2018.03.01

 アイ・シー・ネット株式会社は途上国へのODA(政府開発援助)を実施するJICAを主要クライアントとするコンサルティング事業を中核に創業し、近年では日本企業の海外進出支援事業が急成長しています。代表取締役の多田盛弘様はDBICのAmazing Fridayにも2度に渡ってご登壇いただき、メンバー企業に対する海外進出の呼びかけをしてくださっています。

 さいたま新都心駅近くの高層ビルで社員約170名(2018年2月時点)を擁するアイ・シー・ネット本社にて多田様にインタビューを行ない、オープンイノベーションの可能性を伺いました。

海外進出の総合開発プロデューサー

多田:アイ・シー・ネットの創業は1993年。社長は私で4代目になります。創業当時はODAの一般会計予算が現在の倍ほどの約1兆円以上ありました。

 ODAで大きな割合を占めているインフラ系の支援に対して、私たちは人づくり・仕組みづくりを押し出すソフト部分の支援に特化することで成長してきました。現在では国内約200社あるODAコンサルティング企業の中でも売上が第3位、ソフト分野の企業に限って言えば近年ほぼトップを取っています。

 今でもODA関連の売上は約85%を占め、重要な事業です。一方で私たちのゴールは「総合開発プロデューサー」として、ODAに限らず日本の民間企業による途上国・新興国進出を支援し、他社では真似ができない官民両方からの社会的なインパクトを起こすことです。

 民間だけで難しければODAも手段のひとつとして使う、というスタンスですし、逆も同様です。ODAの予算が終われば現地から撤退してしまうコンサルティング会社も多いですが、私たちはODA終了後も現地に残り、ビジネスを継続するケースを増やしています。

ODAの限界を超え、持続可能なビジネスモデルを

多田:例えばラオスでは現地法人を通してホテルとスーパーマーケットを経営しています。元々はJICAの「一村一品」という特産品をきっかけに地域活性を促すプロジェクトでした。

 実際に食品や織物など良い商品は生まれるのですが、どんなにすばらしい地方産品ができても、それを売るためのバリューチェーンがないとビジネスとして成立しませんよね。ところがODAで販売まで手がけるのは仕組み上難しくなっています。


日本からのスタディツアーで高校生がラオスの子どもたちと触れ合う

 そこでプロジェクト実施地域のホテルに出資し、一村一品プロジェクトの特産品を販売するコーナーを開設するなどして、事業の成果が継続するような仕組みをつくっています。すでに10年近く継続しているラオスのプロジェクトサイトの支援は当社の研修事業フィールドとしての役割も増え、日本の高校生が現地の課題を学び、ソリューションを考えて提供するという教育事業にも発展しています。

 ODA事業やサービス業、教育事業などを個別にやっている企業はあると思いますが、途上国の長期の社会課題解決を目指して総合的に異なる事業をプロデュースしているのはアイ・シー・ネットだけではないでしょうか。

反政府ゲリラからカカオ農園へ

多田:私は2005年入社で、初期に担当したJICA関連の仕事にフィリピンのミンダナオ島でモスリムの反体制側の地域開発を支援するというプロジェクトがありました。フィリピン政府側も同意の上、武力ではなく支援により反体制勢力を支援することで和平のテーブルに着かせるのが目的です。

 反体制側の地域には牛でしか行けないような山頂の村や、小さなボートで一時間以上行かないとたどり着けない島など、開発から取り残された場所も多くありました。まだ内戦中だったので、ワークショップの出席者は肩から銃を下げているような状態でした。


フィリピン・ミンダナオ島でのJICAプロジェクト当時の多田様と現地の皆様

 反政府組織の人たちは好戦的なわけではなく、貧しくて、職業の選択肢がなかったからゲリラ兵になるという話を聞きました。戦争に疲弊した約3,000の村からアンケートを取り、ニーズを調べ、道路や学校など基礎インフラ支援や魚の養殖、農業支援など貧困削減を目的とした支援をしてきました。2017年でJICAのプロジェクトが一度終了しましたが、元兵士で職業がないなど、まだ貧しい人がたくさんいます。


フィリピン・ミンダナオ島でのJICAプロジェクト当時の多田様と現地の皆様

 そこで、アイ・シー・ネットは現地でカカオ農園を拓き、そこで元兵士の人たちに働いてもらっています。日本のチョコレートベンチャーに出資していて、そのネットワークを活かしてミンダナオでの事業を進めたいと考えています。ラオスもそうですが、CSRやチャリティだけでは開発支援は続けられません。儲けることが最終目的ではないですが、持続性確保のための手段として利益を上げるところまでシビアに見ています。

社会的な意義があれば、ビジネスとして成長する

多田:社会的な意義があれば、ビジネスとして成長する、というのを前提に事業を考えています。ラオスの事例で触れた高校生へのグローバル教育もそうです。「今の高校生にはこういう教育が必要だ」という想いがあった一方、学校とのコネクションはないので、最初は学校に片っ端から電話して飛び込み営業し、費用も持ち出しで全国に出張授業を行ないました。

 すると、多くの学校で2年目からは予算をつけて有料授業にしていただき、途上国へのスタディツアーなど、結果的にビジネスにつながっています。


日本の高校生と一緒に「ラジオ体操」をするラオスの子どもたち

 日本の中小企業と途上国マーケットをつなげる事業の事例ですと、3Dレーザースキャニングの技術のある企業のネパール展開や現地人材育成の支援をしたり、新潟の米加工企業のグローバル展開の支援で各国での販路拡大のお手伝いなどをしています。これは途上国における課題解決であるのと同時に、日本での人口減少に伴うマーケット縮小の改善にもつながるため、途上国と日本の双方にメリットのある事業だと考えています。

不確実性が高い今だからこそ、行くべき

多田:DBICメンバー企業をはじめとする日本の大企業の皆さんにお伝えしたいのは「途上国・新興国はポテンシャルの塊」だということです。日本が急速に少子高齢化へと進むのと対象的に、これから高度成長期、人口爆発、人口ボーナスが生まれる国々です。インターネットで情報を見るだけではなく、とにかく現地に行って、現地の皆さんと話して、パワーを感じてほしい。


アイ・シー・ネットのカフェスペースに置かれたコーヒー豆

 例えばアフリカは短期的には利益を生まないかもしれませんが、既にヨーロッパ、中国、韓国の企業が入っています。彼らは不確実性の高いところに積極的に進出し、ダメとわかったらすぐに身を引きます。

 儲かるようになってから出向いても、そこにマーケットはないかもしれません。日本企業にお金と人材はあります。必要なのは「リスクを取る覚悟」だけです。

プロフィール


多田 盛弘 Morihiro Tada
アイ・シー・ネット株式会社 代表取締役社長
1973年、神奈川県生まれ。早稲田大学教育学部を卒業。水族館の飼育員として勤務後、タイでのダイビングインストラクターを経て、インドネシアのバリ島で青年海外協力隊として国立公園のエコツーリズム開発に従事。2005年4月にアイ・シー・ネット株式会社へ入社。2014年10月に同社の代表取締役社長に就任。