2018.03.26

 株式会社宮崎活魚センターは南九州や西日本の海産物を中心に扱う宮崎を代表する卸売業者です。中でも宮崎チョウザメ、五ヶ瀬ぶどうカンパチ 桜舞~AUBE~、極上カンパチといった宮崎や鹿児島の優れた養殖魚を発掘し、全国に発信することに尽力されています。

 宮崎県宮崎市の宮崎活魚センターにて代表取締役の築地加代子様にインタビューを実施し、加えて生産者である養殖業者や消費の最前線としてのレストランの声も通して、オープンイノベーションの可能性を伺いました。

魚の持つ可能性を伝えたい

築地:南九州の養殖魚をメインに扱っており、お客様の7割は宮崎県内。養殖魚はホテルやレストランなどにとって切らしてはならない食材ですから、自然のリスクに備えて複数の産地を確保しています。鯛だったら宮崎と愛媛。カンパチだったら宮崎と鹿児島といった具合です。会社の主要設備である200トンの生簀が、西日本全域と宮崎を結ぶ魚流通のハブになっています。


活きたサバの搬入風景。デリケートな魚のため、漁師さんが海水ごと専用の水槽にそっと運び込む

 得意先のシェフの方々が食事に来られるお客様に自信をもって魚をお勧めできるよう、常に魅力あふれる新しい食材との出会いを求めています。私にとって最大の関心事は「ワクワクする魚との出会い」です。

 そんな中、勉強会を通して魚の栄養価について学ぶ機会があり、九州保健福祉大学の研究で宮崎県内でキャビア採取のために養殖されているチョウザメには「カルノシン」という成分が豊富に含まれることを知りました。認知症予防やアンチエイジング、疲労回復に効果があります。名前で誤解されますが、チョウザメはサメではなく腎臓を持っていてアンモニアを分解できるため、臭みのない上品な白身魚です。


宮崎県近海の高級魚ニベ(左)とキャビアを採った後に食用に出荷されるチョウザメ(右)

 それを聞いて「宮崎にこんな可能性を秘めた魚が居たんだ!」と興奮して生産者の情報を検索し、すぐに日南チョウザメ養殖場に見学に向かいました。シロチョウザメはキャビアが採れるようになるまで約10年かかる一方、雌雄の判別は3年で付くようになります。養殖業者の生計を支えるためにもチョウザメの身を販売することに真剣に取り組みました。今では宮崎のチョウザメの9割は宮崎活魚センターが扱っています。


近年では魚の加工ニーズも高まっている。写真はチョウザメの南蛮漬けの調理風景。東京のホテルなどからの需要も高いとのこと

宮崎から世界へ。新たな歴史の1ページ

濱中章輔(日南チョウザメ養殖場株式会社代表取締役): 築地さんと出会って、チョウザメの身を食用として販売ルートにのせることを初めて聞きました。養殖業者の自分ですら食べていなかったので、そこから食べ方を研究してジャーキーなどの加工にも取り組んでいます。


日南チョウザメ養殖場株式会社 代表取締役 濱中章輔様

 私も10年前にチョウザメの養殖を始めるまで、キャビアは結婚式で数粒食べるだけでした。改めて海外のキャビアを食べてみると保存用に塩分が7〜10%くらいあって塩辛いですね。宮崎のキャビアは塩分3%以下に抑えているフレッシュなものなので、まったくの別物です。これまでキャビアは日本が海外から輸入して食べるものでしたが、宮崎から世界に輸出できるようになりました。日本の歴史の1ページだと思っています。

 この養殖場で2018年は200キロのキャビアが採れましたが、その前年は100キロ、その前は50キロという具合で増えてきて、ようやく採算ラインに乗ったとことろです。最初は産卵までに10年かかるシロチョウザメを養殖していましたが、途中から5〜6年で卵が採れるシベリアチョウザメも導入した結果です。

 チョウザメの養殖に最も重要なのは水です。山の中に養殖場があるので、すぐ近くの川と沢から水を引いて、循環はさせずに掛け流しています。チョウザメの産卵期は秋〜春と決まっていますが、どの年にどの個体が卵を持つかはわからないんです。100匹のうち5匹しか卵ができないこともあります。ですから、人間が養殖池に入って、一匹ずつエコーでお腹の中を見て選別しています。

おいしい魚は、ソースでごまかす必要がない

橋倉昌洋(ガーデンテラス宮崎ホテル&リゾード レストラン「フォレスト」調理長): 宮崎県の延岡の出身で、高校を出てから東京で10年、福岡で10年シェフを経験して2012年の「フォレスト」のオープンと同時に宮崎に戻ってきました。築地さんとはそこからのお付き合いです。


ガーデンテラス宮崎ホテル&リゾード レストラン「フォレスト」調理長 橋倉 昌洋様

 フレンチシェフなのでキャビアはずっと使ってきましたが、チョウザメの身は使ったことがありませんでした。最初は戸惑ったのですが、築地さんから「親魚であるチョウザメが最初にあって、キャビアが副産物ではないか」という話を聞いて納得し、チョウザメの調理に深く入り込むことができました。最初にチョウザメのスモークを開発し、今では料理のレパートリーも増え、お客様にも好評です。


宮崎産キャビアを使った前菜

 東京と比較すると、福岡や宮崎ではシェフと生産者との距離が圧倒的に近いです。私は生産者に会いに行くのが大好きで、築地さんにもお願いして養殖者の方にもすぐに会いに行きました。生産者の顔がわかっていると、自信を持って「これはおいしいです」と提供できます。ソースでごまかす必要がないんです。


チョウザメを使った前菜。インタビューに登場したチョウザメのスモークは右手のカルパッチョに使用されている

選ばれる魚をつくるためには

築地:世界的な食料需要の増加を受けて、世界銀行は2030年までに世界の食用魚の3分の2が養殖魚になると予想しています。つまり、これから先は天然の魚だけでは世界のタンパク源においての需要を満たせなくなるのです。

 一方で、国連のSDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)の「つくる責任 つかう責任」「海の豊かさを守ろう」を見ても、養殖業者の責任は高まっています。更にはWWFも「ASC(Aquaculture Stewardship Council:水産養殖管理協議会)」認証を設け、養殖業者の自然への配慮を推進しています。

 世界が持続可能な資源に目を向けている中、宮崎県だけが例外であってよいはずがありません。中には1キロの養殖魚を育てるために、餌となる天然の魚を約15キロ消費するものもありますから、これを減らすことは必須です。すぐには達成できなかったとしても、餌の問題に関心を持っているか、減らすための研究をしているのかを私が養殖業者を選ぶときの基準のひとつにしています。

 私が選ぶ魚は「努力をしている人」の魚なのです。同じように企業や消費者が魚を選ぶときの基準が値段だけではなく、倫理観も重視するようになれば、養殖業者もそれを意識せざるを得なくなるでしょう。

 とはいえ、かけ声だけではなかなか人は動かないのも現実です。地元の養殖業者の皆さんとお話ししていても、例えばコストをかけてACS認証を取ったところで、本当に買ってくれる人がいるのか、という声をよく聞きます。そんなときにDBICメンバーのような大企業様が、環境への配慮を食材購入の基準として打ち出していただけたら、こんなに心強いことはありません。もちろん、社員食堂で宮崎フェアをやっていただけるのもたいへんありがたいです。

プロフィール


築地加代子 Kayoko Tsukiji
株式会社 宮崎活魚センター 代表取締役
宮崎県宮崎市出身。祖父は終戦後に宮崎県国富で魚卸売業を開業し、後を継いだ父もいち早く冷凍魚の販売を手がけるという家系に生まれる。2010年に宮崎活魚センター代表取締役に就任。