2017.12.29

 本連載では、デザインシンキングの活用に取り組まれている皆様の参考にしていただくために、先進的な事例を「実践者」を通してご紹介します。

 最初にご紹介するのは、「青翔開智(せいしょうかいち)中学校・高等学校」(以下、青翔開智)の副校長兼チーフプランナー 織田澤博樹様です。同校は2014年4月、鳥取市に開校、「中学入学時からひとり1台iPadを持ち、地域課題解決のプレゼンを行う」といったICT教育で注目を集めています。

地域ビジネスの相談事が持ち込まれる学校

– 青翔開智のFacebookページを拝見していると、企業とのコラボレーションやプレゼンテーションの事例がたくさん掲載されていて驚きました。

織田澤:地元の自治体や企業にもご協力いただいて、実際のビジネス課題を発見、解決する過程でデザインシンキングを活用しています。事前に教員から生徒に大きなテーマを与えますが、生徒が自身で発見した課題に置き換えられてしまうケースがほとんどです。


生徒たちによる課題一覧

 例えば中学2年生の技術の授業では鳥取県立図書館と鳥取市立図書館にご協力いただき、「図書館にふさわしい椅子を創る」をテーマに行動観察ならびに館長インタビュー、スタッフインタビューを実施しました。

 行動観察では、荷物が多くて置き場所に困っている図書館利用者さんの姿に気づきます。地面に直接座って本を読む利用者さんがいたり、中腰になって本の整理を続ける図書館スタッフさんの姿を目にします。

 インタビューでは図書館館長さんはしっかりした堅い椅子が好きな一方、スタッフの皆さんは座り心地のよい柔らかい椅子を求めている、といったギャップが見つかります。学校の中だけで授業をしていても絶対に発見できない気づき、インサイトですよね。

 これらを受けて椅子のプロトタイプを作成し、最終的には図書館の館長さんにも学校にお越しいただき、生徒たちがプレゼンテーションを行いました。

校内で開催された「図書館にふさわしい椅子を創る」最終プレゼンテーションの模様

 また、中学2年生の探究(総合的な学習の時間)でおこなう「課題解決型職場体験」では鳥取青年会議所さんにご協力いただき、地元の企業を訪問し、課題を見つけ、企業にビジネスアイデアを提案します。運送業者のイメージアップ戦略や食品加工業者の製品開発まで、テーマはすべて生徒たちが決めます。最後にはプランをまとめ各社の社長にプレゼンテーションをします。

 今年はインスタ映えを意識した「カラフルらっきょう」に高い評価をいただき、実際の商品化に向けて検討が進んでいます。

「カラフルらっきょう」のプレゼンテーションスライドより

 最初は企業や団体の皆さんに授業協力の「お願い」をする立場だったのですが、今では企業さんの側から青翔開智にビジネス課題の相談や生徒とのコラボレーション授業の依頼が来るようになりました。


「課題解決型職場体験」と書かれた学校独自の冊子。DBICのデザインシンキングトレーニングでもそのまま使えそうなクオリティでした

 一般的な中高の職場体験では、地域の企業に中高生が職場体験をしに行って「働くみなさんの苦労がわかりました。ありがとうございました」と頭を下げて帰ってくるようなケースが多いですよね。一方で青翔開智ではデザインシンキングを取り入れることで、地域ビジネスに対して実践的に貢献できるようになり、本当にうれしいです。

教育現場には、まだまだ変革する余地があった

– 織田澤様は青翔開智の設立時に校舎や設備といったハード面のデザインを担当されたと伺っていますが、どのような経緯だったのでしょうか?

織田澤:鳥取の学校法人の理事長である私の義父が、青翔開智設立にあたって私を校舎設計の責任者として東京から鳥取に呼びました。そのときの私には教育者としての経歴もありませんでした。

 私は理系の大学院を出て新卒で日立製作所に就職していたのですが、小さな頃から持っていた「子どもに向けたエンタテインメントを提供する仕事がしたい」という夢をあきらめられずに、数年でおもちゃの企画会社に転職しました。

 青翔開智に呼ばれたときは更に転職してイベント会社で子供向けのミュージアムの設計を手がけているところでした。そこが妻と出会った職場でもあります。

– 未経験から校舎のデザインをされたということですか?

織田澤:はい。設計段階で多くの中学や高校の校舎をリサーチしたのですが、自分が20年前に中高生だったころと何ひとつ変わっていなくて衝撃を受けました。

 しかし、これは私にとってはラッキーでした。何も変わっていないから、自分が学生の頃の原体験を元にデザインすることができる。もし教育の現場が進化していたら、私ひとりでデザインすることは困難だったでしょう。


特徴的な青翔開智の外観デザイン

 おもちゃづくりや子供向けのミュージアム設計で培った「子どもの目線で楽しませる」というディテールやノウハウを校舎に盛り込みました。

誰もが感じた「学校のここが嫌い」をひっくり返す

– ガラス張りの職員室も特徴的ですね。生徒たちが職員室に入ってきて先生と自然に会話している。ちょっと驚きの光景です。

織田澤:職員室や校長室に行くときって先生に怒られるときですよね。この学校はそうしたくなかったんです。どうすれば生徒たちが職員室に遊びに来てくれるか? だったら壁を取り払ってやろうと。これは大成功で、昼休みや放課後の職員室はいつも生徒で溢れかえっています。

 この校舎にいると、どこからでも職員室の中を見ることができ、逆に職員室の中からは校内で何が起こっているかをだいたい把握することができます。もし職員室の物理的な透明性が確保されていなければ、私は正しい学校の運営ができないと思います。


生徒たちの笑い声が絶えない青翔開智の職員室

 他にも職員室の教員席の後ろにある教員用ロッカーには生徒が腰をかけられるようにクッションを付けています。教員と生徒は対等な立場で話して欲しい。でも椅子に座って同じ目線の高さでは、どうしても教員のほうが心理的に上の立場になってしまうんです。

 ロッカーの高さを利用して物理的に生徒の目線を教員より上にすることで、心理的なギャップが解消され初めて対等な立場で話せるようになったと思います。この学校のデザインには、一つひとつにそういった想いがこめられています。

 要するに自分が生徒の頃に「こうなればいいのに」と思っていたことをカタチにしてきたんです。デザインシンキングでいう「共感フェーズ」と「問題提起フェーズ」は誰でも自分の学生体験を経て終えているわけですから。あとは創造的思考を使って課題を乗り越えるアイデアをどんどん出してカタチにして実行していけばいい。


校舎の中央を占める吹き抜けの図書館

 例えば図書館。大人になった今では本を読むことの大切さをわかっているつもりですが、中学生の頃の私は読書が苦手で図書館には掃除のときくらいしか行くことがありませんでした。どうすれば中学生のときの私のように読書を嫌う生徒が毎日図書館へ通うことができるか?という問いを頭の中で繰り返しました。どうすれば、どうすればと。デザインシンキングでいうHow Might We〜?の考えかたです。

 前向きに、呪文のように頭の中で「どうすれば?」と考え続けた結果、学校の中に図書館を作るのではなく、図書館の中に学校を作るという発想にたどり着いたんです。廊下や階段、共用部、教室の出入り口にいたるまで本棚を配置し、生徒はいつどこにいても本にアクセスできる環境です。生徒はいつでも図書館の中にいる状況ですので、好きな時に好きな本を読めるようになりました。

家具選びがきっかけでデザインシンキングと出会う

– デザインシンキングを導入されたきっかけを教えてください。

織田澤:それは本当に偶然でした。2012年に青翔開智の設立準備を進める中で、職員室の椅子を選ぶことになりました。いろいろな業者の製品を見たのですが、しっくりくるものがない。あれはダメ、これもダメ、と探していた中で見つけたのが、スチールケース社の「Think」という椅子でした。「考える」というネーミングの椅子です。お、これはいいぞ、と。ちょうど理事長と東京に行くタイミングがあり、ついでに広尾にあるスチールケースのショールームを見にいきました。


デザインシンキング導入のきっかけになったスチールケースのノベルティ

 そこで出会ったのが当時日本スチールケースに在籍し、ワークプレイスデザインを担当されていた佐藤千里さん。スチールケースのデザインシンキングを使った商品開発についてのご説明を受けました。単なる見た目のデザインではなく、ユーザーの課題解決のための家具設計というコンセプトに深く共感し、家具の導入だけではなく青翔開智全体のデザインにまでアドバイスをいただくことにしました。

 これまで自分がやろうとしていたこと、考えていたことに正式な名前と形が与えられたような、不思議な感覚でした。

 – どのようにデザインシンキングを授業に取り入れられたのでしょうか?

織田澤:私はハードウェアの担当だったので、校舎が竣工してしまうと仕事のピークを超えて、少し時間を持て余していた時期がありました。

 そんな中、佐藤さんと一緒に校舎や内装のデザインをした過程で学んだデザインシンキングのフレームワークを生徒たちに教えたい、と強く思うようになりましたが経験がありません。自分もデザインシンキングを専門に学んだわけではないので教え方がわからない。

 ですから、最初に生徒向けのワークショップを佐藤さんにご担当いただき。それを私も見学してノウハウを吸収するところから始めました。加えて、自分であれば「教えられる」分野ということで新規事業プランニングの授業をしようと考えました。

 そこで、最初の授業のテーマを「鳥取市にテーマパークを創ろう」に設定したんです。中学生1年生でも比較的興味を持って取り組むことができますしね。生徒たちには好評だったようで、中には大人が参加するビジネスコンテストに参加し、企画した事業プランを披露したチームもいました。

実際の経験が生徒たちを育て、将来へつながる

– 生徒たちは「デザインシンキング」をすぐに飲み込めましたか?

織田澤:先入観がない子供たちだからこそ「あ、こういうものか」という感じですんなりと受け入れてくれました。一度覚えてしまえば「はい、観察ね」「はい、ペルソナね」という感じで身につけてしまいます。

 教員の平均年齢が低いこともラッキーでした。もともと「探究型学習」を掲げている学校に来てくれている生徒・教員なので、積極的にデザインシンキングに取り組むことができ、最近では全校にデザインマインドが染みついてきたように感じます。

– デザインシンキングやICTの導入を受けた青翔開智の生徒は、他の学校と比べてどのような特徴があるとお考えですか?

織田澤:他の学校の生徒と比べた特徴のひとつは、圧倒的なプレゼンテーションの上手さです。学校生活の中で毎月のようにプレゼンテーションをする機会があります。有識者を含めた50名規模の観客を前にしたプレゼンの機会も年に3回ほどあります。

 中学3年間を通してデザインシンキングを学ぶことにより、社会を観察し、自分で課題を発見し、課題解決策を考えて、プレゼンテーションし、実行に移す。足を使って情報を集め、銀行に相談して資金計画を立てることも経験します。その一連の流れ、ストーリーを自然に身につけることができるんです。ストーリーテリングを勝手に習得してるってことですね。生徒たちのプレゼンは上手ですし、とても面白くてワクワクする発表なんですよ。

 生徒たちがカフェを企画運営したときのエピソードなのですが、生徒の家族がたくさん来てくださったこともあって大盛況に終わり、利益も出ました。ところが、実態としては混雑しすぎてお客様を長時間待たせてしまい、クレームもたくさんあったんですね。

 終わってから生徒と「お客さんがたくさん来て、お金も手に入ったけど、これで本当によかったのかな?」というディスカッションをしました。こういうことを考える機会をつくってあげたいと思っています。学校という枠から出ないと経験できない学びですね。


生徒たちによるカフェ開催時の模様

 また高校では中学校で身につけたスキルをベースに、個人の趣味・関心とSDGsを融合し、個人論文を執筆します。自分で決めたテーマはキャリアデザインの軸となり、大学進学や就職の道しるべになります。


これまで生徒が執筆した個人論文の一部

 2020年度から大学入試センター試験制度が大幅に変わり、「思考力・判断力・表現力」が求められます。青翔開智でデザインシンキングを学んだ「デザインシンキング一期生」がちょうど卒業するタイミングなのは偶然ですが、本当によかった。


2017年12月の修了式の模様

 DBICのメンバー企業とも連携を拡げていけたらありがたいです。DBICメンバー企業VS.青翔開智の生徒で、アイデアコンテストを開催していただけたら素晴らしいですね。

デザインシンキングとは?

– 最後に織田澤さんにとっての「デザインシンキングとは何か」を教えてください。

織田澤:日本人は、あらかじめ決まった枠の中で活動することに慣れてしまったと思うんです。デザインシンキングはその枠を飛び越えるための、ひとつのツールです。視点を変え、アイデアを生み出し、想いを伝えるためのツール。まるで「遊ぶ」ように世の中を楽しくクレイジーにできるツールだと思います。

プロフィール


織田澤 博樹 Hiroki Otazawa
青翔開智中学校・高等学校 副校長/チーフプランナー。1980年群馬県沼田市出身。電気通信大学大学院修了後、日立製作所へ入社。その後、おもちゃ企画会社、イベント運営会社を経て現職。