【横塚裕志コラム】イノベーションのテーマを設定するという難題(3)

2019.07.16

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DBIC代表の横塚裕志です。イノベーションのテーマ設定という難題に取り組む集中連載の第3回は「ステップ1:テーマの探求」のうち、「会社のビジョンとの整合」について解説します。(バックナンバーはこちらからお読みください)

あなたの会社は「ビジョン」を持っていますか?

イノベーションを起こしていくためには「ビジョン」が必須です。しかし、多くの企業がそもそも適切なビジョンを持っておらず、大きな課題になっています。

イノベーションにビジョンが不可欠な理由として、以下のふたつが挙げられます。

ビジョンの役割1 – 価値創造の旗を揚げる

20世紀は、企業側が企業の論理で製品やサービスを改善することで売り上げを増やすことができました。

ところが21世紀に入り、モノや情報が溢れる時代になると、お客様にとって「価値」がある製品やサービスだけが選択されるようになり、大きなパラダイムシフトが起きています。

その結果、お客様が「新しい価値」を感じる製品やサービスを提供しなければ、企業は生き残れなくなりました。それを端的に言い換えたのがイノベーションという言葉だと定義してもよいでしょう。

しかし、多くの企業は20世紀のままの経営体質から抜け出せず、プロダクトアウト型の発想のまま経営目標を設定しています。典型的なのは「売り上げ2兆円」「利益率10%」「マーケットシェア1%向上」といった数値目標であり、それでは「価値創造」になっていないのは明白です。

規模拡大はあくまで企業が継続していくための手段であり、ビジョンにはなり得ません。「自分たちはこういう価値を社会に提供していく」という宣言こそがビジョンなのです。

なお、ビジョンは「お客様を第一とする」というような漠然とした内容では機能しません。社員が新規ビジネスを創造していくにあたって、具体的な行動につながるようなメッセージが必要です。

ビジョンの役割2 – 挑戦のための大義になる

目標を「売り上げ拡大」としてしまうと、「挑戦」は「リスク」以外の何物でもありません。故に、挑戦はやめておけ、ということになってしまいます。

また、開始時にイメージできる規模感が小さいプロジェクトの場合、「既存事業で頑張った方が容易だ」と判断され、却下されるケースもよくあります。最初は小さくとも、大きく化けるかも知れない事業の芽が摘まれてしまうのです。

そのため「挑戦」には、「大義」が必要です。「価値創造」という大義を目指していれば、挑戦はエキサイティングでワクワクする行動になります。失敗すらも1回のイテレーションとなり、プロセスの一部に位置づけることができます。

経営者が「価値創造」というビジョンに基づいて判断すれば、「リスク」ではなく「可能性」と考えられるケースについては迷わずゴーサインを出すことができるでしょう。

生活者視点のデザイン思考へ

以上の理由から「会社の価値創造ビジョン」を作成することは重要で、そこに経営者が気付くことが必要だとわかります。

しかし、その気付きこそが、最も難しい点かもしれません。企業ではなく、生活者に主導権が移っているというパラダイムシフトを理解することから始めなければならないからです。それが「デザイン思考」の本質です。

次回は「ステップ2:プロブレムステートメントを描く」について解説します。

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執筆者紹介


横塚 裕志
一橋大学卒業。1973年、東京海上火災保険入社。2007年に東京海上日動火災保険の常務取締役に就任、2009年に東京海上日動システムズ株式会社代表取締役社長就任。2014年より特定非営利活動法人CeFIL理事長となり、2016年にデジタルビジネス・イノベーションセンター(DBIC)を設立、以降代表を務める。DBICでは日本を代表するメンバー企業約30社と共に、DX促進や社会課題の解決に取り組んでいる。

  • 特定非営利活動法人CeFIL 理事長 / DBIC代表
  • 産業技術総合研究所 研究評価委員会(情報・人間工学領域)委員長
  • 高崎商科大学アドバイザリーコミッティーメンバー
  • 日本ビジネスプロセスマネジメント協会副会長
  • インフォテック株式会社 取締役
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