【横塚裕志コラム】野菜を作ろうと考えたら、トマトは作れない

2019.06.24

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DBIC代表の横塚裕志です。今回のコラムでは4年目に入ったDBICの活動を振り返りながら、イノベーション実現のためにはどのような出発点や目標設定が有効かについてお話します。

「イノベーション」という事業は存在しない

近年、メディアや研究者、そして政府までもがイノベーションや新規事業について様々な定義を試みています。

例えば「デジタル技術が使われている」「データの分析で体験価値を上げている」「エコシステムが機能している」といった特徴が挙げられます。さらに、新しいビジネスモデルやプラットフォーム型の考え方も重要だと言われています。推進力、構想力、挑戦心といったキーワードも、毎日のように目にします。

それでは、このような特徴やキーワードに従って行動を起こすとイノベーションが起こせるでしょうか? 残念ながら答えは「NO」です。

例えて言うなら、上記のようなアプローチは「野菜作り」の勉強だけをしてそのまま収穫まで期待しているようなものです。ところが実際には「野菜」という作物はこの世に存在ないので、実現のしようがありません。

イノベーションも同様で、「イノベーション」という事業は存在しないため、その定義を学んだところで、イノベーションは実現しません。野菜の例で言うならば、「トマト」を作ろうとしない限り、あるいは「きゅうり」を作ろうとしない限り野菜は作れないのです。

DBICの3年間が形成しつつあるエコシステム

これまでにDBICがイノベーションをどこまで支援・達成できたかについてはメンバー企業各位からの評価に委ねますが、私たちが新しいチャレンジを続けていることは事実なので、DBICの構想、設立、そして3年間の活動を振り返りながら、野菜とトマトの関係について説明します。

DBICを3年間にわたって運営した現在、これまでの道のりを振り返ると、結果的には日本の大企業、国内外のスタートアップ、そして海外の教育機関であるIMDやSMUなどをつなぐエコシステムが形成されつつあります。国際的に見てもほとんど事例がない活動にDBICは取り組み続け、イノベーション支援のための新しい構想が実現に近づいています。

イノベーションは「走り続けた結果」として生まれる

一方で、DBIC発足前の構想段階からエコシステムを展望していたのか、新しいビジネスモデルを描いていたのか、と問われれば、そんなことはありません。そういう姿、つまり「野菜作り」を目指して走り始めたわけではないのです。

大企業の皆さんがイノベーションを起こさないと日本はどんどん競争力を失うに違いない、何とかしなくては死んでも死にきれない、大企業病のまま子供たちの世代へバトンを渡すのは申し訳ない、という想い。つまり、そういう「トマト作り」を目指した結果として、今のDBICがあります。

私たちはまだ道半ばなので事例として語るのはおこがましいのですが、イノベーションとはそういうものなのだと私は考えています。イノベーションを目的として活動するものではない。だから、その特徴をいくら学んでも役に立たない。

自分の想いを出発点に

要するに「トマトを作りたい」という想いが出発点であり、そのために悔しい思いをしながら、蕁麻疹ができながら、馬鹿にされながら、それでも歩き続けることで、共感を呼び仲間が増えてエコシステム的なものが形成されていくのです。エコシステムを作ることを目的にパーティを開くようでは、恐らく1万回開催してもエコシステムはできないでしょう。

個人の想いから始まって、共感を呼び、苦し紛れの工夫が新しいビジネスモデルを生むのです。「推進力」「構想力」「挑戦心」のような綺麗事では何も生まれない。自分の想い、そして、汗臭くて泥臭い畑仕事、一緒に頑張れる仲間を抜きにイノベーションは起きない、ということを多くの方に知っていただければと願っています。

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執筆者紹介


横塚 裕志
一橋大学卒業。1973年、東京海上火災保険入社。2007年に東京海上日動火災保険の常務取締役に就任、2009年に東京海上日動システムズ株式会社代表取締役社長就任。2014年より特定非営利活動法人CeFIL理事長となり、2016年にデジタルビジネス・イノベーションセンター(DBIC)を設立、以降代表を務める。DBICでは日本を代表するメンバー企業約30社と共に、DX促進や社会課題の解決に取り組んでいる。

  • 特定非営利活動法人CeFIL 理事長 / DBIC代表
  • 産業技術総合研究所 研究評価委員会(情報・人間工学領域)委員長
  • 高崎商科大学アドバイザリーコミッティーメンバー
  • 日本ビジネスプロセスマネジメント協会副会長
  • インフォテック株式会社 取締役
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