【シンガポールレポート】マーケットダイブツアー(香港・深セン)

2019.07.21

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2019年7月8日(月)~12日(金)に、シンガポールイノベーションプログラムのマーケットダイブツアー第二弾を開催しました。訪問先は中国と東南アジアのゲートウェイである香港、そして中国のイノベーションを牽引する深センです。

今回のツアーの目的は、香港で開催されるアジア最大級のイノベーションイベントである「RISE Hong Kong 2019」に参加してスタートアップ企業の情報を収集すること、香港と深センのデジタルイノベーション戦略を理解すること、そして中国のイノベーション発信地である深センを肌で感じて学ぶことです。

日程

    2019年7月8日(月)
    ・香港の各地訪問
    ・プログラム中間レビュー
     
    2019年7月9日(火)~10日(水)
    ・RISE Conference 2019 参加
     
    2019年7月11日(木)
    ・香港から深センに高速鉄道で移動
    ・深セン市街ツアー
     
    2019年7月12日(金)
    ・ファーウェイ本社訪問・ディスカッション
    ・インキュベーション施設「トラブルメーカー」訪問

 

香港の各地訪問とプログラム中間レビュー

香港は古くからアジアの金融ハブとしての役割を担ってきました。中国を含めたアジア主要都市へのアクセスに優れ、一国二制度を活かしたオープンなビジネス環境と低い法人税制で、多くのグローバル企業が香港にヘッドクォーターを置いています。
IMDの「国際競争力ランキング2019」でも香港はシンガポールに続き第2位にランクインしています。


100万ドルの夜景として有名なビクトリアピークからの眺め

また香港特別行政区政府は、中小企業やスタートアップに対する助成金制度、起業家をサポートするインキュベーションプログラムなどを提供し、様々な施策でフィンテックを中心としたイノベーションを推進しています。

さらに近年では粤港澳大湾区(広東・香港・マカオ港湾地区)という周辺都市の経済統合により、世界トップクラスの規模を持つ経済圏が形成され、まさにアジアにおける経済成長のエンジンになっています。


香港理工大学キャンパス

初日は参加者がそれぞれ「香港サイエンスパーク」「サイバーポート」「香港理工大学」「香港デザインセンター」などを訪問しました。

夕方には日本からプログラム責任者であるDBIC副代表 西野弘が来港し、プログラム中間レビューを開催しました。参加者に1人ずつ「これまでのプログラムで何を学んだか」「何が自分に足りていないか」「これからのプログラムで何をするか」をインタビューし、学びを共有しました。


プログラム前半戦のチェックポイントである中間レビュー

各参加者とも明確な学びの目標を共有することができ、プログラム前半3ヵ月の明らかな成長を感じることができました。7月からは今までの学びを活かした実行力が試されるフェーズです。参加者は気合も新たに後半戦に臨みます。

 

RISE Hong Kong 2019 参加

2019年7月9日(火)からは今回の香港ツアーの目玉である「RISE Hong Kong 2019」(以降RISE)に参加しました。


会場となる香港コンベンション・アンド・エキシビション・センター

RISEはポルトガルのリスボンに拠点を置くWeb Summit社が主催するアジア最大級のイノベーションイベントであり、7月9日~7月11日の実質3日間で、100以上の国から16,000人以上の参加者、300社以上のスタートアップ企業が集まります。また日によって出展するスタートアップが変わるため、毎日新たな発見があるイベント構成になっています。


世界中からRISEを目当てに人が集まっています

RISEはシンガポールのイノベーションイベントと比較してスタートアップの成熟度が高く、アメリカやヨーロッパなど世界各国からスタートアップが集まっています。多くのスタートアップが自国で実績を積み、満を持して巨大マーケットである中国を目指して出展しています。
シンガポールが1からアイデアを生み出す実証実験の環境であるのに対し、香港はアイデアをマーケットに拡げ大きく育てる環境と言えるでしょう。

RISE公式トレーラー映像

若い起業家の熱意によるエネルギーはすさまじく、その有機的なネットワークが強力なビジネスの土台を築いています。一方でシンガポールと同様に日本のスタートアップの数が少なく、アジアのグローバルイノベーション環境で日本が置き去りにされている現実にも気づかされます。


活気にあふれる会場内

出展しているスタートアップのトレンドとしては、香港が得意とするフィンテックはもちろん、AIロボティクス、IoT、ブロックチェーン、フードテック、ヘルステック、トラベルテックなどに関する技術が数多く出展されていました。


多種多様なスタートアップが市場拡大を狙って出展している

 

香港から深センに高速鉄道で移動

7月11日(木)は2018年9月に開通した広深港高速鉄道で深センに移動しました。香港から深センを経由して広州までの142kmを結ぶ路線で、香港~深セン間の約30kmを所要時間14分で結びます。始発駅である香港西九龍駅でチケットを買い、香港の出国審査と中国の入国審査を受けました。


出入国設備を備えた香港西九龍駅(上層フロアは香港管轄・下層フロアは中国管轄)


中国の入国審査場に設置された指紋登録機で10本指すべての指紋を登録

車両は中国のメーカーである四方機車車輛社が川崎重工業の技術提携を受けて製造したもので、とても快適な社内になっています。出発10分前に車両に乗り込むと、ひと息つく間もなく深センの中心部である福田(フーティエン)駅に到着しました。


日本の新幹線のような車内に、荷物置き場やディスプレイが備わっています

 

デジタル化が進んだ深センの街中

深センに到着すると香港との違いに驚きました。英語は単語ですらほとんど通じず、他国では駅周辺で見かける両替商が見当たりません。街中を走るバスやタクシーはすべて電気自動車で、電気スクーターがハイスピードで歩道を走っています。小さな商店では英語・現金・クレジットカードが使えず、旅行者は途方に暮れてしまいます。


市内を走るバスとタクシーはほとんどが電気自動車

地下鉄に乗るのもひと苦労です。少額紙幣かQRコード支払いしか券売機が受け付けていないので、深センに到着したばかりの旅行者は切符を買うことすらできません。


切符の購入はWeChat Pay/Alipay/5元か10元札のみ

中国のペイメントはWeChat PayもしくはAlipay、そして銀聯カードが主流であり、ショッピングモールなどの大規模商業施設では現金と国際クレジットカードが利用できますが、公共交通やローカルショップでは支払いができません。


QRコードをスキャンするとすぐにトークン(切符)が出てきます(画像を一部加工済)

また以前は旅行者でも使えたWeChat Payが使えなくなっており、Alipayも個人ではチャージができません。今回は事前に友人の協力を得てAlipayを用意していたため、なんとか地下鉄に乗ることができました。

 

平安国際金融中心

まずは地下鉄に乗って平安国際金融中心ビルに向かいました。このビルは世界第4位の保険会社である中国平安保険が建設した、116階建て・600mの高さを誇る高層ビルで、世界で4番目、中国では最も高いビルです。(2019年7月時点)


平安国際金融中心タワーのオフィス入口

施設内に入場するといくつかのシアターホールがあり、深セン発展の歴史や平安保険の活動を学ぶことができます。平安保険は人民政府および交通警察と共同で深セン市のスマートシティプラットフォームを構築・運営しています。
この交通管制システムのビッグデータを活用し、交通事故処理の迅速化、交通渋滞の軽減、観光地の駐車場の制御などを実現しており、公共機関と民間企業が連携した高度な都市管理を実現しています。


わずか30年で急激に発展した深センの歴史を紹介するシアター

海抜541mに位置する展望台からは深セン市の眺望を360度楽しむことができます。また展望台にはデジタルズーム式の望遠鏡や、ビルをテーマにしたVR体験施設が備えられており、デジタル技術を活用してリアルでもバーチャルでもその高さを体験することができるようになっています。


展望台からの眺め


タワーの外壁をめぐるジェットコースターを仮想体験できるVR設備(有料)

 

新興電気自動車メーカー「NIO」

続いて隣接するショッピングモールにある自動車メーカー「NIO」のショールームを見学しました。NIOは上海に本社を置く高価格帯の電気自動車を生産するスタートアップ企業で、2018年9月にニューヨーク証券取引所に上場しています。


NIOのフラッグシップモデルである「EP9」

ショールームには価格表示やパンフレットが無く、リアルからWebサイトに誘導するためのチャネルとして店舗が活用されています。また店舗内にはオプションとなる塗装やホイールのサンプルが置かれており、実物を確かめることができます。

車両には人工知能を搭載した「NOMI AI」と呼ばれるアシスタントが搭載されており、音声で車内設備を操作することができます。またNIOのラインナップは性能が高く価格も手ごろであり、自動運転技術の研究も進めていることから、未来の大手自動車メーカーとしての活躍が期待されています。


車内に設置されたAIアシスタント「NOMI」

 

鮮度を売りにした次世代型スーパーマーケット

次は「盒馬鮮生」(フーマーフレッシュ)を訪問しました。アリババグループが手掛ける次世代型のスーパーマーケットです。


福田駅近くのショッピングモール「皇庭広場」地下1階にあります

盒馬鮮生は中国国内に150店舗を展開し、その売り上げの7割以上が買い物代行サービスによるものです。顧客が自宅からアプリで注文すると、店舗スタッフが店内で商品を集め、バッグに詰めて配送します。


青いシャツを着た集荷スタッフが店内を回って商品をバッグに詰めます

従来の買い物代行サービスは商品の鮮度や品質に問題がありましたが、リアル店舗でプロセスを見せながら新鮮な商品を配達することで顧客の不安を払拭し、大きなシェアを得ることができました。この方式は中国の競合企業やシンガポールの企業も参考にしており、アジアにおけるスーパーマーケット経営の主流になっています。


電気スクーターで顧客の家まで商品を配達するスタッフ

リアル店舗を利用するためには、事前にAlipayと盒馬アプリを手元のスマートフォンにインストールしておく必要があります。なぜなら支払いはセルフレジのAlipay払いだけだからです。商品をスキャンし、盒馬アプリで表示したQRコードをスキャンするだけで支払いが完了します。


レジはセルフ方式のみで完全キャッシュレス

また商品のバーコードをアプリで読み込むことにより、生産地・生産者の情報やレシピまで見ることができます。隣接のレストランで新鮮な食材を使った料理を楽しむこともできます。

リアル店舗とデジタル技術をミックスし、新たな体験価値を生みだし、生鮮ECという新たな市場を生み出す。まさにスーパーマーケットのデジタルトランスフォーメーションが進んでいます。

 

閉店した無人コンビニ

続いて華強北(ファーチャンベイ)地区に移動し、無人コンビニの「百鮮GO无人超市」に向かいました。商品扉の開閉をQRペイメントアプリでおこない、1つ1つの商品に付けられたRFIDタグをセンサーに通すことで、無人会計を実現した店舗です。

しかし現地に着いても店舗が見つかりません。それもそのはず。2018年2月にオープンした店舗は、1年足らずの2019年5月に閉店済みでした。


看板に痕跡だけが残っている店舗跡

閉店の原因は、利益率が高い生鮮食品を置けなかったこと、そして体験が自動販売機と同じであると顧客が気づいたため、急速にブームが鎮火して閉店に至ったとのことです。

この撤退の速さにもアジアらしいアジリティを感じます。しかし彼らは実行し、失敗し、そこから学んでいます。
この失敗による学びが次のイノベーションの原動力になっており、イノベーションに取り組んでいる国とそうでない国との差になっています。

 

華強北(ファーチャンベイ)地区

華強北は中国最大級の電機街であり、歩行者天国の中央通りをはさんで数多くの電子機器を取り扱う企業が集まっています。ここのショッピングモールでは「スマートフォンを自分で組み立てることができる」と言われるほど様々なパーツが取り扱われています。


様々な電子機器ショップが入居する商業ビルが立ち並ぶ華強北歩行街


ショッピングモールには多数の修理屋やパーツ屋が並んでいます

また街角の電気店でも様々なガジェットが販売されています。特にいま中国ではロボット型の製品が日常的に使われ始めており、レストランの配膳、子供の教育、音声翻訳など、様々なロボット型の製品が販売されています。


店頭に並ぶロボット型製品

他にも、安価な360度カメラや、自動追従型の旅行トランクなど、気になるアイデア商品が並んでいます。また平日にも関わらずそれぞれの店舗が賑わっており、底知れない活気を感じることができました。


様々なヘッドマウントデバイスや旅行トランク型電気スクーター

 

ファーウェイ本社訪問

7月12日(金)には深セン北の坂田地区にあるファーウェイ本社を訪問しました。


ファーウェイ本社Fブロックにあるオフィスビル

ファーウェイ・イノベーション開発部のAllen Peng様が、2019年6月にシンガポールで開催された「Innovfest Unboud 2019」のDBICブースにご訪問され、参加メンバーの住友生命保険相互会社・枝川和貴さんのコーディネートによって今回の訪問が実現しました。


ファーウェイ本社内ショールーム

ファーウェイは深センに本社を置く非上場の通信機器メーカーで、売上高7兆円以上、従業員数18万人以上を誇る世界有数のICT企業です。売上高の10%以上を研究開発に投資し、全従業員の45%がR&D部門に所属していることでも有名で、次世代通信規格である5Gネットワークのマーケットリーダーとして注目を浴びています。


広大な面積を誇るファーウェイ本社敷地内

ファーウェイ本社は深センの中心部から北に20kmほど離れた坂田地区に位置し、約140万平方メートルの広大な敷地内に、本社オフィスや研究開発拠点、そして社員向けの大学などが設置されています。敷地内は12のブロックに分かれており、それぞれの建物が異なるコンセプトで建築され、歴史建造物のようなビルからガラス張りのビルまで、人類の文明進化を感じさせる建物が並んでいます。


ホワイトハウスと呼ばれるオフィスビル

今回はAllen様からファーウェイにおけるイノベーションの取り組みをご紹介いただき、DBIC活動との情報交換&ディスカッションをしました。
ファーウェイは世界中に22のリサーチセンターを置き、最新のイノベーション情報を体系的に収集しています。中にはモスクワの数学アルゴリズム研究所やミラノのマイクロ波研究所など、専門的な研究機関も含まれます。


ファーウェイ本社でのディスカッションの様子

またファーウェイは研究開発を「カスタマーオリエンテッドR&D」と位置付け、世界各地の顧客のニーズを集めています。
ヘッドクォーターだけで研究開発をするのではなく、世界中で研究開発をしながら外部の情報を積極的に取り入れていく、そのオープンな経営戦略に衝撃を受けました。

 

ファーウェイインキュベーション施設「トラブルメーカー」訪問

続いて再び華強北(ファーチャンベイ)に移動し、ファーウェイが運営するインキュベート施設「トラブルメーカー」を訪問しました。


トラブルメーカーが入居する商業ビル「華強国際メーカーセンター」

トラブルメーカー入口

ガーデンテラスもあるコワーキングエリア

この施設にはその名の通りモノづくり系のスタートアップ企業が40社ほど入居しています。
マイクロコンピューターを搭載したラジコンや、AI機能が搭載されたテディベアのぬいぐるみなど、様々なアイデアにあふれるデジタル製品が作られています。


AI対話機能が組み込まれたテディベア

スタートアップの創業者になぜ深センなのか?と聞いたところ「ここはすぐに何でも揃うから、アイデアを試すには最適だよ!」というコメントをいただきました。確かに昨日のショッピングモールの様子を思い出すと納得がいきます。


話し出すと止まらない熱気にあふれたスタートアップの皆様

またこのインキュベート施設で感じたのはみんながとても楽しそうにしていることです。どのスタートアップの方も新しいアイデアと希望に満ちて目を輝かせながら話をしてくれます。デジタル機器が好きな人たちのコミュニティができており、その熱狂を感じながら施設を後にしました。


ご案内いただいたAllen様(右から2番目) Nick様(右から7番目)

 

まとめ


テンセント本社などの高層ビルが立ち並ぶ南山地区

今回のマーケットダイブツアー(香港・深セン)はこれにて終了となりました。特に深センでは普段の生活にデジタル技術が浸透しており、都市の高度な発展に驚かされました。


ハイテクとローテクが混在する深センの街角

香港や深センの人から見れば、日本は退屈で不便な国に映るかもしれません。技術を活用して一気に進化する「リープ・フロッグ」(カエル飛び)を実現している中国、そのイノベーションエネルギーに圧倒されるツアーになりました。

 

撮影協力:株式会社野村総合研究所 輪湖 謙太

関連リンク

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