【レポート】障がい者と共に実現するスウェーデンのソーシャルイノベーション 〜サムハルCEOとのラウンドテーブル〜

2018.11.30

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2018年11月29日(木)、DBIC Tokyoにて「障がい者と共に実現するスウェーデンのソーシャルイノベーション 〜サムハルCEOとのラウンドテーブル〜」を開催しました。

スウェーデンの国営企業であるサムハル(Samhall)は、従業員の約85%が障がい者であるにも関わらず、政府補助を除いて1,000億円もの売り上げがあり、営業利益率は7%に達しています。

サムハルではITの活用と徹底した個人プロファイルによる個々の従業員育成に注力し、日本ではほとんど雇用の機会がない、重度及び複数の障がいを持つ人や知的障がい者も優先雇用しています。また、同社の従業員が他の企業に転職できることを重視しており、実際に毎年約1,000人以上が転職しています。

この度は、サムハルのCEOモニカ・ロンゲガード(Monica Lingegard)様をDBIC Tokyoにお招きし、日本企業との深いディスカッションを行うことができました。本レポートでは内容を再構成してエッセンスをお伝えします。

福祉政策ではなく、雇用政策としてのサムハル

冒頭に、DBIC副代表の西野弘からスウェーデン及びサムハルの基礎情報のレクチャーがありました。西野はスウェーデンへの留学経験があり、サムハルの日本代表を15年間にわたって務めた経験を持っています。


西野 弘

西野:日本人はスウェーデンに対して「税金が高い」というイメージが強いと思います。これをスウェーデン国民は「デポジット」だと捉えています。つまり、国や自治体に自分のお金を預けているだけですから、その使われ方に関心が高い。職業政治家は国会議員だけで、地方自治体の議員は本職があるパートタイマーの市民が担当しています。選挙の投票率も約85%と高い。

スウェーデンは産業革命以降、鉄鉱石やパルプの産出で経済成長し、ボルボやサーブといった自動車産業、ベアリングなどが盛んになります。政治的中立を保つために武器生産や原子力発電の自国開発も進んでおり、産業レベルが非常に高いのが特徴です。福祉国家である前に産業国家なのです。しかも、企業に対して年間6週間の有給休暇や約16ヶ月の育児休暇が義務付けられていますから、経営者は相当な効率化をしながらグローバルで戦っています。

そんなスウェーデンでは、障がい者も含めた同一労働同一賃金が徹底されています。それが実現できない企業は市場から退場しなければならないのです。2012年のデータですが、スウェーデンでは障がいを持つ人の44%が雇用されています。その雇用主のひとつが2万人以上の障がい者を雇用するサムハルです。サムハルは補助金を受けていますが、補助金効果による値下げは禁じられており、同じ条件で同業他社と価格競争することが義務付けられています。

他にもサムハルには、精神障がい/神経障がい/複数の障がいの合併といったグループから全体の40%を雇用しなければならないこと、年間1,000人以上を同業他社に転職させなければならないこと、30%の自己資本率で7%の返済率を守ること、といった経営目標が課せられています。この高いハードルをどうやって達成しているのでしょうか?

まずは「労働を通じて個人の可能性を見出す」という姿勢です。日本だと「あなたはこういう障がいがあるから、この作業をしてください」というアプローチになりがちですが、サムハルでは「あなたは何がしたいのですか?」という問いから始めて、個人をプロファイリングしていきます。

次にその作業に必要とされる能力を16のカテゴリーに分け、それぞれについて個人を3段階で評価し、作業ができない理由が個人の障がいによるものであれば補助金を使ってその問題を取り除くというわけです。

これを2万人の障がい者に対して行いますから、高レベルなマッチングシステムが構築されています。その上で利益を挙げて、同一労働同一賃金を守るということは、これはもう福祉ではなくて雇用です。補助金はなくなりませんが、サムハルの存在によっていその金額は大幅に削減され、なおかつ障がい者が納税をする機会がつくられ、国民にも支持されるのです。

日本とスウェーデンの障がい者雇用の違い

続いてサムハルのCEOモニカ・ロンゲガード(Monica Lingegard)様から、来日を通して日本企業における障がい者雇用の状況を見た上での、スウェーデンとの比較についてお話を頂きました。


モニカ・ロンゲガード様

ロンゲガード:日本とスウェーデンには、障がい者を含むすべての人を人材として捉えたいという同じ想いがあります。そのためには支援や補助金が必要だという点も共通しています。しかし、その手法については違いがあるようです。

スウェーデンには、企業が障がい者を何パーセント雇用しなければならない、といった法規制はありません。一方で、障がい者に対しても同一労働同一賃金として健常者の社員と同じ給料を支払う必要があります。これによって障がい者自身が自立し、社会の構成員のひとりとして本当の仕事をしている、という気持ちを持つことができます。

日本だと障がいを持つ従業員に対して企業は最低賃金を支払い、障がい者はそれに加えて国や自治体から支払われる補助金で生活していると聞いています。しかし、スウェーデンでは補助金は個人に対してではなく企業に支払われ、企業から従業員に対して満額の給料を支払う際の補填に使われます。

個人的にはスウェーデン方式の方がベターなシステムではないかと感じています。なぜなら、障がいを持つ従業員に「自分は健常者と同じ立場で働いている」という自覚を持ってもらえますし、雇用主側からしても、勤怠や仕事内容について通常の従業員と同じ基準で評価することができるからです。

私たちが障がい者を雇用するとき、その人の障がいではなく、能力に注目します。障がい者自身も「自分には労働者として能力がない」と思っているケースがありますが、実際には「障がい者は労働環境に適応するために特別なニーズを持っているだけで、他はなにも変わった点はない」というのが私達の考えです。できないことがあった人が、サムハルを通してできるようになった結果として同業他社に転職し、サムハルはまた新しい障がい者を雇用する、というサイクルが続いていくのです。

今回、日本で障が者雇用を行っている企業をいくつも訪問することができました。その中で成功している企業は、障がい者雇用を事業機会だと捉えていて、ある仕事に適合する障がいであれば、その雇用はむしろ生産性や業績を上げ、付加価値を生むものだと気づいていました。障がい者雇用はダイバーシティやインクルージョンという社会的な大義のためだけではなく、収益を上げる機会だということです。

誤解や偏見をどうやって乗り越えるか

ここからは、ロンゲガード様と出席者とのディスカッションをご紹介します。

出席者:日本では四肢障がいをお持ちの方については企業の採用ニーズの方が大きく、知的障がい者や精神障がい者の雇用が課題になっています。そういった人材については、現場ではまだ誤解と偏見が根強く、コミュニケーションが取れないのではないか、勤怠が安定しないのではないか、といった声もあります。どのようにしたらフラットに受け入れるような環境をつくれるでしょうか?

ロンゲガード:現在、サムハルで雇用する6割が知的障がい者または精神障がい者です。その中には障がいの結果として、薬物中毒になっていたり路上生活をしている人も含まれます。そういった人々に対して重要なのは、自分たちが労働市場の一員なのだと感じてもらうことです。
本当の雇用を提供して、あなたはチームの一員なんだ、目の前にお客様がいるんだ、あなたが出勤してくるかどうかを見ている人がいるんだ、と理解してもらうことです。そうやって働いていくうちに、持っていた障がいは減弱して、仕事への支障が小さくなっていくものです。

外部への転職をどうやって動機づけるのか

出席者:一度サムハルに雇用された障がい者は、ずっとそこに居続けたいと思ってしまうのではないでしょうか。どうやって年間1,000人以上もの従業員に対して外部への転職を動機付けているのでしょうか?

ロンゲガード:現場の管理職は、障がい者の業務を近くで見ながら「どうやったらサムハルを卒業して外部で就職できるようになるか」という視点でコーチングをしています。
また、従業員にとってもサムハルで働いているうちは社会的には「障がい者雇用をされている」ということと同義ですが、イケアやボルボといった国際企業に転職できれば、より高いプライドにつながり、仕事の責任や、それにともなう給与もアップします。それが従業員が外部企業に転職したがるモチベーションになっています。

在宅勤務は認めるのか

出席者:サムハルでは在宅勤務は推奨しているのでしょうか? また、スウェーデンの学校教育で障がい者についてどのように教えていますか?

ロンゲガード:サムハルでは在宅勤務を認めていません。必ず出勤してチームの中で作業をしてもらいます。それがサムハルが成功した要因だと考えています。誰かができないことでも、他の誰かができればチーム全体としてひとつの仕事を完結できるようになるからです。
また、スウェーデンの学校教育で障がい者について授業はありますが、それほど大きなものではありません。ただ、精神障がいのある子どもでも普通学級に混ざって学びます。私の息子は14歳ですが、同じクラスにADHD、アスペルガー、自閉症の同級生がいます。これがスウェーデンの学校の日常風景です。

雇用についてどこまで責任を持つべきか

出席者:企業が障がい者を雇用して最大限の環境づくりや教育をしても、人によっては成長が見られなかったり、戦力になりづらい場合もあります。どうやって対応していったらよいでしょうか?

ロンゲガード:私は誰にでも必ず能力があると信じています。一方で、サムハルにおいても障がい者によっては、環境やツールを最大限に準備しても業務に貢献できない人というのは居ます。何をもって「貢献」と定義するのかは非常に難しいですが、サムハルで働けなければ他で働ける場所はないと考えているので、こういったケースについても勇気を持って話すことが必要です。
私は、そういった人に向けて意味のない単純作業のような仕事をつくり出してまで雇用するべきではないと考えています。それは仕事ではありませんし、その人の人生にとって有効な能力を身につけることにつながらないからです。

どうやって管理職を育成するか


出席者:サムハルにおいてマッチングやコーチングなど管理職の役割が重要だと感じましたが、何か特別なトレーニングや資格を提供しているのでしょうか?

ロンゲガード:特別なトレーニングや資格はありません。医師やセラピストは外部の専門機関が提供するので、サムハルは雇用のみにフォーカスしています。できるだけ物事を複雑にしないで、シンプルに扱うのです。
管理職には障がいについての本当に基礎的な知識だけを教えて、あとは顧客や仕事について注力をしてもらいます。実際に障がい者と働くことで、必要なスキルは身についていきます。
過去にはサムハル内に医者やセラピストが居た時期もあったのですが、出勤してきた障がい者に対して一日中「あなたは私たちと違う」と言い続ける効果を生んでしまったので、今は必要なときに外部の医療機関に委託するスタイルになりました。

デジタル化と障がい者の雇用

出席者:IoTなど近年のデジタル技術の進化によって、障がい者の新しい働き方が生まれた事例はありますか?

ロンゲガード:ひとつはマイクロソフトと連携して、従業員が簡単に一日の作業スケジュールを把握できるアプリを開発しました。これによって障がい者でもできる作業が増えました。もうひとつはデジタルエコノミー全般の効果ですが、Eコマースやリサイクルの領域で新しい雇用が生まれています。そしてその多くが、障がい者が働きやすい業務になっています。

移民とどう向き合うか

出席者:スウェーデンは移民を多く受け入れていますが、移民の中に含まれる障がい者について特別な配慮を行っていますか?

ロンゲガード:いいえ、特別なカテゴリー分けは行っていません。スウェーデンでは2015年に約20万人の移民や難民を受け入れましたが、まだ彼らは労働市場に参加していません。
一方で、そもそもサムハルで雇用している人材の約半数がスウェーデン国外の出身者です。障がいを持っていることもそうですが、受けてきた教育レベルが異なっていることも原因で仕事が見つからず、雇用庁からサムハルを紹介されてきます。外国人に対してはスウェーデン語の教育は行いますが、それ以外に特別扱いはせず、25,000人居るサムハルの従業員のひとりとして扱います。

ゲストプロフィール


モニカ・ロンゲガード(Monica Lingegard)
1962年生まれ。経営大学院で修士を取得後、IT(情報技術)及びインターネット関連のコンサルティング事業に従事。その後、スウェーデンの経営コンサルティング企業プレナックス・グローバルのCEO(最高経営責任者)などを経て、2005年に世界最大の警備保障会社である英G4Sのスウェーデン法人のCEOに就任、同法人の立て直しに手腕を発揮する。2011年4月にサムハルのCEOに就任した。
現在、スウェーデンの経済団体であるSvenskt Narringsliv及びSIDA(Swedish International Development Cooperation Agency)のボードメンバーも務める。また、スウェーデンの企業Wireless Maingate AB及び自動車大手サーブの部品製造を手がけるオリオの役員も務めている。

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