【レポート】横塚裕志が聞きたいシリーズ第15回:対話のない組織はなぜ滅びるのか?

2019.03.07

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2019年3月6日(水)、DBIC Tokyoにて横塚裕志が聞きたいシリーズ 第15回 「対話のない組織はなぜ滅びるのか?」を開催しました。

スピーカーは株式会社URUU代表取締役の江上広行様。江上様は地方銀行とシステム開発会社を経て2018年9月にURUUを設立した金融のスペシャリストでもありながら、対話を通した組織改革について金融機関や官庁へのコンサルティングを行っています。本レポートでは内容を再構成してお伝えします。

江上 広行様

あなたの「正しい」は、本当に「正しい」ですか?

江上:ファクトフルネス」という本をご存知でしょうか? 私も読んでいるところですが、「当たり前だと思いこんでいることが、実は正しくない」ということを教えてくれる本です。

例えば「1+1は2」はよいとしても、「会社の経営戦略が正しいか?」という問いに対して、これだけ複雑化している世の中で正解は誰にもわからないのではないでしょうか。でも、人は議論を戦わせて「自分が正しい」と主張してしまう。これをどうやって乗り越えるか、というのが本日のテーマです。

どうして人は自分が「正しい」と思うのか。そこには恐れがあると私は考えます。自分がやっていることが正しくないと居場所がなくなってしまうのではないか、他者から相手にされなくなっていまうのではないか、という恐怖です。もし、その「正しい」を手放すことができたら何が起こるでしょう。

今は、VUCA(Volatility:変動性、Uncertainty:不確実性、Complexity:複雑性、Ambiguity:曖昧性)とも呼ばれる不確定な時代ですから、近い将来のことすら予想が難しい。現時点で金融業界に居る人が未来のお金の話をすることは、例えれば馬車の時代を生きている人が自動車の話をしているようなものかもしれません。

私が好きなアインシュタインの言葉に「今日、我々の直面する重要な問題は、その問題をつくったときと同じレベルでは解決できない」というものがあります。従来の価値観を再定義して、そこから新しい世界観を生み出すには「対話」しかないと私は考えます。デザインシンキングやアートシンキングなどの手法も、すべて対話が含まれています。社会課題やビジネス課題を解決するためには、これまでのやり方では答えが出ないのです。

ジグソーパズルとルービックキューブ

江上:問題解決には大きく分けて「分析的アプローチ」と「統合的アプローチ」があります。

分析的アプローチではロジカルシンキングに代表されるように、最初に問題を見つける必要があります。問題はこれだという仮説を立てて、その問題を解決するために専門家を呼んで直線的に進もう、という考え方です。従来のビジネスではこのやり方が多かったと思いますし、それが悪いわけではありません。例えるならジグソーパズルのように完成形があって、欠けているピースがあって、それを埋めていくアプローチです。

ところが、答えがないVUCAの時代では問題そのものを再定義する必要があります。完成形に見えるものは、完成形ではないかもしれない。そこで登場したのが統合的アプローチ。システムシンキングがその代表例です。ルービックキューブをイメージしてください。自分に見えている面の色を揃えようとすると、他の面を壊してしまいますよね。会社で6つの部署があって、お互いに自分だけの面を揃えようとして他の部署の面を壊し続けるような状態は、皆さんにも心当たりがあると思います。

勝ち負けを決めないことで、何かが立ち上がってくる

江上:議論と対話の違いについては様々な考え方がありますが、ここでは議論(ディスカッション)は勝敗を決めるものだと定義してみます。

ディスカッションはパーカッションと同じ語源で、「叩きあう」という意味があります。両側から卓球のように打ち合うイメージです。たまたまボールが中間に落ちる場合もありますが、それでも3:7とか4:6とかで勝敗が決まるわけです。会社組織だと「決める」ことが必要ですから、論破したり説得したり、どうしてもこうなってしまいがちです。

一方で対話(ダイアローグ)は勝敗がないですから、対話することでもともと参加者が持っていた知識や気づきを超えたものが立ち上がってくる可能性があります。これを「創発」と呼びます。

とにかく相手の言うことを判断や解釈せず、ひとまずそのまま受け入れるのがポイントです。アドバイスも禁止です。渡り鳥の大群が飛行中に空で模様を描くことがありますよね。そのとき一羽一羽の鳥は、自分の前方にいる2羽と等間隔を取って飛ぶことしか考えていないそうです。でも、全体として見ると大きなものが立ち上がってくる。これが創発です。

価値観が違う人たちがどうやったら対話ができるようになるかをテーマにした素晴らしい動画があります。ビール会社のハイネケンがつくった「Worlds Apart」というこの動画をぜひ見てください。価値観が違うと思っていた相手とも、共通点を見つけることはできるのです。

不均衡の圧力鍋にステイすることが対話だ

江上:対話の理論にも有名なものがたくさんありますが、私が最近気に入っているのがロナルド・A・ハイフェッツが書いた「不均衡の圧力鍋にステイすることが対話だ」というものです。これだけだとよく意味がわからないと思うので解説します。

ある組織で不均衡が発生したとしましょう。わかりやすく言うと、災害であったり不祥事です。そうすると、普通は一刻も早く火消しをしたくなります。解決や再発防止のために新しくルールを決めたり、担当者を解雇したり、といった具合です。これを「技術的な対応」と呼びます。自動車が壊れたから修理工を呼んで直すイメージですね。人間は不均衡に耐えられないのです。

しかし、企業や社会が直面している問題の中には、突然起こったものではなく10年前や20年前から起きていたものも多くあります。例えば人口減少とか、新しいビジネスモデルとか、地方の衰退、といった類のものです。これに対しても国や組織はすぐに技術的な対応をしたがりますが、対処療法では根本的な解決せず、何度も何度も同じ問題が湧き上がってきます。

これに対してハイフェッツは「圧力鍋の中に居続けなさい」と言っています。圧力鍋とは、問題が解決しないモヤモヤした状態のことです。そこで対処療法に手を出さずになるべく長い間、悶々と耐え続けなさい、と言うのです。そうしているうちに、人間は苦しいのでお互いに助け合ったり、共感したり、対話が生まれてきます。これを「不均衡の生産的領域」と呼びます。

そして、ある瞬間、それは人間にはコントロールできないふとした突然のタイミングで、対話から「あ、そうか」と、何かが立ち上がり圧力鍋の蓋を開けて次に進めるときがくるのです。これは対話の中からしか生まれてこない。私はこの考え方が大好きで、いろんな場面でお話しています。

対話は「導入」するものではない

江上:近年は「対話」への関心が高まっていて、「どうやって対話を導入したらいいですか?」と聞かれることも多くなりました。でも、対話は導入するものではないのです。例えるなら「家族愛」は導入するものではななく、そこに「ある」ものですよね。対話は「Doing」ではなく「Being」だと私はお答えしています。

組織として自分の弱さを隠すために、稟議書とかハンコとかルールにコストをかけてしまっていないでしょうか? それより、誰でも「助けてください」「ありがとう」「ごめんなさい」と言える組織の方が、結果的に生産性が高くなるのではないでしょうか?

キリンビールの「V10推進プロジェクト」という有名な事例があります。2000年代初頭にキリンビールがアサヒビールに市場シェア1位を取られてしまい、様々な施策で巻き返しを図りましたが、なかなかうまくいかない時期が続きました。2009年にまた首位を奪還するのですが、そこで大きな原動力になったのが社長と社員との対話でした。

私がお手伝いしている金融機関でも、対話によって本当に素晴らしい組織に生まれ変わろうとしている事例をリアルタイムで目の当たりにしています。組織の中に対話があることは本当に重要なのです。


参加者はイスラエル生まれのコーチングルーツ「ポイントオブビュー」を体験


プログラムの後半は江上様がファシリテーターを務め、DBIC代表の横塚裕志がテーマを出した「質問会議」を開催しました。参加者全員で「問題の再定義」の過程を体感しました

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