【レポート】DBIC-IMD共催プログラム:デジタル時代のビジネスモデル

2019.02.08

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2019年2月7日(木)、DBIC Tokyoにて「DBIC-IMD共催プログラム:デジタル時代のビジネスモデル」を開催しました。講師はIMDでファイナンスを専門とするサルヴァトーレ・カンターレ(Salvatore Cantale)教授です。

IMDは「フィナンシャル・タイムズ」によるビジネススクールランキングで2012年から7年連続世界1位(オープンプログラム部門)を獲得するなど、世界トップクラスの評価を受けているスイスのビジネススクールです。日本においてはIMDとDBICがパートナーシップを結び、マイケル・ウェイド教授による「DBIC-IMD デジタルビジネス・トランスフォーメーションプログラム」を開催するなど、幅広い活動を行っています。


サルヴァトーレ・カンターレIMD教授

Twitterから学ぶ、ビジネスモデル構築の困難さ

カンターレ:ある会社が事業を所有しているからといって、有効なビジネスモデルを持っているとは限りません。同じように、ある会社が現時点で利益を上げているからといって、バリューキャプチャー(価値の獲得)が有効にできているとは限りません。デジタル時代におけるビジネスモデル構築がどれほど困難なものか、Twitterの事例を通して見てみましょう。

Twitterは2006年、共同創業者のひとりであるジャック・ドーシーが会議中に最初のツイートをした瞬間に始まりました。後年、私はジャックと直接話す機会があり、創業時点でどんなビジネスを考えていたのかを質問してみたところ、彼は「即時に簡単にメッセージが送れる。それだけ。将来のことはあまり考えていなかった」と答えました。

その後、2009年にTwitterは非常にシリコンバレー的なエレガントな方法、つまりTwitterを使ったビジネスアイデアコンテストを開催します。採用されたのは、Twitterのサービスにユーザーが参加することで収集したマーケティングデータを他の企業に販売するというモデルです。今となっては当たり前のことですが、当時は新しかったのです。

すると、2007年に500万ドルの資金調達からスタートしたTwitterが、2010年には2億ドル、2011年には4億ドルを2回調達します。スタート時点でのTwitterのサービスそのものは、市場において大きな差別化や優位性があるものではありませんでしたが、ビジネスモデルを定義したことで循環型の事業が可能になったのです。

そして、そこに投資家が価値を見出せるようになったことがTwitterにとっての「決定的な瞬間」になったわけです。その後Twitterは上場して2013年には時価評価額が90億ドル、2019年には250億ドルに達します。

イノベーションにおける投資とリターン

カンターレ:アメリカのイノベーションファームであるDoblin社は、イノベーションに必要な要素を以下の4つのカテゴリーに分類しました。

  1. ファイナンス(ビジネスモデル/ネットワーキング)
  2. プロセス(周辺プロセス/コアプロセス)
  3. オファリング(製品のパフォーマンス/製品システム/サービス)
  4. デリバリー(チャンネル/ブランド/顧客体験)

これらの各カテゴリーについて、過去10年間、企業がどこに大きな投資をしてきたかをDoblin社が調査すると、ずば抜けて「オファリング」つまり、製品やサービスの開発や改善に投資がされていたことがわかります。それ以外のカテゴリにはほとんど投資がされていないと言っていいレベルです。

一方で、投資に対してどれだけリターンがあったかを見てみると、「ビジネスモデル」からの収益が圧倒的に高いという調査結果が出ています。大量投資をしているオファリングからはほとんど利益が出ていないのです。

自動車メーカーであるBMWの事例を挙げてみましょう。BMWにはX5というSUVタイプのシリーズがあり、過去5〜6年で3回ほどモデルチェンジをしています。BMWの担当者に「どうしてこんなに頻繁に新モデルを出すのか?」と聞いてみると「他の自動車メーカーが出しているから、BMWが出さないわけにはいかない」という答えが返ってきました。つまり、ここでの投資は市場開拓ではなく防御策として使われていることがわかります。

ビジネスモデルへの投資はなぜ効率的か?

カンターレ:先程、イノベーション要素のカテゴリー分類において「ビジネスモデルへの投資はリターンが大きい」というお話をしました。これは、正しく開発された新しいビジネスモデルは簡単にコピーできないことが理由です。これまで蓄積してきたスキル、リソース、経験を資産として活用することで、残るお金が増えて収益性が上がり、更にビジネスが強化されるという好循環を生むのがビジネスモデルなのです。

アップルは史上始めて時価総額1兆ドルを達成しましたが、その要因となったのはiPhoneでしょうか? iPadでしょうか? アップルの新製品発売タイミングと株価の遷移を比べれば、アップル躍進の起爆剤になったのは2001年のiTunesであったことがわかります。iTunesの登場によってアップルはコンピューターの製造会社からプラットフォーム企業にビジネスモデルをトランスフォームし、企業価値を飛躍的に高めたことになります。

IMDが定義する3つの価値

カンターレ:IMDではイノベーションのために必要な価値を「価格価値」「体験価値」「プラットフォーム価値」の3つに分類して定義しています。

価格価値とは、競合他社より1円でも安く製品やサービスを提供することです。格安航空会社などがわかりやすい例ですが、高級自動車で有名なロールスロイスも航空機エンジンのマーケットで価格価値を通して世界マーケットで約4分の1のシェアを占めています。絶対価格が高い商品だからこそ、エンジンのTOC(Total Cost of Ownership)が競合他社より2%安というだけで、B2B市場では圧倒的な強さを持っているのです。

体験価値の事例でわかりやすいのはスターバックスです。スターバックスのコーヒーは価格面で他より安いとは言い難いですが、世界のどこの店舗でも同じような空間で同じような体験を実現することで、ユーザーの支持を集めています。ネスプレッソも、「本格的なコーヒーを誰でも一定の品質で簡単に淹れられる」という体験価値を提供してで成功しています。一般的なコーヒー豆の価格が1キロあたり10〜15ドルなのに対して、ネスプレッソは150ドルですから、20%台後半という驚異的な利益率を実現しています。

デジタル技術によって新しく登場したのが、最後のプラットフォーム価値です。1977年から10年毎に時価評価額の世界ランキングトップ10企業を並べてみると、1977年にはIBMとAT&T が主役で、1987年には石油関連企業が登場し、1997年にはGEや日本からトヨタやNTTがランキングに入ってきます。2007年に初めてプラットフォーム企業であるマイクロソフトがランク入りし、2017年のランキングではトップ10社中7社がプラットフォーム企業(アップル、アルファベット、マイクロソフト、アマゾン、フェイスブック、アリババ、テンセント)で占められます。

私が2017年に共著で執筆した「PLATFORM ECONOMICS: Shareholder Value Analysis」という論文で調査したところ、2007年から2016年の10年間でグローバルな企業時価総額は全体で約10兆ドル増えています。そのうち約40%が、世界でたった230社のプラットフォーム企業によって創出されたものです。過去10年間に創出された価値のほとんどが、少数のプラットフォーム企業によるものだったという事実が、近年急速にデジタルトランスフォメーションが注目されている最大の要因なのです。

持続可能なビジネスモデルを形成するには?

カンターレ:私が気に入っているビジネスモデルの定義に「ビジネスモデルとは、いかにして組織が価値をクリエイト(創造)して、デリバリー(提供)し、キャプチャー(獲得)するかの根拠を説明するものだ(アレックス・オスターワルダー)」というのがあります。

まず、顧客が受け取るベネフィットから、それを提供するためのコストを引いた差分が価値として創造されます。このとき、提供側のコストは簡単に算出できますが、顧客にとってのベネフィットを生み出すのは困難です。「どうして顧客がその商品を買うのか」は論理だけでは説明がつかないことが多いためです。

次に、企業側が獲得できる価値は、上記で生まれた顧客価値をなるべく高く販売することで最大化できますが、競合他社に負けないようにある程度の値引きをした結果として最終利益(プロフィット)を得ます。ベネフィット、コスト、プロフィットのバランス、即ちクリエイト、デリバリー、キャプチャーのバランスを取ることで、持続可能なビジネスモデルとして成立させることができるのです。

ビジネスモデル事例紹介

ポルシェ
2017年、ポルシェはアメリカの一部地域で「ポルシェ・パスポート」と呼ばれるサブスクリプションサービスを開始しました。ユーザーは利用開始時に500ドルを支払い、月額2000ドル(4車種)または3000ドル(11車種)のプランを選択して、好きな車種を乗り換えながら利用することができます。このサービスは収益面でも成功しましたが、最も大きかったのは従来の販売ビジネスでは平均52歳だったユーザーとは異なる、30〜38歳という新しいセグメントのユーザーにリーチできたことでしょう。

アンダーアーマー
スポーツ衣料品メーカーのアンダーアーマーは「コネクテッド・フィットネス」と呼ばれるアプリを通して、衣料品販売からコーチングビジネスにトランスフォームしようとしています。同社のユーザーの目的は、衣料品購入ではなく、購入した衣料品を身に着けてエクササイズをして健康になることだと、再定義したためです。アプリの登録ユーザー数は2億人を超え、自社の衣料品に搭載されたセンサーからエクササイズデータを収集しています。世界のどこに居ても、自分と同じ年齢や性別のユーザーがどのような活動をしているか知り、同じコーチの指導を受けて運動をすることが可能になっています。

コマツ
1990年代から自社の重機にセンサーを取り付けていたコマツは、現在では43万台以上の重機から世界の建設や採掘に関わる現場データを集めています。コマツが長らく集めていたデータは投資判断ための有効な情報として価値を見出され、世界の投資銀行が新たな顧客に加わりました。

DHL
広大な倉庫で作業員が目当ての荷物を見つけるために、DHLは外部パートナー企業と組んでARゴーグルを開発しました。このゴーグルを付けた作業員は、倉庫内で次にピックアップする荷物がどこにあるか即座にわかるようになり、作業時間の短縮とミスの削減の両方の効果を生みました。

これからは製品やサービスではなく、ビジネスモデルの競争に


カンターレ:ポルシェのように新しい価値を提供するのか、アンダーアマーのように自社ビジネスの立ち位置を変えるのか、コマツのように新しい顧客を見つけるのか、DHLのようにパートナー企業と組んでコスト削減をするのか。新しいビジネスモデル開発のために、企業はこれから選択しなければなりません。

繰り返しになりますが、ビジネスモデルは価値を創出し、獲得し、それを持続可能になければなりません。デジタル技術の登場によって、10年前にはなかったプラットフォームビジネスが広がり、「価値の獲得」を実現する新しい方法が可能になっています。

最後に、私の好きな経営学者であるゲイリー・ハメルの言葉を引用をして終わりにします。「将来的には、製品やサービス間で競争が発生するのではなく、ビジネスモデル間で競争するようになるだろう」


IMD北東アジア代表の高津尚志氏


カンターレ教授に質問するDBIC代表の横塚裕志


DBICの2019年度活動について来場者に説明するDBIC副代表の西野弘

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