【渋谷健】イノベーターズ・マインド ブートキャンプ概論

2019.07.19

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DBICディレクターの渋谷健です。私がDBICで定期開催している2日間の「イノベーターズ・マインド ブートキャンプ」について、開催目的、プログラム構成、成果などをまとめたレポートを作成しました。

今後の参加の検討材料や、既に参加した皆さんの振り返りとしてご活用ください。

プログラムが誕生した背景


2018年12月開催の「イノベーターズ・マインド ブートキャンプ」の模様

複雑化する社会課題に対してイノベーションは必然です。イノベーションは事業のみならず、組織構造、さらには一人ひとりのマインドセットからの変容が不可欠となります。

事実、2016年5月の発足以来、DBICはイノベーションの取り組みを重ね、他の組織におけるイノベーションの取り組みも多く研究してきましたが、以下のアプローチではイノベーション創出を実践することは困難でした。

  • 新規事業のアイディアコンテストを行う
  • スタートアップ・ベンチャーとマッチングする
  • 専門性の高い研修プログラムに参加する
  • 専門家や有識者によるアドバイスを受ける
  • 組織体制を変える
  • 会社の方針として発信する

いずれもイノベーション創出に不可欠な要素ではあります。しかしながら、部分的に行っても何ら成果は出ません。上澄みの事業戦略を変えるだけでは機能せず、そのための従来の組織文化の枠組みを超える変革は不可欠であり、その根源である一人ひとりのひとが変わることが求められてきます。

さらに言えば、単純に知識を持ったり、スキルを磨いたりするだけでも足りません。すでに多くの企業は十分な知識教育・スキル教育を行っています。

では何が足りないか。これまで多くの取り組みを行い、数多くの対話を多様な方々と重ねてわかったことは、一人ひとりのマインドセットを根本的に変容することが必要、ということでした。ここでいうマインドセットとは精神論ではなく、認知能力(学習能力)であり、変容とはその発達のことを指しています。

そこでDBICでは、マインドセットに焦点をあてたプログラムを重視し、「イノベーターズ・マインド ブートキャンプ」を提供しています。

プログラムの開催目的


2019年7月開催の「イノベーターズ・マインド ブートキャンプ」の模様

認知能力自体は本能的に人間が持っているものであるため、誰にでも発達は可能です。ゆえに認知能力の発達を意図的に行えるようにすることでイノベーションのための土台は形成することが可能です。

認知能力の発達のためにははまず、認知発達の仕組み(認知発達システム)を論理的・体感的に理解することが必要になります。つぎに実践することで自分自身で扱える状態をつくることが求められます。そのうえで実務において実践し続け、自ら研鑽を積み上げていくことにより、イノベーターとして自律していくことが可能になります。

本プログラムは2日間の集中プログラムを通じて、認知発達システムを論理的・体感的に理解し、実務において持続的に実践可能にすることを目的にしています。

プログラムの特徴


2018年12月開催の「イノベーターズ・マインド ブートキャンプ」の模様

本プログラムは実務における具体的なイノベーション創出につなげていくことを目的としています。すなわち本プログラムはイノベーション創出のための入り口を提供するものであり、本プログラムを修了したのちに継続的に実践できるようにすべてのプログラムを構成しています。このため、以下7つの特徴を有しています。

特徴1:実践者によるプログラム提供

講師自身が理論を理解しているだけでなく、十分に経験を有する実践者であることを前提としています。また講師だけでなく、プログラムのアシスタントメンバーについても本プログラムの修了者であることを前提としています。

特徴2:スピーディーな展開

既成概念に引きずられないようにするため、イノベーションおよび認知発達システムに関する大量な情報を2日間に凝縮しています。資料総数は300ページを超えており、プログラム中は要点を押さえ、修了後に振り返りができる構成としています。

特徴3:体感重視

可能な限り早い段階での実践アクションにつなげていくために、理論よりも体感的な理解を重視しています。このため体感型ワークショップを中心にプログラムを構成しています。

特徴4:ケーススタディ中心

実践可能で具体的な学びを積み上げるため、講師が可能な限りケーススタディを提供して学びを深めていきます。ケーススタディの提供にあたっては、過去の事例だけでなく現在進行形の事業についての知見も提供しています。

特徴5:組織学習

参加者同士の学習効果を高めるため、組織学習を取り入れています。相互に学び取った内容をレビューしあう対話の時間を十分に取り入れ、さらに講師によるサポートを組み込んで学習効果を高めています。

特徴6:主体性重視

積極的な学習・探求のため、個人の主体性を非常に重視しています。このためすべての場面において自由意思により選択が可能になっています、たとえば個々の課題については、講師から提示はしますが実施するかどうかは参加者の自由意思となっており、途中退出も可としています。

特徴7:継続サポート

プログラム終了後も継続的にサポートするために、修了生コミュニティを用意しています。修了生コミュニティはブートキャンプ修了生自らが自主運営しており、互いのケースを持ち寄って組織学習を進めています。

1日目(午前):イノベーションの課題を理解する


2018年9月開催の「イノベーターズ・マインド ブートキャンプ」の模様

初日の午前中は、イノベーションの必要性とその阻害要因、およびそこで求められる認知発達システムについて対話形式で共有します。

対話形式にすることで個々人の直面するリアルなケースをイメージするとともに、客観的な意見を他の参加者からもらうことで、一つ一つイノベーションの課題を自分事として理解・確認することが可能となります。

認知発達システムは認知の対象となる事象(社会課題、事業環境など)と、認知する主体(社会課題に取り組む人そのもの、自分自身や支援する対象者)、認知を手助けする媒介(補助役、先生役など)の3つの基本要素から成り立っています。

これをもとに、より複雑な事象を理解できるようにするとともに、主体として扱える抽象性=感性の精度を高め、普遍的に対応できるようにしていくことが求められます。

本プログラムでは42のステップで認知発達システムを扱える方法論を用意し、課題の深堀からアクションデザインまでを行うことができます。とくに段階的に行うことで利害関係者の深い心理状態に寄り添い新たな気づきを得る、すなわち深い探求と学習を可能にすることができます。

また、認知発達システムを扱うことで、いかなる場面においても自分自身が取り組んでいることについて、以下6個の質問に対し“YES”といえる状態を創り出していくことをゴールとしています。

  • それは本当に世界に必要か?
  • そこに無条件の信頼はあるか?
  • そこに自分の存在理由はあるか?
  • そこに全身全霊で向き合えているか?
  • そこに人生の喜びはあるか?
  • 明日死ぬとしても心から笑えるか?

1日目(午後):イノベーションの認知発達システムを理解する


参加者同士の対話の模様(2019年7月開催の「イノベーターズ・マインド ブートキャンプ」)

初日の午後は認知発達システム自体を論理的・体感的に半日をかけて理解するワークショップを行います。

個人の内省的なワークを中心として参加者は自分自身が直面している課題をケースとして扱い、講師が適宜サポートしながら進めていきます。

ワークの内容はデッサン人形や写真などを使ってアートシンキング的に課題を表現するところから始まり、直感的にワークシートに書き込むことを繰り返し、自分自身の源泉にある深層心理を掘り下げ、さらにそこから何を求めているかを探求し、再びデッサン人形や写真などを使って求める未来を描き出すプロセスを約5時間をかけて行います。


デッサン人形と写真を使ったアウトプットの例(2019年7月開催の「イノベーターズ・マインド ブートキャンプ」)

参加者は最終的に自分自身の課題を明確化し、解決に向けたアクションをデザインすることになります。また終了後にそのプロセス全体を振り返り、実践応用していくためのアプローチを全員で対話を通じて共有していきます。

なお、初日の夜は懇親会形式にて個別のフォローアップが行える時間を用意しています。

非常に大量な知識をインプットし、かつ実践するため、個々の理解度合いに差ができてしまいやすいので、懇親会の時間を通じて講師やサポートスタッフが参加者個々と対話して理解整理を手伝います。

2日目(全日):認知発達システムの実践演習を行う


参加者同士の相互レビューの様子(2019年7月開催の「イノベーターズ・マインド ブートキャンプ」)

2日目は実践を重視しており、実務上多く発生し得る3つのシーンを想定してプログラムを提供します。

1日目が個人として認知発達システムを扱うアプローチだったことに対し、2日目は周囲との関係性のなかでダイナミックに認知発達システムを扱うアプローチを学んでいきます。

これにより周囲との相互関係の中で自ら気づきを得るとともに、周囲に対しても学びの機会を提供し、全体の成長発達に貢献することを可能にしていきます。

また、実務上想定されるシーンを疑似体験することで、実際に自分自身が直面する実践時の課題を先んじてあぶり出し、解決策を参加者相互で共有することで、全体としての実践力を高めていきます。

n対1

n対1のワークでは一人に対して複数名で対話するシーンを想定し、方針発表やインタビュー調査などの機会に応用することを狙います。講師自身がケース提供者となり、参加者全員と対話をしていきます。

参加者は講師のケースを通じて何を学ぶか、その意図を設定したうえで、認知発達システムを用いて講師から求めている知見を引き出すことにチャレンジします。

実施にあたっては設定した意図(新事業のアプローチを理解したい、地方創生の考え方を知りたい、デジタルの在り方を学びたい、など)ごとにグループをつくり、認知発達システムを使って、講師が伝えようとしていることを深く理解するとともに、自分自身の獲得した学びを整理していきます。

ワーク終了後はグループごとに成果を共有し、認知発達システムに基づいて講師からフィードバックをしていきます。とくに引っかかってしまった部分に対する対応法を共有し、アプローチを修正して、実践的な知識に落とし込んでいきます。

1対1

1対1のワークは一人に対して一人で向き合って対話するシーンを想定し、上司や部下、同僚と相談する機会に応用することを狙います。

初日やn対1のワークを踏まえて、自分自身が抱えるイノベーション創出に向けての課題を相談しあい、解決策を見つけ出していくことを認知発達システムを用いて行っていきます。

最大の特徴としてはペアワークで進むため、講師からの細かな指示はなく、やり方はすべて自分自身で考えなければなりません。創意工夫が必要となります。

これにより、“どのようにやればいいか”を自分で考えて実践する素地をつくることができ、実務に戻ったときに実践することがより可能になっていきます。

ワーク終了後はそれぞれのペアでの成果を共有し、n対1のワークと同様に認知発達システムに基づいてフィードバックをしていきます。ただし、原則として参加者同士でフィードバックを行い、不足するところを講師がフィードバックする形式をとります。

これにより認知発達システムを扱うために何が必要かを実践的に考え、修正する素地も築いていきます。

n対n

最後はn対nのワークです。参加者同士はすでにここまでの時間で互いにやりたいことや考えていることを共有しているため、興味関心がある人同士で3人以上のチームを自由に組んでもらい、イノベーション創出のために必要な対話を自由に行ってもらいます。

このワークにおいては講師からは明示的なゴール設定はありません。もちろん、進め方の指示もありません。約2時間の自由な時間だけが与えられます。

その中で参加者は自分自身で目的を設定し、チームをつくり、役割を決め、進め方を整理し、アウトプットを出すことが求められます。そこで使える武器はここまで学んだ認知発達システムの理論と体感となります。

これは実務に戻ったときに、イノベーターとして最も活躍が期待されるシーンを再現したものであり、そこでどう動くべきかを体感し、学ぶことが狙いとなっています。より実務に即した実践的な課題をあぶりだすとともに、その解決に向けてのアクションを描きやすくすることが可能になります。

ワーク終了後は形成されたチームごとに成果を共有するのですが、この時間においては明示的なフィードバックは行いません。実務の現場においては明示的なフィードバックが必ずしも得られるわけではないからです。

総括的な話は講師から行いますが、フィードバックが必要であれば能動的に動いて得にいくことを暗示します。そのことに気づくこと自体もワークの目的となっています。

プログラムの成果


2019年7月開催の「イノベーターズ・マインド ブートキャンプ」の模様

本プログラム参加者の多くが実際に事業の現場で、新たなチャレンジに取り組んでいることから十分な前提知識があり、認知能力としてマインドセットを捉え、認知発達システムを論理的に理解し、ワークを通じて扱うことが可能となっていました。

事実、2019年7月開催のプログラムにおいて、1日目のワークはすべての参加者が遅滞することなく最後まで修了することができています。このことから、本プログラムの目的であった論理的・体感的な理解は十分に行えていたと捉えています。

一方で実践応用に関しては個々人の抱えている環境によって、実現可能性の度合いが分かれてきています。すでに一定の裁量を得て自由に動くことができる参加者は、イノベーション創出に向けて、いかに具体的なテーマ設定を行うかが課題となっていました。

一方で組織内での制約が大きい参加者は、いかに組織内での理解共有を行うとともに、実践に向けた仲間を築いていくか、学びを重ねていくかというところに課題意識を置いていました。

こうした具体的な実務上の課題が明確になり、かつ本プログラムを通じてその解決策を考えてきたことは、実務における実践可能性を高めているものであります。

以上から参加者においてはイノベーターズ・マインドとして求められる認知発達システムについては、その基礎を習得できていると言えます。

一方で持続可能な実践のためには、実務の中で周囲と協調しながら経験を積み上げ、今回の学びを自分のスタイルに磨き上げていくことが重要となっています。

次のステップに向けて


2018年11月開催の「イノベーターズ・マインド ベーシック講座」の模様

本プログラムの修了は、イノベーションに必要なマインドセット=認知能力を獲得し、イノベーターとして踏み出す一歩目でしかありません。

イノベーション創出を実践していくためには次のステップが必要となります。それぞれのイノベーションへの関り方により、自分の意思で選択していくことが重要であり、同時に組織としても適切な支援を行っていくことがイノベーション創出には求められてきます。

このことから次のステップとしては、参加者当人に対する継続的なフォローアップが有効になります。同時に組織としては参加者当人によるイノベーション創出を支えていくために、理解浸透を図るとともに仲間を増やしていくことが重要となります。

参加者に対するフォローアップについて

フォローアップとしては、ブートキャンプ修了生によるコミュニティ「GCAP」にて行っています。

概ね月に2回程度集まり、ブートキャンプ修了生同士での悩みを共有したり、互いの知見を持ち寄ってイノベーション創出のためのビジネスプランをデザインしたり、知見を探求するための勉強会を行ったりしています。ブートキャンプ修了生全員が参加する権利を有しています。

また希望者に対しては1か月を過ぎたあたりから、講師との個別面談機会を設けています。その後、実務で実践して出てきた悩みを解消する機会として活用いただけます。

加えて参加者にはDBICの他のプログラムへの参加も推奨しています、とくにデザインシンキングなどのプログラムを受講することで、マインドセットに加えて具体的なスキルも身につき、より実践的にイノベーション創出に取り組むことが可能になります。

なお、すでに実施している「イノベーション創出実践プログラム」においては、個々人に対する個別コーチングを継続的に行っています。加えて各分野の必要な人脈形成を支援し、組織などの枠組みを超えて関係各所を繋ぎ、イノベーション創出に向けたチャレンジを進めています。

組織に対するサポートについて

今回の参加者を支えることになる組織に対しても、ご要望に応じてイノベーション創出に向けた支援を提供しています。詳細はDBIC事務局にお問い合わせください。

A. イノベーターズ・マインド プログラム説明会
イノベーターズ・マインドのプログラムで実施している内容の概略説明を各社に訪問して行います。個別MTG形式から、セミナー形式でも対応しています。その際に、どのようにイノベーターズ・マインドのプログラムを活用すべきかのご相談も承っています。

B. 「イノベーターズ・マインド ベーシック講座」実施
イノベーターズ・マインドの必要性を理解するためのプログラムである、約半日の「ベーシック講座」を提供しています。参加者の周囲の理解が得られることで、より協調的にイノベーション創出の活動が可能になります。DBICでも定期的に提供していますが、ご要望に応じて各社での出張開催も対応しています。

C. 「イノベーターズ・マインド ブートキャンプ」実施
イノベーターズ・マインド ブートキャンプ」そのものをDBICでの開催に限らず、対応しています。必要人数がそろえば各社への訪問や、各社が主催する形での提供にも対応しています。イノベーターとして活躍できる人財そのものを増やしていくことに貢献できます。

※本記事は2019年7月開催時の内容をベースに作成しています。本プログラムは内容をプラッシュアップしながら進化していくため、将来的に構成を一部変更する場合があることを予めご了承ください。

参考文献

  • 野中 郁次郎(1996)「知識創造企業」
  • 藤本 浩一,芦塚 英子(2006)「フォイヤーシュタインの理論と日本での実践:発達障害から才能教育まで
  • 前野 隆司(2013)「幸せのメカニズム 実践・幸福学入門」
  • C・オットーシャーマー (2017)「U理論[第二版]」
  • ティム・ブラウン(2014)「デザイン思考が世界を変える」
  • ドネラ・H・メドウズ(2015)「世界はシステムで動く」
  • ピーター M センゲ(2011)「学習する組織」
  • フレデリック・ラルー(2018)「ティール組織」
  • マイケル・ウェイド(2017)「対デジタル・ディスラプター戦略」
  • ロバート キーガン(2017)「なぜ弱さを見せあえる組織が強いのか」

執筆者紹介


DBICディレクター 渋谷 健
「事業に脚本を」をコンセプトに、関東と九州の2拠点を軸に全国各地でプロのファシリテーターとして活動展開。主に産学官民金言連携やオープンイノベーションをテーマとした行政政策や企業戦略の立案・実行に関わっています。参考資料:「かせぐまちづくり」(DBIC「地方創生研究会(2017年度)」関連成果物)

主なファシリテーションによる成果実績

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