【横塚裕志コラム】イノベーションのテーマを設定するという難題(2)

2019.07.08

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DBIC代表の横塚裕志です。イノベーションのテーマ設定という難題に取り組む集中連載の第2回は「ステップ1:テーマの探求」のうち、「自分ごと」について解説します。(第1回「社会課題」を未読の場合はこちらからお読みください)

現状を否定し、失敗を楽しむために必要なこと

「自分ごと」とは、シンプルに言えば「自分がやりたいこと」と合致していることです。そして「やりたいこと」とは、自分が生きる意味を示すテーマであり、人生を通して取り組みたいテーマです。


DBICが提唱するイノベーションのテーマ設定「ステップ1:テーマの探求」の3つの円

世の中に新しい価値を生み出すイノベーションと呼ぶに値するプロジェクトは、必ずどこかで現状を否定して進める必要があります。そのため、本人が強いパッションを持っていないと、すぐに「できない理由」や「やらない方が楽な理由」が頭にちらついてしまいます。

また、イノベーションは失敗する確率が高いものです。失敗を当然のものとして受け入れ、むしろ失敗によって先に進むことができたと喜べるくらいでなければ、イノベーションは生まれません。

そのため、短期的には出世や給与アップとは逆行する可能性もあります。それでも必死にやり遂げるモチベーションを持つためには、最終的にはそれが「自分がやりたいこと」なのかという本質が問われます。

私にとってDBICが「自分ごと」である理由

事例として、私がなぜ「自分ごと」としてDBICを立ち上げ、運営しているかを明かします。自分の秘密をさらけ出すことになるので恥を忍んで書きますが、ふたつの想いがあります。

ひとつ目の想いは、私が11歳の時に4つ下の弟を病気で亡くした体験にあります。兄として何もできなかった自分が情けなく、それどころか何のサポートさえしてやれなかったことを一生かけて弟に謝りたい、という想いが私の人生のエンジンになっているのです。

私がどのように生きることで弟に納得してもらえるのかを考えるとき、それは正義を貫くこと、弟の分までふたり分社会に貢献することだと、心に決めています。

会社員として痛感した、変われない日本企業

もうひとつの想いは、東京海上日動火災でSEとして働いた経験を通して心底感じた危機感です。情報システムやITを効果的に使いこなすために必要な、ビジネスサイドの知見、スキル、考え方が大幅に遅れているのです。

IT部門だけに投資をして新しいシステムを導入すれば、魔法のようにイノベーションが起きるわけでは決してありません。必ずBPR(ビジネスプロセス・リエンジニアリング)とセットで実施し、会社全体として既存の業務や組織を見直さないと本当の効果は出ないのです。国家レベルで言えば、せっかくマイナンバーを導入したのに、医療情報とリンクできていないのは典型的な失策でしょう。

私は「この現状を何とかしないといけない」という強い想いを持っています。1990年代後半から2000年代までのIT時代はまだ「効率化」の程度問題で済んでいましたが、今やGAFAに代表されるディスラプターがあらゆるマーケットに進出するデジタル時代になったことは明らかです。

日本社会への貢献が、「自分ごと」につながる

それでもなお、日本企業のビジネス側が現状維持を続け、変化を拒否したままだとすると、遠くない未来に本業が破壊され、企業自体が潰れてしまいます。このような危機感を強く持ち、少しでも日本社会に貢献したいという想いで、DBICを立ち上げました。

私はこのふたつの想い=ロマンで生活しています。このロマンのためなら、結構頑張れるのです。「自分ごと」とは、ロマンであり、エゴであり、生きざまなのです。それが仕事と同期したとき、新しいもの、即ちイノベーションが生まれるのだと考えています。

次回は「会社のビジョンとの整合」について解説します。

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執筆者紹介


横塚 裕志
一橋大学卒業。1973年、東京海上火災保険入社。2007年に東京海上日動火災保険の常務取締役に就任、2009年に東京海上日動システムズ株式会社代表取締役社長就任。2014年より特定非営利活動法人CeFIL理事長となり、2016年にデジタルビジネス・イノベーションセンター(DBIC)を設立、以降代表を務める。DBICでは日本を代表するメンバー企業約30社と共に、DX促進や社会課題の解決に取り組んでいる。

  • 特定非営利活動法人CeFIL 理事長 / DBIC代表
  • 産業技術総合研究所 研究評価委員会(情報・人間工学領域)委員長
  • 高崎商科大学アドバイザリーコミッティーメンバー
  • 日本ビジネスプロセスマネジメント協会副会長
  • インフォテック株式会社 取締役
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