【レポート】第2回 経営幹部向け海外探索ミッション:シンガポールイノベーションプログラム成果発表会と特別講義

今回のメインコンテンツはメンバー企業有志の7チームが約5ヶ月間にわたってシンガポール現地に滞在しながら、現地スタートアップ企業との提携や新規事業開発に取り組んだ「DBICシンガポールイノベーションプログラム」の成果発表会「Demo Day」の見学です。その他、現地教育機関やスタートアップとの特別講義も多数実施されました。他では体験できないDBIC海外探索ミッションの全容を再構成してレポートします。

成果発表会(Demo Day)

オープニング

2018年10月18日(水)、シンガポールのコワーキングスペース「the bridge」にてDBICシンガポールイノベーションプロジェクトの成果発表会「Demo Day」が開催されました。 the bridge外観 会場は日本からの海外探索ミッション参加者に加え、シンガポール現地の観客で埋め尽くされました。司会を務めるのは本イノベーションプロジェクトのプログラムファシリテーターとして、シンガポール現地で参加メンバーをサポートしてくださったCLO LABSの三井幹陽様です。 CLO LABSの三井幹陽様 冒頭ではプログラムディレクターを担当するDBIC副代表の西野弘から関係者への感謝の意が表明されました。 DBIC副代表の西野弘 西野:本プログラム着想のきっかけはシンガポールマネージメント大学(SMU)が主催する「Lee Kuan Yew Global Business Plan Competition」を通してシンガポール流の「課題発見からスタートする」イノベーションを学んだことでした。 プログラム実施にあたっては、シンガポールを代表する政府系デベロッパーであるAscendas-Singbridgeの厚意により5ヶ月間の活動拠点として「the bridge」に入居することができました。更には現地スタートアップとのマッチングには現地のイノベーションネットワークであるAIRmaker、そしてSMUの多大なる支援を受けています。 日本企業がデジタルトランスフォーメーションをするために設立されたDBICは、多くのシンガポールのサポーター、そしてメンバー企業によって支えられています。皆様に心から感謝致します。

キーノートスピーチ:コニカミノルタ代表執行役社長兼CEO 山名昌衛様

続いて、コニカミノルタ代表執行役社長兼CEO 山名昌衛様による「日本企業のCEOとしてイノベーションをどう捉えるか」をテーマにしたキーノートスピーチです。 コニカミノルタ代表執行役社長兼CEO 山名昌衛様 山名:私にとってイノベーションとは「価値創造」を意味します。顧客価値、社会価値を創造していかなければ、長期的に企業価値を増やしていくことができないからです。 7〜8年前まで機能やコストにおいて競争をしていたトラディショナルな日本メーカーだったコニカミノルタは、現在では価値創造を中心にしたデジタルトランスフォーメーションに取り組んでいます。従来のプロダクトアウトなビジネスモデルから、IoTを使ったデータドリブンかつ顧客中心のビジネスモデルへの転換です。 その中でも、究極のゴールはミッションクリティカルな社会課題の解決です。20年後や30年後にどんな社会が実現しているか、そのためには今なにをしなければならないか、というバックキャストの発想が必要になります。近年のコニカミノルタにおける取り組み事例としては、プレシジョン・メディシン(精密医療)を通した医療費削減や患者のQoL向上、そして介護労働者の作業負荷軽減が挙げられます。 デジタルトランスフォーメーションにおける最重要のリソースは人材です。イノベーション=価値創造のためにCEOとして最重要なのは人材育成ですから、人事部に任せきりにせず、CEO自らが責任を持って向かい合う必要があります。社会を変革し、豊かにすることが価値のあるゴールだと社員が信じることができれば、大きな変化を生み出すことができるでしょう。 ただし、社会課題の解決は、ひとりまたは一社では実現できません。その意味において、多くのメンバー企業が集うDBICの取り組みは非常に重要です。「会社が」ではなく「私が」を主語に、「それを実現したい」という個人の強い思いが集まって、社会を変えていくのです。

#1 日本ユニシス:相乗りサービスで日本の交通を一新する

いよいよ7名のプロジェクトメンバーによるプレゼンテーションの開始です。トップバッターは日本ユニシスの山本恵美様。「On-Demand, High Capacity-Pooling Service(オンデマンドでの6人相乗りサービス)」と題し、日本の都市周辺のベッドタウンエリアや地方都市における交通事情を一新させるイノベーションを目指します。 日本ユニシスの山本恵美様 日本での郊外や地方都市においては「人口減少による公共通機関の経営難」「タクシーが高額な一方、自家用車は渋滞の原因」といった複合的な理由から交通の利便性に問題が発生し、社会課題となっています。地方自治体もシャトルバスやタクシーシェアを試していますが、成功事例はまだ多くありません。 そこで山本様がパートナーに選んだのが、シンガポール現地のスタートアップSWATです。SWATはライドシェア(相乗り)サービスを提供しており、エリア内の複数の位置から異なる目的地に向かうユーザーを相乗りさせて送り届ける「ルートオプティマイゼーション(ルート最適化)」の優れた技術を持ち、シンガポールを皮切りにアジア諸国への進出を始めています。 Eugene Lee様 / Director of Business Development, SWAT 元々、日本でタクシー配車関連のBtoBサービスを手がけていた日本ユニシスでは、SWATに対して日本の一部地域におけるタクシー利用状況のサンプルデータを提供しました。 SWATがデータを分析して相乗りサービスを使うのに最適なエリア(Geofence)を設定し、夕方の帰宅ピークタイムにおいて80台の既存タクシーを「6人乗りのバン5台の相乗り」に置き換えて運行した場合のシミュレーションを実施ところ「1台あたりの利用者数は1時間で7人」かつ「目的地に直行した場合に比べて追加でかかった時間は約10分」という結果が出ました。 山本様は帰国後、日本ユニシスとして人口30〜100万人規模の地方自治体にSWATのアナリシスサービスの実証実験を提案しPoCを進め、6人相乗りサービスの導入によって地域の交通事情改善につなげていきたいと考えています。

#2 東京海上日動火災保険:メンタルヘルス障害を早期発見する

東京海上日動火災保険の高橋昌道様のテーマは「Self-Enabled, Early Detection of Mental Health Disorders(自分でできるメンタルヘルス障害の早期発見)」です。 東京海上日動火災保険の高橋昌道様 シンガポールでのプロジェクト参加期間における課題探索の中で、高橋様は「感情」という社会課題に到達しました。身近な人の死、職場や学校における人間関係などが原因で、メンタルな問題を抱えている人を救いたいという強い思いです。 課題を「メンタルヘルス障害」に絞って調査すると、企業の従業員の5%がうつ病やうつ症状を発症しており、休職により21億USドルもの経済損失が出ているとのデータが見つかりました。テクノロジーにより症状の初期状態で検知し、早期に対策するサービスを実現することが重要ではないかと、高橋様は考えました。 Kuldeep Singh Rajput様 / CEO, biofourmis そこで出会ったのが、2015年にシンガポールで設立されたスタートアップ、biofourmisです。同社の主力商品は「Biovitals Analytics Engine」と呼ばれる、ウェアラブルデバイスを使って生体信号を収集、管理するプラットフォーム。上腕部に巻きつけるタイプのデバイスを通して、血中酸素濃度、呼吸数、心拍数、血圧、活動量などをモニターし、独自のエンジンでデータ解析を行うことができます。 今回、東京海上日動火災保険とのプロジェクトに採用されたのはbiofourmisが開発中の「MentalAI」と呼ばれるストレス管理サービスです。これは、ウェアラブルデバイスでリアルタイムに検知した各種データの中からストレスに関連する数値だけをまとめ、時間経過と組み合わせてスマートフォンアプリ上で渦巻状のグラフィックに表示する機能を持っています。 高橋様は日本に帰国後、東京海上日動火災保険のグループ会社における「MentalAI」の国内展開について検証します。

#3 野村総合研究所:社外メンターとのマッチングを実現する

野村総合研究所からは梶川達朗様と田原慶輔様がペアで参加し、「Cross-Company Mentor-Mentee Matching Platform(企業間メンター/メンティーマッチングプラットフォーム)」を発表しました。(編集部注:「メンター」は相談を受ける側、「メンティー」は相談をする側) 野村総合研究所の梶川達朗様 2012年の労働政策研究・研修機構の調査では、日本の若者の74%が仕事やキャリアについて不安を持っているという結果が出ています。メンタリングは不安の解消に役立ちますが、同じ企業で働く上司や先輩は似た価値観を持つために同一社内の悩みについて有効なメンタリングをすることが難しく、社外の視点を持つメンターの方が効果が高いと考えられます。 野村総合研究所の田原慶輔様 そこで、企業を超えてメンターとメンティーがマッチングできるプラットフォームの需要について日本とシンガポールで180人を対象にアンケート調査したところ、メンティーとして92%が、メンター側としても86%が利用の意向を示しました。中でも両方の立場から共通して40%程度の回答者が重視していた要素は「適正なマッチング」でした。 また、プラットフォームを通してメンティーからメンターに対して直接コンタクトをすることについて41%が「許容できる」と回答した一方で、友人など仲介者を通したコンタクトであれば許容回答の割合は78%に上昇します。この調査結果を受け、システムがメンティーに対してメンターをレコメンドすることに加え、友人(仲介者)を経由したメンターの紹介もサポートします。 今後は想定ターゲットをセグメントしてPoCを行い、プロトタイピングに進みます。シンガポールと日本の両方でのサービスを検討していきます。

#4 大日本印刷:ハイパーローカル&リアルタイムな情報を収集する

大日本印刷の岡 北斗様と利根川 隆様は「Getting Real-Time Info(リアルタイムな情報取得)」をテーマに、ハイパーローカル(超地域特化型)かつリアルタイムな情報収集プラットフォームを企画しました。 大日本印刷の岡 北斗様 デジタル情報が普及した現在でも「この地域でビールが一番安い店はどこか?」や「あの店の人気商品がもう売り切れているか?」「今すぐ近所でハシゴを貸してくれる人はいるか?」といった、ハイパーローカルなリアルタイム情報の入手は困難です。 アンケート調査によると86%のユーザーがハイパーローカルかつリアルタイムな情報が見つからないと回答しています。従来の検索サイト、レビューサイト、Q&Aサイト、SNSではカバーできない領域だと言えるでしょう。これらのニーズを満たすためには、今この瞬間、実際にその場所に居る人から回答が得られることが求められます。 Christian von der Weth様 / Reseach Fellow, N-CRiPT ここでパートナーに選ばれたシンガポールのスタートアップはN-CRiPTです。同社はスマートフォンを持ったユーザーを「ソーシャルセンサー」と位置づけ、質問に回答したり現地情報を発信するプラットフォームとして活用するスマートフォンアプリ「CloseUp」を開発しています。「CloseUp」では人力による回答に加え、IoTによるセンサー、ネット上の情報、他社サービスなどのコンテンツをブレンドして情報を充実させます。ビジネスオーナー側からの情報発信も可能です。 大日本印刷の利根川 隆様 本サービスに対するユーザー調査を行ったところ「地域情報の発見」「ビジネス側の情報発信」「ユーザー間のシェアリング」という主要なベネフィットが確認できた一方で「ユーザー数不足」「回答インセンティブが必要」「回答の正確性への疑問」といった課題も見つかりました。そこで、回答へのポイント付与、回答へのクオリティコントロールを組み込むことで、ユーザー数増加へのポジティブスパイラルを形成することが必要です。 将来的にはユーザー間の情報交換に加えて、ビジネス側からの情報発信によるB2Cマーケット、そしてユーザー間のシェアリングビジネスによるC2Cマーケットへの拡張が期待されます。

#5 コニカミノルタ:東南アジアのすべての人に医療を提供する

コニカミノルタの勝嶌和彦様はシンガポールを飛び出し、フィリピンへのマーケットダイブを通して「Smart Primary Care Support as the First Choice of Health Management(健康管理における最初の選択肢としての、スマートプライマリ・ケア」というテーマを発見しました。 コニカミノルタの勝嶌和彦様 フィリピンの病院や患者に対する独自調査の結果、公立病院では5〜7時間もの待ち時間が常態化しており、一方で私立病院は高額のため平均的な所得の市民は利用することができないことがわかりました。統計データによると、フィリピン・インドネシア・ベトナムにおける年間所得が10,000USドル以下の家庭の合計は8,700万世帯に及び、医療アクセスに不満のある巨大なユーザー層が存在しています。 そこで、今回のプロジェクトではスマートフォンを利用したチャットボットによるセルフケアに注目しました。現状でも自己診断によるセルフケアは広く行われていますが、効果がなかったり、症状が悪化してしまうことも少なくありません。ユーザーがチャットボットに対して症状を相談することで、その履歴やタイミングから適切な対応を提案しようという仕組みです。 チャットボットのログからは症状、深刻さ、いつ始まったか、薬は何を飲んでいるか、そして活動量などを収集し、ヘルスレポートに蓄積。当てはまる病気の可能性を判断できます。チャットボットが病院に行くべきかのサジェストも行い、医師も診断時にチャットボットのログを見ることで、より正確な診断が可能になります。 勝嶌様がマニラ現地、そしてオンラインでフィリピンユーザーの本サービスに対する反応を調査したところ、79%が利用に積極的であり、平均で約230PHP(450円程度)であれば「課金してもよい」と答える結果が出ました。データ入力についても94%が「煩雑ではない」と回答しています。他にもアンケートからは医療費の記録や予測、セカンドオピニオンなどへのへニーズが見つかっています。 将来的にはインドネシアやベトナム等での追加調査、パートナーとなるスタートアップの選定とMVP開発を経て、AIの活用も見据えた取り組みへと進んでいきます。

#6 日本ユニシス:テキストコミュニケーションにおける誤解を防ぐ

今回、日本ユニシスからは2種類のイノベーションプロジェクトが生まれています。同社の来嶋 恵様は「Preventing Damages by Emotional Email Through Real-Time Emotion Detection(リアルタイム感情検出により、感情的なEメールによる被害を防止する)」と題し、テキストコミュニケーションにおける誤解を減らすためのサービスを提案しました。 日本ユニシスの来嶋 恵様 一般社団法人日本ビジネスメール協会による2018年の調査では、ビジネスパーソンの約74%が自分の書くメールに不安を感じています。また、同調査では約40%の人が受け取ったメールによって不快と感じた経験があります。 文法チェックや翻訳に対応するテキスト補正サービスは既にありますが、自然言語の解析と感情分析については有力なサービスがないという点をカバーするのが本プロジェクトです。ユーザーインタフェースとしては、リアルタイム文法補正サービスと同様にメールなどの入力画面をリアルタイムでチェックして感情的な誤解を生みそうな文章について代替候補を提案したり、送信前にアラートを出すようなものが想定されています。 日本人10名とシンガポール人8名を対象にしたインタビューでは80%が本サービスを好意的に捉え、75%が課金を検討し、月額については「3.5〜5SGドルまで許容できる」と回答しました。テストを通してユーザーから「同僚にこのサービスを使ってほしい」という意見が出たことから、感情的なメールを書くことについて本人は自覚しにくいことがわかります。また、「母国語以外の言語で有効」という意見からは、国外でのビジネスチャンスの可能性が見つかりました。 今後は更にマーケットリサーチを重ねて、データ収集や機械学習に基づいた開発を進めた後に、日本でのPoCを経て日本語版サービスをローンチすることが目標です。日本の若者または日本語を学ぶユーザーをターゲットにしていきます。

#7 東京ガス/東京ガスiネット:スマートコントラクトで貿易を効率化する

プレゼンテーションの最後を締めくくったのは東京ガスの田口裕人様と東京ガスiネットの村山領様チームによる「Digital Commodity Trading Contract for Smooth Execution(スマートコントラクトによる貿易効率化)」です。 東京ガスの田口裕人様 燃料など大量の物資を長距離運搬する貿易においては、膨大で複雑な契約がつきものです。契約書を読み込んで理解する作業は売り手と買い手の双方にとって負担であり、加えてその内容を世界に分散する実務担当者に通知する過程ではコミュニケーションエラーも多発します。そこで、ブロックチェーンをベースにしたスマートコントラクトを導入し、貿易取引を効率化するのが本プロジェクトの目的です。 東京ガスiネットの村山領様 今回のモデルケースに選んだのはLNG(液化天然ガス)の貿易です。LNGは中東、オーストラリア、東南アジアから海路で日本に輸送されますが、航海期間が長く、マイナス162℃という超低温で液化して輸送する過程で少しずつガスが気化して減っていくため、1日の遅延が発生すると停泊により発生する費用と合わせて約300万円の損失が出てしまいます。 パートナーに選ばれたシンガポールのFlowlabsは、ブロックチェーン技術を持ち、燃料ビジネスでの経験もある理想的なスタートアップでした。同社は東京ガスから提供されたモデルデータを元に、PoCとして売り手と買い手の間の複雑な契約事項と、運送の進捗を共有できるプラットフォームのデモを開発しました。この情報は長い航海の間に途中寄港する港のタグボート、税関、検査官といった関係者までが幅広くアクセス可能で、検閲の結果や天候状況による遅延情報もトータルに把握することができます。 Daniel Lim Ching Luen様 / Co-founder, Flow Labs 今後は、東京ガスにおけるLNG貿易の実際の契約情報を使って実証実験を行う予定です。実験の結果、燃料系スマートコントラクトとして採用できた場合は、他社への提供を通してプラットフォーム化するビジネスも視野に入れています。

総評:Aylwin Tan様/Ascendas-Singbridge

DBICシンガポールイノベーションプロジェクトの本拠地であり、今回のプレゼンテーションの会場ともなった「the bridge」は政府系デベロッパーAscendas-Singbridgeの厚意により提供されています。7チームのプレゼンテーションを終えて、同社のChief Customer Solution OfficerであるAylwin Tan様からプロジェクトの総評をいただきました。 Aylwin Tan様 / Chief Customer Solution Officer, Ascendas-Singbridge Tan:本日の発表会を日本から見学に来ているDBICメンバー企業経営幹部の皆さん、若いプロジェクトメンバーを信じて、彼らにチャンスを与えていただいたことに感謝します。 私たちがこのプロジェクトに参加した目的のひとつに「自分たち自身をDisrupt(破壊)する」というテーマがありました。Ascendas-Singbridgeはオフィスビル開発を中核事業とした中国とのジョイントベンチャーであり、例えばコニカミノルタ様の中国進出においても長いお付き合いがあります。ところが、近年はWeWorkなど新しい競合が登場し「果たして自分たちはこのまま同じことを続けてよいのか?」という問いを持っていました。 そこで、AIRmakerという小規模で動きの早いスタートアップのためのプラットフォームをつくりました。Ascendas-Singbridge本体は大きくなりすぎていたのです。更に、SMUを通してDBICと出会い、今回のイノベーションプロジェクトにも参加しました。ご来場のDBICメンバー企業経営幹部の皆さん、プロジェクトメンバーが帰国してからもイノベーションが続けられるような、小回りの効く環境をぜひ用意してあげてください。 イノベーションとは「問題が何か」を定義することから始まります。その問題の解決のために複数の企業が協力し、バックグラウンドの異なるメンバーとチームを組んで働くことが不可欠です。本日この会場で、国籍の異なる様々なスタートアップが日本企業と手を組んでいる光景を見られて本当にうれしいです。これこそが、シンガポールならではのイノベーションです。

授賞と会場の模様

各プロジェクトに対する選考の結果、2018年度「DBICシンガポールイノベーションプログラム」の主要な受賞者は以下の通りとなりました。 Best Innovation Award:日本ユニシス 山本恵美様 AIRMaker Kwai Seng Lee様と日本ユニシス 山本恵美様(右) Best Corporate Entrepreneur Award:東京海上日動火災保険 高橋昌道様 東京海上日動火災保険 高橋昌道様(左)とSMU Patrick Thng教授(右) Most Impressive Player Award:野村総合研究所 田原慶輔様 DBIC代表 横塚裕志(左)と野村総合研究所 田原慶輔様(右) プロジェクトメンバーとスタートアップ全員での集合写真 プレゼンテーションの冒頭で披露されたプログラムマネージャー福田秋裕(DBIC)によるパフォーマンス 会場のエントランスにはプロジェクト毎の概要をまとめたパネルを展示しました 来場者からの質問に回答するプロジェクトメンバー Demo Day前日にはSMUにて探索ミッション参加者とプロジェクトメンバーのディスカッションが開催され、5ヶ月間の体験の共有や次年度に向けた改善点について話し合いました

特別講義

シンガポールの産官学エコシステムで世界の才能を集める

海外探索ミッション初日の10月17日(水)午前中は、シンガポールマネージメント大学(SMU)の法学部校舎を会場に、午前はPatrik Thng教授とAmelia Chen様によるシンガポールにおける産官学エコシステムについての講義、午後は現地スタートアップ2社とのミートアップがありました。(午前の講義の内容は2017年開催の「第1回 海外探索ミッション」のレポートをご参照ください) School of Law, SMU Amelia Chen様 / Senior Manager, Communication & Partnership, SMU

Janio:ロジスティックプラットフォームでアジアをつなぐ

SMUで出会った現地スタートアップ1社目は、東南アジアでロジスティックプラットフォームを展開するJanioのCo-Founder/CMOであるNathaniel Asher Yim様です。 Nathaniel Asher Yim様 / Co-Founder, CMO, Janio Yim:私は1992年に中国系とインド系の両親のもとシンガポールで生まれました。シンガポール国立大学(NUS)を2017年12月に卒業し、2018年3月にJanioを創業しています。 JanioはASEAN地域におけるEコマースのための国際ロジスティックとテクノロジーソリューションをビジネスとしています。シンプルに言えば、ある国の倉庫から、他の国に居るカスタマーに荷物を届ける仕組みですね。各国の配送業者とパートナーシップを結んで、どこからでも荷物をトラッキングできるAPIを提供しています。現在、創業7ヶ月目で、1日あたり2,000個程度の荷物を扱っています。 それぞれの国内で急成長している優秀な配送業者は多数あります。ただ、どこも自国の中で閉じていて、国際間取引に積極的に取り組んでいるところはありませんでした。もちろんFedexやDHLならどんな配送にでも対応できますが、とても高価です。そこで私達は大小を問わず各国の配送業者と提携し、東南アジアのどこからどこに荷物を発送してもトラッキング可能なプラットフォームを構築しました。例えばインドネシアはたくさんの島がありますが、島ごとに別の配送業者と提携しています。 Eコマースの小売店としてはオンライン注文を受けるときにJanioのAPIと連携するだけで、あとは複数の配送業者が連携しながらユーザーにまで届きます。関税手続きや代引にも対応しています。今ではLAZADA、そしてShopee楽天などがJanioを利用しています。 参加者:NUSを卒業したのなら就職先はいくらでも選べたと思うのですが、どうして起業を選んだのですか? Yim:在学中に1年間休学してシティバンクに勤務しましたが、今やっているスタートアップの方が性に合っています。私は問題を解決するのが好きなんです。多くの人が困っている問題を本当に解決できたら、お金は後から付いて来ると思っています。 参加者:もしJanioのビジネスが本当に儲かるならば、中国などから大手資本が参入して同じビジネスを始めるかもしれません。どこにJanioの優位性があるのですか? Yim:中国のSFエクスプレスなど大手は、やはり特定の地域には強いのですが、そうでない地域もある、というのが現状です。やはり、トラックなど物理的なアセットを持ってしまっているのが足枷になっている部分があるようです。それに比べてJanioは物理的な資産を持たず、現地の配送業者とパートナーシップを結ぶスタイルなので、提携先さえ見つかればどこでもすぐに展開できるという強みがあります。

ZILLIQA:ブロックチェーンをスケールアップする

現地スタートアップの2社目として、ブロックチェーンの基礎技術で世界トップクラスの評価を得ているZILLIQA(ジリカ)からHead of Business DevelopmentのEn Hui Ong様が登壇し「ブロックチェーンをスケールアップする」をテーマにしたセッションが開催されました。 En Hui Ong様 / Head of Business Development, ZILLIQA Ong:近年注目を集めるブロックチェーン技術ですが、幅広いビジネスに転用するためには処理速度がネックになっています。1秒あたりの処理件数は、ビットコインで7件、イーサリウムで10件と、既存の代表的なペイメントシステムであるVISAの8,000件とは比較にならないほど遅く、ピーク時の高額な手数料も問題になることがあります。 そこで、ブロックチェーンの特徴である、すべてのノードで取引を処理する仕様を、安全性を担保しながらグループごとに分散して並行処理することで高速化する「シャーディング」という最新技術を取り入れたのがZILLIQAです。シンガポール国立大学(SUS)の研究室から2016年にスタートしたZILLIQAは、ノード数によっては1秒あたり2,488件の処理、つまりイーサリウムの200倍以上もの高速化により、これまで難しかった分野への転用が可能になります。取引手数料も格安です。 例えばデジタル広告業界は、350億USドルものマーケット規模がありますが、透明性に乏しく、中間搾取が激しいため、広告主が支払う金額の半分程度しか実際に広告表示されないと言われています。従来のイーサリウムの処理速度では1日あたりの膨大な広告量をさばくことができませんでしたが、ZILLIQAであればそれが可能になります。ZILLIQAは世界的なデジタル広告代理店であるMindshareとの提携を決めています。 ZILLIQAはiOSのようなプラットフォームであり、世界中の事業者がZILLIQA上でアプリケーションを動かせるようになっています。広告以外にも、保険やゲーム業界との提携を進めていますし、ZILLIQA上で動く優秀なアプリケーション開発者には助成金を出す仕組みもあります。日本でもアステリアという法人向けサービスを使えば、ZILLIQAに簡単に接続することができます。 参加者:ZILLIQAが様々なビジネスに転用できる革新的な技術であることはわかりましたが、ZILLIQAという企業自体はどうやって収益を上げているのですか? Ong:ZILLIQAは無償で誰にでも使えるので、ZILLIQAの利用料という意味での収益はありません。ただ、ZILLIQAコインという通貨があり、その価値はプラットフォームとして活用されればされるほど上がります。そのため、創業チームは自然とZILLIQAの普及に注力します。スタッフの毎月の給与は資金調達したキャッシュから出ています。 参加者:ブロックチェーン技術には世界中にライバルが多いと思いますが、ZILLIQAの優位性はどこにあるのでしょうか? Ong:確かに競争が激しい業界ですが、パブリックブロックチェーンにおける技術力、特にスケーラビリティと安全性では、ZILLIQAは世界トップクラスに入ります。ビットコインもイーサリウムも10年前の技術です。ZILLIQAは誰もやったことのない最先端技術ですからワクワクします。

NUS:イマジネーションのカルチャーを創造する

Demo Dayが開催された10月18日(木)の午前中は、the bridge内で海外探索ミッション参加者向けに2本の特別講義が開催されました。最初はシンガポール国立大学ビジネススクールのAlex Capri教授による「Creating a Culture of Imagination(イマジネーションのカルチャーを創造する)」というセッションです。 Alex Capri教授 / Professor, Natinal University of Singapore Business School Capri:世界情勢から見て、現在の日本は歴史的に重要な「分水嶺」に居ます。アメリカと中国が冷戦のような経済競争をしているなか、今こそ日本の外に出て、新しいイノベーションエコノミーの中でプレイヤーとして勝ち上がるチャンスです。そのためには、テクノロジーだけではだめなのです。正しいカルチャーが必要です。 マイクロソフトのホロレンズはオープンソースで技術を公開し、1,000以上のパートナーとコラボレーションしながら開発しています。今回の出席者であるJAL様もプロシューマーとして参加し、パイロットの飛行訓練やジェットエンジンメンテナンスの研修に使っています。マイクロソフトが実行しているように、イノベーションのためには外部とのコラボレーションが不可欠であり、そこにはダイバーシティが不可欠なのです。 この会場に日本から来てくださった出席者のうち、女性はふたりしかいらっしゃらないようです。私は仕事柄、世界中の成功している企業を見てきましたが、どこもラテラルシンキング (訳注:前提を無くして水平方向に発想を広げる思考法)を導入して、ボトムアップで意見を出せるようになっていました。Googleのカルチャーの指針のひとつにも「ダイバーシティ」があります。同じような会社で同じように過ごした属性のグループが集まっても、新しいアイデアを出すことは難しいのです。 カナダにGoldcorpという金採掘企業があります。オンタリオに広大な金鉱山を持っていますが、ある時期から採掘量が激減し、経営難に陥っていました。そこで彼らは、過去の採掘に関するすべてのデータ、地理情報、採掘量、採用技術をすべてネット上で公開し、賞金付きでアイデアコンテスを開催しました。結果、約50カ国から110ほどの新しい採掘エリアや方法についての情報が集まりました。参加者にはゲーム業界、数学者、研究者など、それまでGoldcorpとは縁のなかった人材が含まれていました。最終的には約30億ドル相当もの新しい金が新たに採掘でき、賞金として支払ったのは約50万ドルです。

当然、Goldcorp社内に反対意見もありましたが、ラテラルシンキングとボトムアップを尊重する正しいカルチャーがあったからこそ情報公開を実現することできました。このコンテストは「#DisruptMining」として継続しており、現在では世界中のスタートアップが参加し、毎年優勝しています。競合他社からの参加もありますが、それは問題ではありません。ビジネスにとってそのアイデアを「実施できるか」が重要なわけですから。 出席者:日本の大企業がチームを組むだけではイノベーションは起きないのでしょうか? スタートアップを混ぜないと無理なのですか? Capri:大企業の場合は、社内に小さなチームをつくって若い人や社外の人材を入れ、そこで実験的にイノベーションに取り組み、うまくいったら大きくスケールさせるのがよい方法でしょう。いきなり会社全体を変えるのは不可能です。人間は変化が嫌いですし、長く同じ会社に居る人ほどその傾向が強くなります。人事部が教育機関と連携して、イノベーションに適正のある人材を採用することも重要な役割になってくるでしょう。

Maxis:従業員体験を通じてデジタルトランスフォーメーションを実現する

10月18日(水)の午前、ふたつ目のセッションはマレーシアの通信キャリアMaxisのHead of Employee Experience、Monior Azzuri様による「Employee Experience - Key Driver to Your Digital Transformation(従業員体験 - デジタルトランスフォーメーションを実現する鍵)」という講義です。 Monior Azzuri様 / Head of Employee Experience, Maxis Azzuri:Maxisはマレーシアの電話会社として長年ナンバーワンのシェアを誇っていましたが、2013年頃に売上が急激に落ち込みました。低価格の競合他社が台頭したことと、WhatsAppなどでコミュニケーションを取るユーザーが増えて電話料金収入が落ち込んだのが原因です。 2013年に行った社内のエンゲージメント調査(訳注:会社に対する従業員の満足度調査)の結果は、創業以来最低の67%を記録していました。そこでノルウェー人の新しいCEOが呼ばれ、同じタイミングで私もデンマークから人事のトップとしてMaxisに参加しました。 デジタルトランスフォーメーションのために必要なテクノロジーはお金で外部から買うこともできますから、本当に重要なのは従業員の変革です。従業員の日常生活についてはデジタル化がスムーズに進んでいるのに、仕事のやり方だけ旧態依然としたら、それは経営陣の責任でしょう。Maxisの新CEOは最初に「カルチャー」と「人材」を最優先要課題と位置づけ、テクノロジーは後から付いてくると判断しました。そして、それは正しかったことが証明されます。 最初にCEOはデジタルカンパニーになるためのビジョンを定義して壁に張り出し、すべての判断はそこに合致するか否かで行うようにしました。私は人事のトップとして従来の複雑な組織体系や昇進の仕組み、肩書を整理し、全従業員が同じデスクと椅子を使うようにしました。新しいデジタルツールが社内ルールにあわないときは、ルールの方を変えるようにしました。 そして何より、従業員に対して一方的かつ一律コミュニケーションをするのを止めました。個別の従業員の活動に対するアナリティクスを導入し、顧客に行うのと同じようにマーケティングを行うようにしたのです。社内ツールが使いづらいというデータが集まれば改善する。毎月、マネージャーはスタッフ全員と面談する。こういったことの積み重ねでMaxisは2017年に4Gネットワークのナンバーワンキャリアに返り咲き、従業員の満足度は過去最高を記録したのです。「Best Telco CE0」や「Asian Capital Award」など多くのアワードも受賞しました。 参加者:日本企業の場合、人事部がいちばん保守的で、大きなパワーを持っているケースが多いです。どのようにしたら人事部は変わるでしょうか? Azzuri:人事部が保守的なのは世界共通です。実は、私はMaxisに来る前はマーケティングの仕事していて、人事の経験はありませんでした。Maxisでは私に加えて、同様にマレーシア外から呼ばれたIT出身のスタッフでチームを組んで改革に取り組みました。 結果、2013年当時40人居た人事部社員のうち、2年後には3人しか残りませんでした。代わりに私が新しく採用した人事部スタッフは、すべて人事経験者以外から選びました。デジタルトランスフォーメーションに最重要なのはマインドセットなので、既存の人事スタッフにマインドセットを教えるより、既にマインドセットを持っている人材に人事のスキルを教える方が早い場合が多いからです。

NCS:スマートシティから価値創造に取り組む

Demo Dayの翌日、10月19日(金)には、シンガポール発のIT企業であるNCSを訪問し、政府と二人三脚で進めるスマートネーション構想におけるテクノロジー面についてのプレゼンテーションを受けました。(NCSについて詳しくは、2017年度開催の「第1回 経営幹部向け海外探索ミッション」のレポートをご参照ください) NCSにて撮影した「第2回 経営幹部向け海外探索ミッション:シンガポール」の参加者一同 以上が2018年度のDBIC「第2回 経営幹部向け海外探索ミッション」のレポートです。シンガポールイノベーションプログラムも含め、次回開催にご期待ください。

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