2018.04.17

 本連載では、デザインシンキングの活用に取り組まれている皆様の参考にしていただくために、先進的な事例を「実践者」を通してご紹介します。

 CASE 04ではNECでソーシャルバリューデザインの取り組みをされている山岡和彦様、太田知見様、石川紀子様をご紹介します。NECは2015年にデザイン部門を統合して「デザインセンター(現ビジネスデザインセンター)」を設立。クライアントとの共創プロジェクトはもちろん、社会課題の解決や企業経営にもデザインシンキングを取り入れた活動をされています。

時代に合わせてデザインの役割が変化している

- NECさんと言えば電気メーカーというイメージが強いですが、製品のデザイン以外にもデザインシンキングを活用されているのでしょうか。

山岡:私はもともとデザイナーとして入社しテレビのデザインをしていました。その頃、NECではパソコン、テレビやオーディオなどの家電をはじめとしたコンシューマ商品もありましたが、現在は社会課題をICTの活用によって解決する社会ソリューション事業に注力しています。時代に合わせてビジネスモデルが変わり、デザイナーの役割が変化していることを肌で感じています。現在は商品やサービスだけではなく、社会課題の発見や、経営戦略の議論、部門間を横断して全体を俯瞰する活動、そして企業文化の変革など、様々な領域にデザインシンキングが拡大しています。

太田:私はユーザーインタフェースデザインを担当し、ユーザビリティの向上やユーザーエクスペリエンス(UX)デザインに携わってきました。利用者の行動を観察して改善を繰り返す、人間中心設計(HCD)の手法を用いています。HCDの手法では、より良いユーザーインタフェースに何が必要かを考えるために、利用者目線で物事を捉えることを大切にしています。その当たり前の活動が、今から振り返るとデザインシンキングでした。ただ最近はその対象がユーザーだけではなく、街づくりなどの社会課題の解決に必要となっていることを感じています。

左から太田様、山岡様、石川様

デザインとは「わくわく感」を加えること

- ビジネスにデザインシンキングを取り入れると、どのような変化が起こるのでしょうか。

山岡:デザインとは、モノゴトに「魅力」や「わくわく感」を加えることだと考えています。例えば計画的に建築された都市は、街並みが整っていて清潔で機能的ですが、それだけでは無機質で面白くない。わくわくしません。周りの古い街並みや雑然とした界隈と連携させたり、人間味のある空間を付け加えたりすることで街全体の魅力が生まれ、またこの街に来たいと思うようになります。そういう魅力を付け加えることこそがデザインの役割だと考えています。

太田:デザインシンキングを活用することで、これまではデザイナーの頭の中にしかなかったイメージを可視化することができます。山岡さんが考えているような「魅力」や「わくわく感」を加えることにより、なんだか面白そうだな、と思った周りの人を巻き込んでいける。この見えない価値を共有できることが大きな変化だと考えています。

場を作ることで参加者の関係性が変化する

- こちらの共創型ワークショップスペースは本社ビルの最上階にあり、とても開放的で眺めのいい場所ですね。ここでもそういった変化が起きているのでしょうか。

石川:はい、立場や職種に関わらず、社員にポジティブな変化が起きています。NECは、地域や社会課題の解決、新しい価値・ビジネスの創造に積極的に取り組んでいます。大切なのは、今までの枠を越えて多様な関係者と共に課題に取り組み、価値を創る「共創」です。共創型ワークショップスペースは、いち早く共創アプローチを実践してきた経営陣の強い想いで、本社の最上階に開設しました。入った瞬間にフラットな関係性で対話を開始できる空間、新しい発想やコミュニケーションを活性化させるツールや設備など、共創を後押しする工夫を随所にちりばめました。
 現在は全国に増床が進み、お客さまやパートナーさまとの価値共創が加速しています。フィールドワークや他のNEC共創プログラムの活用も浸透し、地域課題解決や新しいビジネス創造の事例が複数出てきています。

本社ビル最上階の共創型ワークショップスペース

山岡:まずはリラックスして会話できる場を作ることが大切です。そしてワークショップには、必要に応じて我々デザイナーが積極的に参加しています。単純にファシリテーションをするのではなく、ワークショップを設計したり、アイデア出しの方法を提供したりしています。ワークショップをしただけでは新しいビジネスは生まれません。それよりも、自分たちは何をしたいのか、何をすべきなのか、その想いを導き出し、そして課題を発見することをサポートするように心がけています。

現場に行くことが最大の課題発見方法

- DBICのデザインシンキング・ワークショップに参加された方の話を聞くと、多くの人がまず課題を見つけることが難しいとおっしゃっています。課題を発見するコツのようなものはあるのでしょうか。

山岡:やはり日常的にアンテナを張ることが一番です。特にテーマを持ってアンテナを立てること。例えば空港デザインのことを毎日考えていると、空港や旅行に関する情報がおのずと引っかかってきます。普段の生活の中で様々なテーマのアンテナを広げておくことで、引出しが増え課題解決のアイデアに結びつけることができるようになります。

太田:ワークショップをするのも良いのですが、最近はみんなに「現場に行こうよ」と言っています。やはり課題の発見の第一歩は、現場を見ることから始まります。

山岡:勘や直感を信じることも大事ですね。世の中ではデジタル化が進んでいますが、デジタル技術を活用しただけでは差異化はできません。そこにデザインで魅力を加えることで初めて価値が生まれます。デジタルでは置き換えができない勘や直感、それを研ぎ澄ましておくことも大事だと思います。

好きと想いがイノベーションを生み出す

- お2人がデザインに関わるキッカケになった具体的な出来事はございますか?

山岡:なんと言っても1970年の大阪万博ですね。特徴的な形の建物が立ち並び、当時の最先端技術が詰まっていました。小学生の時に埼玉から行ったのですが、今でもその時の衝撃を覚えています。もともとハマりやすい性格でもあったのですが、すっかりデザインに興味を持ち、大学も工業意匠学科に進学しました。

太田:私はガンダムですね。当時の巨大ロボットアニメは宇宙人との戦いを描いた作品が多かった中、人間同士の争いをリアルに描いています。その世界観を考え企画を実現したクリエイターに驚き、一度はアニメーションの道をめざしたいと思っていました。そして大学に進学する時に人間工学と出会い、その縁でNECに就職しました。

山岡:私は「イノベーションを起こすには、想いを貫き得意な分野を磨くことが大切」と言っています。「魅力」や「わくわく感」を創るためにも、様々な想いを持った人を集めることが、優れた共創に繋がると考えています。そこを考えることから想いやパッションが生まれてくるのだと思います。

様々なシーンでデザインシンキングを役立てたい

- 最後に、皆様にとっての「デザインシンキングとは?」を教えてください。

山岡:デザインシンキングとは「本質的な価値を共創して“わくわく”する未来を創るプロセス」です。先ほども言ったように、デザインの本質は魅力を作ることであり、人をわくわくさせることです。デザインシンキングを活用し、魅力ある未来を創造していきたいと思っています。

太田:私は「より多くの人が嬉しい、楽しい」そう感じられる未来を創っていきたい。そのように「人を幸せにする手段」になるのがデザインシンキングだと考えています。今後も、幸せな未来を創る仕事に取り組めればと思います。

石川:私は、企業文化改革や経営戦略にも有効と考えています。変化の激しい市場環境に対応するためには、企業も変化し続ける必要があります。新しい見方、「人」と「社会」の視点で価値創造するデザインの思考が経営にも重要になってきます。デザインシンキング「未来の社会価値を共創するマインド」を経営から現場まで全社に醸成していきたいです。

 デザインシンキングはNECのビジネスでどのように使われているのか。次回は実際に現場の様子をお届けします。

プロフィール

山岡 和彦 Kazuhiko Yamaoka
未来都市づくり推進本部 エキスパート 兼 事業イノベーション戦略本部 ビジネスデザインセンター エキスパートデザイナー(取材当時)

太田 知見 Tomomi Ohta
事業イノベーション戦略本部 ビジネスデザインセンター クリエイティブマネージャー(取材当時)

石川 紀子 Noriko Ishikawa
経営企画本部 企業変革グループ(取材当時)