【横塚裕志コラム】DXの起こし方を 考えてみよう(4/4)

1~3回では、私が経験したDXを題材にして、DXを起こすために必須の要素を分析してきた。
【横塚裕志コラム】DXの起こし方を 考えてみよう (1/4)
【横塚裕志コラム】DXの起こし方を 考えてみよう (2/4)
【横塚裕志コラム】DXの起こし方を 考えてみよう (3/4)

今回は4回シリーズのまとめとして、これからの新しい時代に合わせたDXの起こし方を探ってみようと思う。3回目でDXの必須の要素は、「変革モチーフを持つ人材」、「変革を決断できる経営」、「変革をデザインできる社員の専門性」の3つと分析した。これらの要素をどのように社内で育成するのかについて、時代の変化を踏まえながら考えてみたい。

Ⅰ. 新しい時代が来ているという問題意識

  1. 世界の競争状況が大きく変化している
    世界の競争は国の境を超えて、地球規模で行われている。また、企業の変革も、企業の内側からのモチーフ以外に、顧客の変化、企業がなすべき社会的な行動、地政学的な影響、などなど多くの社外テーマがモチーフとなりつつある。従って、変革も10年に一度の大きなチャレンジというものではなく、多くのテーマに逐次、適宜、俊敏に対応していく形の変革に変えていくべき時代が来ているように見える。それに伴い、リーダー像も変わってきており、一人の強力なリーダーが全社を仕切るという形式ではなく、多くの現場のリーダーたちが変革の声を上げ、あちらこちらで違うタイプの変革を実践していく形式になっていくように思える。
  2. 働き手の人口減少が激しいので、全員が能力を100%発揮できる組織作り
    10人入社したら、3人課長になり1人が部長に昇進する、という選抜方式は人が余っているときの考え方だろう。全員が活躍しなければ戦えない時代が来ている。
    また、ゼネラリストが適宜転勤して力をつけるという考え方では、世界の高い専門性での戦いに勝利できない。加えて、忖度、予定調和でも負ける。全員が高いモチベーションと自由な発想と専門性を生かすような、今までにない新しい考え方の組織を目指さないと世界には並べない。

Ⅱ. 新しい時代への方向性

  1. 「変革モチーフ」があちこちの部門で生まれ実践される組織・人材作り
    「ハッキング・デジタル」(日経BP)の最終章で、マイケル・ウェイドはこう書いている。「DXはこれから本格化する。それは、技術の進展以上に組織の革新が、企業や個人にとって大きな変化となる。DXを加速するアクセルも妨げる障害も、技術よりもむしろ、リーダーシップや人材、組織構造、文化、社内政治にあるということだ。」
    どんな組織をマイクがイメージしているのか質問したいところだが、同じ章に「社員の自律性を高め、自己組織化していくべき。」との記述もある。
    少なくとも、現行のピラミッド型組織では、変革が生まれにくいから、新しい組織を考えそちらに移行することが最大のDXだということを言っている。
    新しい組織デザインについては、私のコラムでも、スポティファイモデルやデンマークでの斬新な取り組みを紹介している。また、DBICは「信頼経営」というビジョン、すなわちフラットな組織で大胆な権限委譲を提言している。
  2. 経営者には重い決断より俊敏性のある朝令暮改の判断が求められる
    明日は何が起こるかわからない、どんな新しい技術が出てくるかもわからない、という状況では、経営者が謙虚に世界の多くの企業から学ぶ姿勢・行動が何よりも必要だ。そのための「学ぶ時間」を意識して確保することが求められる。加えて、年間予算、年間目標、中期計画などにとらわれていると、決断が遅れて企業の存続が危うくなることも起こりかねない。俊敏な方向修正が行える態度が必要だ。
    一方、社員やステークホルダー、パートナーなどとの熱い共感の文化を醸成するべく、自社の戦略をナラティブに語ることができる能力も求められる。
    そして常に高いレベルで戦闘力を持つ企業とするために、組織としての競争力、人材としての競争力を高め続ける戦略が欠かせない。
  3. 社員の専門性を世界クラスに鍛えるべき
    最近知ったのだが、多くの欧米企業では、人事部長には大学で教育学や心理学、脳科学などを学んだPhDが就き、人材育成についての企業戦略を立て、経営戦略にあわせた人材のポートフォリオを組み立て、採用やトレーニングを行っているそうだ。
    同様に、経営戦略のプロ、ビジネスアナリストなど、多くの専門性を磨いたプロが存在しているようだ。一方、日本では、ゼネラリスト中心で戦略を考えている。これで世界に勝てるのだろうか。社内の過去からのノウハウには詳しい人は多いと思うが、それだけで戦えるのか、私は疑問を感じている。
    さらに大事なことは、社員が自分で好奇心を持ち、自分で学びたいことを感じ、ガツガツと自分で学びに行く自律性を養うことだろう。人事部に言われて、上司に言われて、学びに行くような姿勢ではたぶん身にならない。幼児のような本能的な好奇心を取り戻す自己変容を起こし、学びたいというマインドセットを取り戻すプロセスが未来を切り開くのではないだろうか。

以上、4回にわたってDXの起こし方を考えてきた。私の結論は以下の通りだ。
「社員も経営者も、本来人間が持っている「学びたい」という本能を自己変容によって取り戻し、五感で感じる危機感を仲間と共有すること。そして、新しい分野に挑戦しやすいフラットな組織体を組成することができれば、新しい時代に生き残り続けるためのDXを起こす力を持つことになる。」ということではないだろうか。

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