。

過去の成功体験こそが、問題になっている

DBICメンバー企業:私たちはどうしても昔の成功体験を大事にして「がんばればなんとかなる」と思ってしまいがちです。実際、改善が得意なので、改善を繰り返していくうちに持ちこたえられてしまいます。

一方で、多くの意識あるメンバーは「このままではダメになる」と薄々感じています。しかし、日本企業ではモメンタムの強さにどうしても引きずられてしまいます。モメンタムを打破して、イノベーションを起こすリーダーシップが不足しているのです。

ウェイド:それは世界共通の悩みです。皮肉なことに成功こそが問題になっているのです。例えば富士フイルムはデジタルトランスフォメーションに成功しましたが、それは圧倒的な事業危機があり、選択の余地がなくて変革したのです。そうでない、そこそこうまくやっている会社はどうやって危機感を持てばよいのでしょうか。コミュニケーションを続けるしかありません。

常に危機感を持ち、それを社内に共有し続けることが経営陣の重要な役割です。もし社員が危機感を持てないなら、それは経営陣の責任です。誰もが肌で危機感を感じるようになったときは、もう手遅れなのです。改善で成功を体験し続けているのでは不十分です。

日本企業に決定的に不足している多様性

DBICメンバー企業:近年、日本では働き方改革が注目されています。労働時間の短縮ばかりが目的化されてしまっている傾向がありますが、本来はイノベーションやエンゲージメント、生きがいを生むための働き方の見直しという意味があると捉えています。

日本がこれから再浮上できるかどうかの鍵にもなり得る重要なポイントだと思いますが、この会議のメンバーを見ても、自分も含めて一定の年齢以上の男性ばかりでダイバーシティ(多様性)に乏しいと感じています。ウェイド教授はダイバーシティについてどう考えていますか?

ウェイド:本日まで開催していた「DBIC-IMD デジタルビジネス・トランスフォーメーションプログラム」の参加者にヒヤリングしたところ、自社のCEOが40代だという会社は一社もありませんでした。それが直ちに悪いわけではありませんが、経営層のダイバーシティが足りていないことは明らかです。

欧米の一定以上の規模の企業であれば、CEOの年齢は40代という暗黙のルールがあります。私が日本の大手自動車メーカーと仕事をした際、すばらしい自動車を生産している歴史ある会社でしたが、役員は全員50代以上の日本人男性で、英語が話せる人はひとりもいませんでした。もしかしたらここに、イノベーションが起きにくい原因の一端があるかもしれません。

日本のプログラム参加者からよく聞くコメントに「自分の上司をこのプログラムに出席させたい」というものがあります。せっかくプログラムを通してデジタルトランスフォメーションに挑戦しても、経営に反映されるまでの過程で立ち消えてしまうということでした。

変革を阻害するものと、責任の所在

ウェイド:私はCEOが直接的に変革をブロックしているとは考えていません。CEOや役員クラスは投資家や顧客やライバル企業の目に常時さらされているので、変革の必要性がよくわかっています。そのひとつかふたつ下のレイヤー、例えば部長クラスがコンクリートブロックのように変革をシャットアウトしていることが多いです。現場から良いアイデアが出ても、中間でブロックされて、何も変わらない。そして、その中間層の意識を変えたり取り除いたりするのが、皆さんのような経営層の仕事です。

高津尚志IMD北東アジア代表:働き方改革、イノベーション、リーダーシップの話はリンクしており、重要なキーワードがふたつあります。ひとつは「オートノミー(自立性)」、つまり自分の働き方を自分で決めることができる、ということです。「会社に言われたから働き方を変えよう」では自立ではありません。

ふたつめは「サイコロジカルセーフティ(心理的安全)」です。失敗しても、イマイチな意見を言っても、それが許容される寛容性が企業にあるか、ということです。失敗に対する安全が担保されて初めて、イノベーションにつながるチャレンジや新しい発想が生まれるのです。

トランスフォメーションに終わりはない

DBICメンバー企業:ウェイド教授は「デジタル部門に気をつけろ」というメッセージを発していらっしゃいますが、その真意をご説明いただけますでしょうか。

ウェイド:近年、大企業でデジタル部門の開設が流行っていますが、その結果「デジタルは専門部署がやっているから、その他の部署はやらなくていい」という風潮になってしまうのが危険です。CDO(Chief Digital Officer)も同じです。CDOが凝ったプレゼンテーション資料をつくっていて、表面的には先進的な企業に見えても、実務には一切影響力がない、というケースもよく見ます。

デジタル部門やCDOを設置してはいけない、ということではありません。ただ、設置するなら閉鎖のスケジュールまで考えた方がよいでしょう。3〜5年くらいが適切ではないでしょうか。デジタル部門が長期にわたって存在していると、それ自体が新しいサイロを生むことになります。もし本当に企業全体としてデジタル化が進めば、専門部署など要らなくなるのが自然です。

トランスフォメーション、という言葉は「はじまり」があって、「トランスフォーム」をして、最後は「完了」というイメージがあるかもしれませんが、それは誤解です。トランスフォメーションは永遠に続くもので、終わりはありません。

個人的には「デジタル」よりも「アジャイル」の方が適切な言葉だと考えています。アジャイルな組織であることが、トランスフォメーションの実現につながります。

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