【レポート】非連続経営研究会(第4回) ~資本主義の終焉と「未来の経営」のはじまり~ 多様性を認めあえる、豊かな社会をつくるには

2020.06.08

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DBICが「資本主義の先にある未来の経営を再定義する」という目的で4回にわたって開催する「非連続経営研究会」。その第4回講演を2020年5月8日(金)、東京・日本橋のDBIC Tokyoで「多様性を認めあえる、豊かな社会をつくる」をテーマに開催しました。今回は、コロナウイルスの環境下にあることからZoomを使ったオンラインでの講演とワークショップになりました。

第4回ゲストスピーカーは、PEACE COIN OU(※Uはウムラウト付) CEOの阿部 喨一(あべりょういち)様です。阿部さんは、PEACE COINという感謝や思いやりで循環する新たな通貨システムを設計し、既存の貨幣(資本主義)では可視化が困難な、人々の繋がりの価値によって豊かさが循環していく、多様で豊かな社会の実現を目指し、事業を行っています。

本レポートでは講演内容を再構成してお伝えします。

最適化社会から自律社会へ


阿部喨一様(PEACE COIN OU(※Uはウムラウト付) CEO)
阿部喨一様:自己紹介ですが、いままでは投資の仕事というか金融の仕事をしていました。2017年にPEACE COINを創業しています。大学卒業後は、独立系の投資顧問会社に入社し、金融コンサルティングの業務に従事していました。シンガポールの上場企業を買収したのが一番大きな案件で、マレーシアとかミャンマーなどでM&Aをしたり、不動産や教育、飲食、旅行業とか多くの事業に関わってきました。これがいまの私のバックボーンになっています。なぜ、金融を選んだのかと言いますと、社会を動かしている基本ルールが資本主義。そのルールを勉強したいと思ったのがキッカケです。どういったところがメリット・デメリットなのかを知り、人が人らしく生きて評価される社会をつくりたいと思ったことがPEACE COINを設立することに繋がっています。

さて、いま、我々がおかれている社会についておさらいします。

まず、現在、ポスト資本主義の段階に入っています。また、新型コロナウイルスの発生の結果、アフターコロナ、ウイズコロナの世界をどう生き抜いていくか、それ以外にも世界を包み込む環境問題、格差社会、人口減少(=市場の縮小)と様々な問題を抱えています。こうした多くの問題がある中では、いまの社会構造は限界を迎えている。資本主義という仕組みもすでに限界を迎えていると思っています。

未来予測の話をします。オムロン創業者の立石一真さんが発表した「SINIC(サイニック)理論」をご存知の方はどれくらいいますか。(各位、Zoom画面上で回答) かなり多くの方がご存知のようですね。これは立石さんが1970年の国際未来学会で発表した未来予測理論です。オムロンのサイトによれば「パソコンやインターネットも存在しなかった高度経済成長の真っ只中に発表されたこの理論は、情報化社会の出現など、21世紀前半までの社会シナリオを高い精度で描き出したもの」と説明しています。技術や社会は必要に応じて変化していくという理論なのですが、その中で立石さんは現在の最適化社会から2025年には自律社会へ移行していくという説明をしています。この自律社会とは、自分らしさの発揮と他者との協調が両立する社会を指します。

昔の封建社会では殿様とか王様がいて、そうした主君が民に領土を与え統治を行う。それが近年の民主主義では王様よりも上にルールを置こうという概念が発達してきました。資本主義ではお金をたくさん集めた人たちが凄く強くなるということを今はやっているのだと思います。

今の社会は、そこに限界を感じ出したという段階でしょう。この限界を超えて、次にどのような社会になるのか、私の考えでは小さな政府をはじめとしてコミュニティ化をしていくというのが未来の姿かなと考えています。

次に来る自律社会では、公平主義的な概念が台頭し、コミュニティごとの文化や約束が重視されるようになってきます。そこでは信用貨幣とか共感貨幣というものが生まれてきます。世界中にあるコミュニティをひとつのルールや仕組みのもとに繋ぎ合わせていくことができれば一歩前に進むのだろうなと思っています。

これは私が完全に作った造語ですが、コミュニティがたくさん束ねることができた場合のことを「マキシマム・マイノリティー」という言葉でイメージしています。

私はPEACE COIN導入のコンサルティングもしているのですが、その時に、「サスティナビリティ・トランスフォーメーション(SX)」という概念を用いています。社会は不確実になっていますし、複雑性を増しています。わが国とかわが社というレベルで考えて、生き残っていける時代ではありません。ほかのところで何か起きたことが自分のエリアや会社に当然影響してくる。これは逆もまた然りです。まさに世界は繋がっているわけです。世界は関連し合い複雑性を増して、「もはや変わらざるを得ない状況」にあると言えるでしょう。

なぜ、PEACE COINを始めたのか

阿部喨一様:何故、私がPEACE COINというプロジェクトを始めたのかという話しをします。

私たちは、イノベーションを創造的破壊という意味で使っています。皆さん、SDGsについてはよくご存知だと思いますが、このSDGsを実現する戦略フレームについて説明します。17ある項目ですが、これを9つに整理してみると分かりやすいかなと思っています。

まず、「環境」と「社会」、それに「経済」の3つに分類します。環境ではゼロ・エミッション、ゼロ・ウェイスト、再生可能エネルギー100%、社会では労働状況、生活保障、自己実現、最後の経済では顧客・人財獲得、ブランディング、テクノロジーという分け方です。この9つのセルで構成されたマトリックスで整理してみることが大事だと思っています。

とりあえずは、こうしたフレームを持っていますよ、というくらいのご理解でも良いと思います。

ここからは、PEACE COINの前段階の説明です。

まず、現在の社会構造について改めて整理してみたいと思います。

いま、社会で大きな力を持っている人たちというのは、高い技術力を持つGAFAみたいなグローバル企業、一方、もっとも強い権力を持つ政府が存在しますが、残念ながら、こうした企業や組織が社会の課題を解決できないままでいます。社会課題の構造を簡単に整理すると、以下のようになります。「公助」、「自助」のどちらにも解決できないこと自体が社会問題になっていて、それも構造的な限界を迎えている、というわけです。

公助でも自助でも救えず、その結果、社会から溢れ落ちてくる人が出てきています。

この状況に対する新しい動きとして、「政府で何とかしましょうよ」とか、「新しいソーシャル・イノベーションを起こしましょうよ」といった話もありますが、ここは構造的に解決することの方が良いのではと思います。マジョリティからこぼれ落ちたり、競争からこぼれ落ちてしまった人々に対しては、ガバメント(公助)とマーケット(自助)とコミュニティ・ソリューション(互助・共助)の3すくみの構造をつくることによってこの社会課題を解決することが有効だと私は思っています。

このうち、コミュニティ・ソリューションがPEACE COINのポジションだということができます。

3つのソリューションのうち、どのソリューションが優秀だという気はまったくなくて、バランスをとって解決に導くべきだと思っています。互助・共助の力が弱くなったがために発生した問題はどこだろう。そこを探っていくと、さきほどのSDGsから抽出した9つのマトリックスを埋めるうえで有効かと思います。どんどん解決していく装置をつくっていくというのがPEACE COINの目的であります。コミュニケーション・ソリューションとか互助・共助という言葉が重要なキーワードかと思っています。

ここからは、コミュニティ・ソリューションについてご説明します。やっと本題のPEACE COINの話しです。PEACE COINは、中央集権社会で起きるすべての問題に対する自律分散的ソリューションです。ちょっと前に自律分散という四文字が分かりにくいという意見を頂きまして、いろいろ悩んだのですが、今は、キレイごとではなく「全員のことを大切にする仕組み」ですと答えています。

お金やモノが一か所に集中する中央集権的な社会がもはや限界に来ている。それを打開するにはお金やモノがもっと循環する仕組みをつくるべきというのがPEACE COINのひとつの目的です。

そのお金ですが、今は循環しにくい社会になっていると言えます。循環は、ほぼイコール豊かさを生むと言えます。お金やモノを貯めるだけでは幸せではありません。情報も循環していないと不幸せになります。仕事柄、お金持ちの方とお付き合いすることが多々ありますが、お金を持っていることだけが幸せではないですよね。お金を動かす瞬間に人は豊かさを感じているようです。このことからもお金が循環していない社会というのは非常に息苦しさを感じる社会だと実感しています。

経済活性の重要な指標は流通速度です。数式ではM(貨幣供給量)×V(流通速度)=P(物価)×T(景気)を表しています。貨幣量を増やすのではなく(M)、物価(P)を上げないように景気(T)をよくするためには貨幣の流通速度(V)をあげることが重要になります。日本はいま、お金が循環していない社会になっています。現在、日本円はだいたい1,000兆円くらい発行されています。日本のGDPは約550兆円ですので、実際、発行されたお金の半分くらいしか流通していません。問題は流通する速度は年々下がっていることです。さきほど私が循環していない社会になっているのと発言したのはこれが根拠になっています。

使うと増える、使わないと減るPEACE COINとは

阿部喨一様:残念ながら、現代社会は、お金で測れないことは、価値がないかのようになっているように思われます。皆さんは、お金になる方、ならない方という二つの選択肢が目の前にあった時、どちらを選びますか。まあ、多くの方がお金になる方を選びますよね。その結果として、循環しない、循環しにくい社会を選んでしまっているのです。資本主義はお金を効率良く増やそう貯めようという考えになりがちです。これですと循環しにくい社会になるようです。

それに対して、互助とか共助の仕組みが浸透して、家族が安心できる環境があったらいいなということは皆さん感じているはずです。ただ、こうした概念だけの話しをしていても、社会はなかなか動かないので、何かしらの手段で可視化できるような仕組みがあったら良いなと。それが自律社会に向けたソリューションであろうと考えています。

それで、PEACE COINがどういうものなのかと言いますと、PEACE COINは増える瞬間が違うのです。そこが他の地域通貨とまったく違う点です。

例えば、私が1万円を持っていて、コーディネーターの江上さんに1,000円払います。これがPEACE COINだとした場合、私の一時残高は9,000円ですが、実際には後で200円増えて9,200円になると想像してください。使えば使うほど増える。実際にはもっと複雑な話しですが、使った方が楽しいよねということで、みんなポジティブにお金を使うようになる仕組みをPEACE COINではつくっています。PEACE COINは、増えるだけではなく、使わないお金は減る仕組みになっています。例えば、今週は9,200円をまったく使わなかったとしましょう。使った1,000円は何かしらの豊かさを生みましたが、使わなかった9,000円に関しては何%か減るようになっています。

気持ちが伝えられるPEACE COIN

阿部喨一様:さて、このPEACE COINですが、地域通貨だけでなく人事制度におけるモチベーションアップのための手法など現在、50以上の自治体や団体に導入されています。台湾とかカンボジア、ミャンマー、ブラジルなどでも実証実験を始めて頂いています。

導入された事例としては、地域コミュニティでは、「廃材エコヴィレッジゆるゆる」(神奈川県藤野)や「有償ボランティアの実証実験」(福井県庁)、教育コミュニティでは「サンパウロプレイウイーク」(ブラジル)や「ソーシャルコンパス」(カンボジア)などがあります。

PEACE COINでは、ただ単にお金として送れるほか、メッセージを付けて送れるという利点があります。

ここで、PEACE COINでやりとりされたメッセージをご紹介します。

実際、80%以上の方々がメッセージを付けて気持ちを伝えています。「連日本当に夜遅くまでありがとう。あなたの存在が我がチームの宝です」とか「息子くんを見てくれてありがとうございます」といったやりとりが報告されています。PEACE COIN Walletというアプリも開発しています。

PEACE COINを送信すると、「ARIGATO CREATION」という文字とともに、トークン(お金)が送られる仕組みです。

ところで、PEACE COINは応用の範囲がもの凄く広いので、もう少し実例のお話しをさせて頂きます。

東京都目黒区にある雑貨屋さんで使って頂いた例です。いわゆる店舗内ポイントのような例です。さきほどの「子どもの面倒を見てくれてありがとう」というのはこのお店でやりとりされたものです。去年の3月から12月までの実証実験です。ユーザー数は約160人。独自コインのトークンの流通量を日本円に換算すると約1,344万。すべてのトランザクションの量では約9,265万になりました。よくあるポイント制度のものに比べると、流通量はもの凄い増加量だとみることができます。感謝のメッセージ付きの効果は絶大と言えるでしょう。

もうひとつ社内活性化の事例をご紹介します。

株式会社トレジャーコンテンツという会社の例です。Webのコンサルティング事業を展開しているところで、日本とミャンマーに事業拠点があって、社内コミュニケーションの活性化のためにPEACE COINを導入しています。ピアボーナス(Peer Bonus)というお互いの仕事を褒め合う制度にPEACE COINを活用してもらった例です。社内で、単純に「資料をつくってくれてありがとう」とか、ちょっとしたやりとりの中で嬉しいと思ったら相手にPEACE COINを送るというものです。

PEACE COINの管理画面では、誰がどれだけ送ったか、どれだけ受け取ったかという流通内容を確認できるようになっています。受け取った量と回数、それに送った回数の送受信を評価ポイントにし、毎月4つのランキングと総合MVPの制度で表彰しています。

このようにPEACE COINのシステムでは、褒め合ったり、助け合いをすれば価値が増えるというわけです。これまでは売り上げを増加させるには営業マンが頑張るという指標しかなかったかも知れませんが、社内でお互いに助け合えば、ちょっと雑な言い方ですが、利益を上げるひとつのモデルになり得ると思っています。

これでいったん私の話しを終わります。あとはワークショップの方でいろいろな議論をして頂けたらと思います。ご清聴ありがとうございました。


左から塩谷 夢香様・阿部 喨一様PEACE COIN OU(※Uはウムラウト付)江上 広行様(本研究会コーディネーター/株式会社URUU代表取締役)

プロフィール

阿部 喨一(りょういち)様PEACE COIN OU(※Uはウムラウト付) / Founder
1983年生まれ。埼玉県出身。2007年独立系投資顧問会社へ入社。国際金融情勢や企業のテクニカル&ファンダメンタルなどの観点から資産運用や資産保全、M&Aを始めとする金融コンサルに従事。数々の実績を上げ、史上最短でプロジェクトマネージャーに昇格、最年少で役員へ就任する。また、金融、不動産、教育など様々な業界分野において、市場開拓から資金調達、経営戦略まで一貫して担い、現在に至るまで国内外で複数の事業立上げを行う。

既存の資本主義社会の構造に多様性をもたらし、人が人らしく生きて評価される社会を作るべく、PEACE COIN OUを創業。(※Uはウムラウト付)

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