【横塚裕志コラム】イノベーションのテーマを設定するという難題(4)

2019.07.22

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DBIC代表の横塚裕志です。イノベーションのテーマ設定という難題に取り組む集中連載の第4回は、最終回として「ステップ2:プロブレムステートメントを描く」について解説します。(バックナンバーはこちらからお読みください)

テーマを簡潔にまとめて、発信する

前回までの連載ではイノベーションの最初のステップであり、同時に最大の難題でもある「テーマの探求」について、「社会課題」「自分ごと」「会社のビジョンとの整合」という3つの円が重なるところを意識して行うように推奨しました。


DBICが提唱するイノベーションのテーマ設定「ステップ1:テーマの探求」の3つの円

しかし、テーマを見つけただけでは終わりではありません。それを「プロブレムステートメント」というメッセージで描き表わすことで、設定のプロセスが完結します。

プロブレムステートメントは、イノベーションへの想いを簡潔に、なおかつ必須要素を網羅してまとめた一文です。プロジェクトの背景や目的をシンプルに言語化することで明確な発信が可能になり、共感してもらえるパートナーを集め、不足している専門性を補い、チームを組成していくことができます。

プロブレムステートメントの構成要素

具体的なプロブレムステートメントの例を挙げてみましょう。

「私たちはどうすれば、使い捨てプラスチックに依存している小売業者に対し、彼らの資金や従業員負担を必要とせずに、代替素材の利用 / プラスチック消費量の削減 / リサイクルの促進を動機付けすることができるか?」

必須ではありませんが、このように疑問形になっているケースも多く見られます。ステートメントの要素を分解すると以下のようになります。

  1. 課題の対象:誰が対象であり、誰のために価値を提供するのか、誰の生活を改善したいのか。
  2. 課題の背景:課題の背景にある要因、原因、ストーリー。
  3. ありたい姿:生活者にどうなってほしいのか。
  4. 課題解決のインパクト:私たちはなぜこの課題を解決することに情熱を燃やしているのか。

イノベーションの前提条件にして世界標準

イノベーションの立ち上げ時に、テーマをプロブレムステートメントで表現することはグローバルスタンダートです。何がやりたいのかをシンプルに伝えることができなければ、プロジェクトは動かないし、仲間も集まらないからです。

これは、囲碁将棋なら「定石(定跡)」であり、サッカーで例えるなら「4-4-2」であり、勝つために最低限必要な基本的な作戦だと言えるでしょう。

私は2017年にシンガポール経営大学が世界の大学を対象に開催した「ニュービジネスコンテスト」を見学しました。最終選考に残った48チームのピッチのすべてが、「1. プロブレムステートメント」「2. 解決方法」「3. マーケットサイズ」「4. 成長プラン」という4コマ漫画仕立てのストーリーで構成されていました。これがグローバルスタンダードなのです。

なぜ大企業の社員はテーマ探索が苦手なのか?

このようなプロブレムステートメントを作成するプロセスは数か月を要することもあり、簡単ではありません。仮説を立てて深く調査をしていくと、仮説の奥の真の課題を見つけることになり、さらに深堀りすると、その奥底にある新たな真の課題に巡り合うことになります。そうやって、らせん階段をぐるぐるとまわりながら上に上がっていくことが求められます。

常に重要なのは、対象者の真の「ペインポイント(解決すべき痛み)」を探り当てることです。この「問題を見つける」能力、感性、好奇心、情熱の質と量が勝敗を分けるのですが、残念ながらこういった要素こそ大企業の社員に決定的に不足しているのが実情です。

なぜなら、大企業の多くの社員は正解のないものを追いかけることに慣れていないからです。幼いころから「正解」を出す訓練しか受けていなければ、仮説に対して最初に目についた答えを「正解」だと考えてしまっても無理はありません。ただし、これではイノベーションと呼ぶに値するテーマの探索は難しいでしょう。

真に「問題を見つける」ための感性を磨くためには、街に出て生活者の汗を感じ、涙し、感動し、「少しでも役に立つことから始めよう」と感じることが必要です。それが正解かどうかは重要ではありません。

最初の一歩を踏み出すために

どんなに優れたサッカーの教則本を読んでも、それだけではサッカーが上達しないように、イノベーションも体を動かして練習することから始めるべきだと私は思います。そのため、DBICではシンガポールと日本を舞台に「Diving Program」という試合形式のイノベーション練習メニューを提供しています。

ここ数年で「デジタルトランスフォメーション」という言葉が急速に広まりましたが、その何年も前から日本の大企業は海外のディスラプターに侵食され続けています。そして彼らは当然のようにグローバルスタンダードを体得しています。

その危機に立ち向かうため、日本の大企業が集結して学び合い、自らイノベーションを起こすために立ち上げたのがDBICです。まずは「テーマ設定」という最初の一歩を正しく踏み出すことから始めてみませんか?

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執筆者紹介


横塚 裕志
一橋大学卒業。1973年、東京海上火災保険入社。2007年に東京海上日動火災保険の常務取締役に就任、2009年に東京海上日動システムズ株式会社代表取締役社長就任。2014年より特定非営利活動法人CeFIL理事長となり、2016年にデジタルビジネス・イノベーションセンター(DBIC)を設立、以降代表を務める。DBICでは日本を代表するメンバー企業約30社と共に、DX促進や社会課題の解決に取り組んでいる。

  • 特定非営利活動法人CeFIL 理事長 / DBIC代表
  • 産業技術総合研究所 研究評価委員会(情報・人間工学領域)委員長
  • 高崎商科大学アドバイザリーコミッティーメンバー
  • 日本ビジネスプロセスマネジメント協会副会長
  • インフォテック株式会社 取締役
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