【レポート】社会課題を感じるシリーズ 第2回:木材の良さを生かした、人工光型野菜工場

2019.09.09

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2019年9月5日(木)、東京・日本橋のDBIC Tokyoにて「社会課題を感じるシリーズ 第2回:木材の良さを生かした、人工光型野菜工場」を開催しました。

ゲストに株式会社ビルドアート代表取締役の久米理士様を迎え、同社が取り組む人工光型野菜工場「ワールドファーム」の紹介や、そこで採れた野菜の試食を通して参加者が社会課題を「感じる」ことができました。

本レポートでは内容を再構成してお伝えします。

複数の事業領域から社会課題にアプローチする


株式会社ビルドアート代表取締役 久米理士 様

久米:私は高校を卒業して、元々は大工をやっていました。親方も経験して、弟子も数名抱えて、木造の家をつくる現場で生計を立てていました。

2001年に仲間と一緒に株式会社ビルドアートを設立して本格的に注文住宅や大型木造施設を手掛けるようになり、不動産売買も始めました。2018年8月に千葉県にグランピングリゾート施設「TENT」をオープン、同11月から神奈川県に人工光型野菜施設「ワールドファーム」を開設して運営しています。

本日は、こういった私たちの事業領域がどうやって相互に作用し、社会課題の解決につなげようとしているかお話したいと考えています。

「建築」を通して持続可能な社会を目指す

久米:まず、人口爆発の問題があります。2050年には世界人口が90億〜100億人に急増すると予測されています。

その一方で、アジアを中心とした急速な都市開発に伴う耕作地の急減や世界的な異常気象により、農産物の収穫量は増え続ける人口に対応することが難しくなってきています。

日本国内に限っても、2000年からの19年間で農業従事者は約400万人から200万人以下に半減し、高齢化が進んでいます。深刻なフードロス問題もあります。

このような社会課題に対して、私たちが「建築」を通して「持続可能な社会」の実現のために何ができるか、と考えた末のひとつの回答が人工光型野菜工場でした。

ワールドファームは現在日産が約5,000株です。関東の人工光型野菜工場の日産1位がセブンイレブンさんの30,000株なので、だいぶ離れていますが、2位の規模になっています。

木造建築の優位性は環境面だけではない

久米:私たちの本業である建築の視点から野菜工場を設計するにあたって、「木造」にこだわりました。まず、世界最古の木造建築物である法隆寺を分析したところ、ヒノキは1000年以上経過しても、伐採したときと同じ強度が維持できているというデータがあります。

そして、木造建築は高炉で鉄を溶かす必用がありませんから、建材の製造時にCO2排出量が少ない。山で採れた木材を使い、伐採した後に植林することで半永久的に材料を確保することができます。

また、木造だと燃えやすいから火災保険料が高いのではないか、地震に弱いから地震保険料が高いのではないか、と考える方もいらっしゃるかもしれません。しかし、木造で耐火構造とする部材が開発・実用化されており、損保ジャパン様では木造でと鉄筋コンクリートの保険料率が同じになっています。耐震性能も木造と鉄筋コンクリート造と同等であると日本建築学会構造系論文集で報告されています。

木材の地産地消というのも大きな特徴でしょう。神奈川でワールドファームを建築する際には、一部で神奈川産の木材を使っています。

工場でつくられた野菜が持つ数々のメリットの

久米:人工光型野菜工場は、天井まで8メートルある建物の中に10段の栽培棚を並べ、プールと呼ばれる栄養素を入れた溶液と、青と赤のLEDライト、そして風と温度を適切に管理しながら完全室内で野菜を育てる施設です。

私たちには建築のノウハウがありましたが、野菜栽培については素人でしたので、その部分はパナソニック様とのコラボレーションで運営しています。今ではすべてがシステム化、データ化されているので、どなたでもすぐに栽培ビジネスを始められるプラットフォームを構築することができました。

パナソニック様が培った野菜栽培技術と、工場内の天井から床面までの温度を一定に保つことができる私たちの木造建築の技術が組み合わさって、唯一無二の生産効率を実現していると言うことができるでしょう。海外から視察に来てくださった皆さんは「(温度の均一化のために)栽培棚が回転していないのか」と驚かれます。

2018年11月からスタートしたワールドファームですが、例えばLED照明も常に進化しますので、当初は播種から出荷まで35日かかっていたのが、現在は32日まで短縮できました。今後、更に短縮することも期待できます。


試食の模様

人工光型野菜工場でつくられた野菜の最大の特徴は、付着する菌数の少なさです。クリーンルームに匹敵する無菌レベルで栽培から梱包、出荷まで行っていますから、路地野菜に比べて4〜5倍長持ちします。更に、外葉などもすべて食べられますし、落ち葉や虫が付着することもありませんので、捨てる部位がない。これは、フードロス対策としても効果が高いです。

グランピングリゾート施設とのシナジー

久米:千葉県一宮市に開設したグランピングリゾート施設「TENT」も、木造でつくられた「非日常」を体験できるリゾート施設です。おかげさまで、多くのリピーター様にご利用いただいており、開設から1年で4回も来てくださったお客様もいらっしゃいます。

海外からのお客様も多く、隣接する海が2020年東京オリンピックのサーフィン会場に選ばれました。宿泊していただいたお客様にはワールドファームで採れた野菜を提供しています。

海外からのお客様が自国に帰った時に、TENTや無農薬の野菜を思い出して、「日本にこんなよいものがあった」とお話してくださったら、こんなにうれしいことはありません。

人工光型野菜工場が社会課題を解決する

久米:私達はワールドファームを実際に運用することで、建築するだけではわからない膨大なノウハウを蓄積することができました。工場内で従業員の動線をどうしたら効率化できるか、どうしたら菌を持ち込まないような仕組みを徹底できるか、といった部分は設計図だけでは見えてきません。人工光型野菜工場を自分たちで運営して、初めてわかったことです。

人工光型野菜工場は、限りなく無菌に近いですから、農薬を1滴も使う必要がありません。私には子供がいます。子を持つ親であれば、「少なければ農薬を使っても良い」ではなく「できることなら農薬はゼロにしたい」と考えるものではないでしょうか。

露地栽培の野菜で農薬を減らすことは、寄生虫による食中毒とのトレードオフになってしまいますが、人工光型野菜工場であればそのリスクを限りなくゼロに近づけることができるのです。

2019年7月に農水省が野菜工場に関するJAS認定を定めると発表しましたが、国内でその基準を満たせる工場は10〜20%と言われています。ワールドファームはその中に入ることできます。

DBICメンバー企業の皆さんが社会課題解決のひとつのオプションとして人工光型野菜工場ビジネスへの参入をご検討いただけるのであれば、ぜひお手伝いをさせていただきたいと考えています。


DBIC代表 横塚裕志

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