【横塚裕志コラム】ゴルフとDXと新型肺炎

2020.03.11

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DBIC代表の横塚裕志です。もう20年前になりますが、外資系企業の方と懇親ゴルフの機会がありました。日程を決めた後、先方はこう切り出しました。

「天候の問題を決めましょう。2日前の正午、某天気予報機関のゴルフ場地区の予報で、午前中雨の確率が70%以上、降水量の予測2ミリ以上の時は中止、ということでいかがでしょうか。」

このオファーは衝撃的でした。いつも、前の晩あわてて電話で相談したり、現地に行ってから相談する感じが多かったので、なんとリーズナブルな行動方式だと感動した記憶があります。

3,000ケースにおよぶシミュレーション

2019年9月下旬、IMDのマイケル・ウェイド教授がDBICでDXの研修を行いましたが、その中でもっと大がかりな危機管理の事例が紹介されました。

F1レースの事例です。3,000ケースにおよぶ時系列での天候状況、マシン、タイヤ、ドライバー状況などをあらかじめシミュレーションしておき、実際のレースでは、そのシミュレーションに基づき瞬時にオペレーションする方式をとっているとのことでした。確かに、その場その場で専門家が集まって相談していたら間に合わないわけで、事前のデータ予測に基づく意思決定のフレームワークが重要な武器であると腑に落ちました。「データに基づく経営」をしていますか、というDXの重要な一つの要素の事例です。

この2つの事例は、大小異なりますが、危機管理のマネジメントフレームワークということだと思います。この「マネジメントフレームワーク」は、たぶん戦争などの厳しい状況のなかでいかに勝つかというノウハウの集積でできており、勝利の方程式そのものと考えられます。特徴は危機管理、あるいはマネジメントという専門性の極みがこのフレームワークに凝縮していることでしょう。ゴルフや自動車の専門性ではなく、危機管理、マネジメントの専門性なのです。そして、欧米や先進のアジア諸国でもこのフレームワークを学ぶこと、実践することが当たり前になっています。それも、30年も前から。

日本のマネジメントフレームワーク

日本企業ではどうでしょうか。事前に意思決定しておくとか、危機管理のフレームワークなどはほぼ機能していません。「起きてみないとどういう状況になっているかわからないから、事前に決めておくなんてありえない」「相手のいる話だから、お客様のご意向を予測するなんて失礼だ」「西洋が考えたフレームワークより私の能力の方が上だ、日本品質が世界一だ」といった、茹でガエルにもほどがある状況ではないでしょうか。太平洋戦争の失敗の本質が全く生かされていません。

「危機管理」だけではなく、「マネジメント」の「フレームワーク」は多岐にわたります。すべて「マネジメント」の専門性のノウハウの集積です。プロジェクトのマネジメントもあり、企業買収のマネジメントもあり、従業員のモチベーションのマネジメントもあり、もちろん、イノベーションのマネジメントもあり、企業経営のマネジメントもあります。

「DX」は、10年後に向けて企業の競争力を新しいものに変革していく「マネジメントフレームワーク」なのです。マネジメントの専門性が集積されているわけで、ITやデジタル技術の専門性ではありません。

「マネジメント」とか「フレームワーク」を学んで実践しようと考えない限り、無手勝流の、あるいは日本独特の「DX」が成功するはずがありません。

この根っこの考え方を日本企業が学ぼうとしなければ、危機管理もプロジェクトもDXも何もできません。「営業に強い」経営者が日本企業を復活させることができるのでしょうか。「選挙に強い」政治家が、新型肺炎を抑えることができるのでしょうか。

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執筆者紹介


横塚 裕志
一橋大学卒業。1973年、東京海上火災保険入社。2007年に東京海上日動火災保険の常務取締役に就任、2009年に東京海上日動システムズ株式会社代表取締役社長就任。2014年より特定非営利活動法人CeFIL理事長となり、2016年にデジタルビジネス・イノベーションセンター(DBIC)を設立、以降代表を務める。DBICでは日本を代表するメンバー企業約30社と共に、DX促進や社会課題の解決に取り組んでいる。

  • 特定非営利活動法人CeFIL 理事長 / DBIC代表
  • 産業技術総合研究所 研究評価委員会(情報・人間工学領域)委員長
  • 高崎商科大学アドバイザリーコミッティーメンバー
  • 日本ビジネスプロセスマネジメント協会副会長
  • インフォテック株式会社 取締役
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