【シンガポールレポート】TomoWorkパネルディスカッション「障がい者が働きやすい職場環境の作りかた」

企業・団体紹介

企業・団体 組織概要
Foreword Coffee 障がい者を積極的に雇用しシンガポール内に3店舗を展開するコーヒーショップ
SPD 障がい者に対して様々なサービスを提供し自立を支援するシンガポールの福祉団体
CapitaLand シンガポールに拠点を置くアジア最大の政府系不動産企業
BP イギリスに拠点を置く多国籍エネルギー企業
Bridge+ CapitaLandグループが運営するコミュニティデベロッパー

TomoWorkオープンのちょうど1週間前、2019年9月2日(月)にシンガポールの報道機関であるThe Straits Times社から「国会議論:1/4の障がい者が雇用されている」という記事が発信されました。 経済成長を重視する政策をとってきたシンガポールですが、近年は多様性のある社会をどのように維持するかという政策にシフトしつつあり、その施策の1つとして障がい者雇用に高い関心が集まっています。 Bridge+のオープンスペースでランチタイムにイベントを開催しました 今回のTomoWorkプロジェクト構想にも多くの企業・団体が関心を示し、注目度の高さがうかがえました。その中でも当プロジェクトに強く賛同していただいた皆さまにご協力いただき、今回のパネルディスカッションが実現しました。当日はシンガポール企業の人事担当者を中心に50名以上の方にご参加いただきました。

TomoWorkメンバーによるオープニングスピーチ

TomoWorkプロジェクトの発起人である住友生命保険相互会社の百田牧人さん まずは主催者である住友生命保険相互会社の百田牧人さんのご紹介で、TomoWorkメンバーの1人であり聴覚障がいを持つジェローム氏にご挨拶いただきました。 TomoWorkメンバーのジェローム氏 ジェローム氏:「私はデジタルマーケティングの技術者として就職活動をしていますが、企業は私たちがどのような障がいを持っているかだけを見ていて、私たちに何ができるか、を見ていません。私たちはここにいる皆さんと同じく社会に貢献したいだけなのです。PWDと聞いて『障がい者を持つ人』(Person With Disabilities)だと思わないでください。私たちは『夢を持つ人』(Person With Dreams)なのです。」 ジェローム氏によるスピーチの様子 ジェローム氏の熱意がこもったスピーチに会場から大きな拍手が送られました。障がい者は英語でPWDsと表記されますが、TomoWorkではDisabilities(できないこと)ではなくAbilities(できること)に焦点を当てています。

パネルディスカッション「デザインの観点で障がい者に対してできることは何か?」

Bridge+ ジョナサン・ウォン氏 続いてメインファシリテーターであるBridge+のジョナサン氏の進行によるパネルディスカッションが始まりました。パネルディスカッションではBridge+のジャネット氏による手話通訳、およびテキスト通訳者によるライブキャプションをディスプレイに表示し、聴覚障がいの方にも参加していただきました。 Bridge+ ジャネット・チョウ氏による同時手話通訳 ジョナサン:「今回のディスカッションに参加でき光栄です。ちょうど今朝、Bridge+のスタッフと一緒にどのように障がい者向けのオフィスをデザインするかというワークショップをしていました。デザインの観点で考えると、企業は障がい者のために何ができるのでしょうか?」 CapitaLand サミュエル・マルテッリ氏 サミュエル:「人間の五感を意識することが重要です。例えばラミネート加工した壁と大理石の壁では、匂いも手触りも違います。これは障がい者の方にとって大きな違いであり、それぞれの感覚の観点でオフィスをデザインすることが必要です。とはいえ障がい者にフレンドリーなデザインを追求すると、どの建物も画一的で退屈なものになってしまいます。このバランスを探すことは非常に挑戦的な取り組みです。」 Foreword Coffee ナディ・チャン氏 ナディ:「その答えは障がい者の皆さんが一番良く知っています。例えば当店のエスプレッソマシンにロック機能が付いていたのですが、それは一部の従業員にとって邪魔なものでした。ロック機能を無くすことで、より合理的で効率的なプロセスに改善することができました。デザインの段階から障がい者の観点を取り入れることが重要だと思います。」 SPD パトリシア・ゴー氏 パトリシア:「例えば車いすの場合、様々な高さの車いすがあり、障がい者にフレンドリーな職場をデザインするためには、高さが調整できる机を用意する必要があります。多様な人々に合わせてフレキシブルに調整できること、これが企業に必要な観点です。」 BP エレナ・チパロヴァ氏 ジョナサン:「多国籍企業であるBPでは多様な従業員を雇用されていますが、障がい者の割合はどれぐらいでしょうか?」 エレナ:「ニュースでは障がい者の雇用率だけが取り上げられますが、誰ひとりとしてなぜ障がい者を雇用する必要があるかを述べていないことが残念です。我々は採用の際に『できること』に焦点を当て『できないこと』を聞くことはありません。なので障がい者の雇用率を明確にすることは困難です。」

パネルディスカッション「どうすればインクルーシブな文化・社会を作ることができるか?」

ジョナサン氏による軽快なパネルディスカッション進行 ジョナサン:「では、どうすればインクルーシブな(多様性を包み込む)、誰もが歓迎される文化を作ることができるのでしょうか?」 エレナ:「インクルーシブな文化は作るものではなく、日々の活動から生まれるものです。様々な才能を持った人々が一緒に働き、それぞれのストーリーを共有すること。それが継続的な教育プロセスになり、新たな文化を生み出していきます。」 ライブキャプショニング(視覚障がい者向けテキスト通訳)が2面ディスプレイに表示されています 聴衆:「フォアワードコーヒーのナディ氏に質問です。なぜこのような事業を始めたのでしょうか? 障がい者雇用に興味があったのでしょうか?」 ナディ:「お店を開店した当時はあまり強く意識をしていなかったのですが、最初のスタッフ採用をする時に、私たちの仕事は定量化されており、条件がマッチすれば多くの人を採用できることに気付きました。特に人手不足の飲食業界において、才能ある障がい者を雇用することは企業にとって有益です。私は経営者として70%以上の障がい者が雇用されていないことが許せません。だから私は、大企業の採用担当の方々も『障がい者枠』という別の枠で見ることを止めて欲しいと願っています。」 観客席からも積極的な質問が飛び交います 聴衆:どのようなアプローチで企業文化を変革すればよいのでしょうか? エレナ:「文化を変革するためには、なぜ抵抗が起きているかを理解することが必要です。多くの従業員は障がいを持つ人に対してどう接すればいいか分からないことに怯えています。それに対する答えは教育です。オフィスが適切に設計されていないのも、障がいを持つ人が企業にうまく溶け込めないのも、すべては教育が原因です。障がい者と一緒に働きながら、どのようにコミュニケーションしていけばよいかを学ぶことがとても大切です。」

パネルディスカッション「我々はインクルーシブな社会のために何ができるのか?」

ジョナサン:「では最後に、私たちはインクルーシブな社会を築くために何ができるでしょうか? 会社の立場としての意見でも構いませんし、個人としての意見でも構いません。」 パトリシア:「インクルーシブな職場について話すとき、主にアクセスのしやすさが議論されます。しかし経営の観点から見れば、職場が物理的にオープンであるだけではなく、働く人々もオープンでなくてはなりません。障がいを持つ人々が、オープンに自分たちの意見を言えるような環境作りが必要です。例えば『フォントの大きさだけではなく色も変えて欲しい』と言えるような環境です。」 サミュエル:「そうですね。重要なポイントはコミュニケーションです。デザインの力でコミュニケーションをサポートすることができます。障がい者が働く環境は様々で、解決策は1つではありません。ですからデザインも単一のものではなく、常に自分自身をアップデートできるデザインでなければなりません。」 ナディ:「その人の弱点を見るのではなく、強みに焦点を当てるべきです。私たちはそれぞれの障がい者の強みに合う仕事を割り振っています。その最初の仕事で経験と自信を身に付けられれば、それはトランポリンのように作用し、次の新たな仕事にチャレンジすることができるでしょう。もちろん私たちも、コーヒーショップの次のステップとなる仕事を計画しています。」 エレナ:「私たちはどこのお店でコーヒーを買うべきか分かりましたね。私たちはこのようなビジネスをサポートしていく必要があります。ビジネスにもインクルーシブな観点が必要です。例えば障がい者雇用をしているお店のケータリングを優先的に利用するなど、社会全体でサポートしていく必要があります。」 ジョナサン:「パネリストの皆さま、ありがとうございました。今日は観客席の中にも障がい者雇用を推進されている方がいらっしゃいます。ぜひこの素晴らしい観客の皆さまとネットワーキングしてください。」

イベントクロージング&ネットワーキング

最後は百田さんからパネリストの皆さまにEnabling Village障がい者が作成したエコタンブラーが贈呈され、イベントが終了しました。 TomoWorkメンバーもTomoWorkロゴの名刺を使ってネットワーキングしました 大日本印刷株式会社の森谷高行本部長(写真中央)にも日本からご参加いただきました イベント終了後は垣根のない積極的なネットワーキングがおこなわれました。当イベントの開催がきっかけで少しでもシンガポールの障がい者雇用への取り組みが前進することを願っております。

関連リンク

住友生命ニュースリリース「シンガポールにおける障がい者活躍支援の実証実験の実施について」TomoWork専用サイト(英文)【シンガポールニュース】障がい者向けコワーキングスペースの実証実験を開催【シンガポールレポート】TomoWorkオープニングイベント【シンガポールレポート】TomoWorkワークショップ「オトングラスを使ったアイデアソン」

他のDBIC活動

他のDBICコラム

他のDBICケーススタディ

一覧へ戻る

一覧へ戻る

一覧へ戻る

このお知らせをシェアする