【レポート】DBIC-IMD デジタルトランスフォーメーション実現に向けての人財育成:今HRができること、すべきこと!

本イベントではスイスに拠点を置く世界トップレベルのビジネススクールIMDの北東アジア代表を務める高津尚志氏をスピーカーに迎え、IMDの最新のHR調査レポートやプログラムの解説をしていただきました。 DBIC代表の横塚裕志と同副代表の西野弘からによるDBICの理念や2019年度活動方針についてのプレゼンテーションも交え、本レポートでは内容を再構成してお伝えします。 ※本サイトでは「人材」の表記を基準としておりますが、一次資料の表記が「人財」であった場合は元資料を尊重しているため、表記が混在しております。

DBIC設立当初から変わらない危機感

DBIC代表 横塚 裕志 横塚:DBICはちょうど3年前、2016年の5月に設立しました。構想を始めたのは更にその2年前で、そのときの課題意識は今でも変わっていません。大きくふたつあります。 ひとつは、それまで単に「IT」と呼ばれていたものが、急速に「デジタル時代」という大変革として迫ってきており、日本企業はそれに対抗できないのではないかという直感です。 ITを効率化の手段として捉えていた時代は「IT部門やベンダーに任せる」でも済みました。しかし、デジタル時代は、今までと同じやり方をしていたらディスラプターによって本業が潰されます。どの部署も、どの役職も、デジタルと無縁では居られません。ビジネス側の人たちにその恐怖を共有し、戦略を立て直す場所が必要だというのが、DBIC設立の最初の課題意識です。

世界の情報が日本に正しく伝わっていない

横塚:ふたつめの課題意識は「世界のデジタルトランスフォーメーション(DX)戦略が日本に正しく伝わっていない」という危機感です。日本のメディアも、ITベンダーも、そして行政さえも、日本がDXにおいて大きく世界に取り残されているということを伝えていません。 横塚:そこでDBIC設立時にはIMDという世界トップレベルのビジネススクールと提携し、IMDの中でも世界のDXの最新状況をリサーチしているマイケル・ウェイド教授の講義を日本で直接受けられる環境をつくりました。他にもシンガポールマネージメント大学やデンマークデザインセンターとパートナーシップを結んでいます。

DX成功のために最重要なのは人材

横塚:日本企業がDX時代をどう生き抜くか、その最重要の鍵となるのは人材です。そこで、2019年度にDBICが取り組む新しいプログラムのキックオフとして、人事部門の皆さんに特化した本プログラムを開催しました。企業カルチャー、人事評価、人材育成、新卒採用、変えなければならなないところはたくさんあります。 2018年9月に来日した際のマイケル・ウェイドIMD教授 昨年、ウェイド教授が来日してDBICでメンバー企業の経営幹部と対話をした際に、彼は「DX is not about Digital」と語りました。「DXの目的は、ビジネスパフォーマンスの向上であり、それは組織変革からしか達成できません」と言い切ったのです。この指摘は本質的だと私は感じました。これから日本企業の本業が破壊されても生き残り、むしろ業績を拡大していくため、組織と人材を抜本的に変革する必要があるのではないでしょうか。

DXを正しく理解し、実行するためには

IMD北東アジア代表 高津 尚志氏 高津:先程横塚さんからご紹介があったとおり、IMDはシスコと共同で2015年6月に「Global Center for Digital Business Transformation」という研究所を設立し、世界のDXをリサーチし、書籍やホワイトペーパーとして発表したり、教育プログラムに落とし込んで皆さんに提供しています。本日は、その調査結果をふまえて「DX時代のリーダーと組織のあり方」いうテーマでお話させていただきます。 まず、DXの定義とはなんでしょうか? ウェイド教授の言葉にもありましたがIMDではDXを「デジタル技術やデジタルビジネスモデルを使って組織を変革し、業績を改善する」と定義しています。そのため、最終的に組織変革と業績改善が伴わないものはDXではないのです。 それではDXとは簡単なことでしょうか? いいえ、とても困難なことです。ただひとつ救いがあるのは、DXに苦しんでいるのは日本企業だけではないということです。IMDの調査では、世界中の「既存企業」がDXに苦労しています。簡単な解決策や魔法の薬はないのです。成功事例として取り上げられる北米のGAFAや中国のBATHは、前提があまりに違いすぎるのでベンチマークにはなりません。 それでも、調査結果から「こうすれば必ず成功するとは限らないけれど、成功の確率を上げる」という要素は見えてきています。(編集注:以降、2019年夏発売予定のウェイド教授の新刊からの引用が使われている部分は、省略もしくは簡易的な紹介に留めています)

誰もが例外ではないデジタルの渦を自覚する

高津:最初に、そもそも私たちが対抗しなければならない「デジタルディスラプション」が何であるか、正しく理解しましょう。これは、発売済みのウェイド教授の著作「対デジタル・ディスラプター戦略 既存企業の戦い方」で解説されているように、「デジタル・ボルテックス(渦巻き)」と呼ばれるものです。 [gallery link="file" columns="1" size="full" ids="8237"] 図版にあるように渦の中心にある業界の方が先にデジタル化されていきますが、最終的には外周の企業も否応なしに中央に引き寄せられます。例外はありません。 これに既存企業が対抗しようとすると、「規模」「相互依存性」「ダイナミズム」という3つの要素からなる「もつれ」が抵抗となり、従来の方法ではDXは実現できません。IMDの調査では、世界中の多くの経営者が、この数年で「もつれ」が急速に高まっていると回答しています。個別の要素がお互いに強め合う効果があるのです。 [gallery link="file" columns="1" size="full" ids="8272"] 上記の図版のように組織ならではの特徴が複雑に「もつれ」あった状態にある既存企業にとっては、従来の「チェンジマネジメント手法」ではDXが困難です。これを解決する新しいアプローチは2019年夏発売予定のウェイド教授の新刊にまとめられていますのでご期待ください。

ディスラプターのビジネスモデルを理解し、対抗するための戦略

高津:ウェイド教授は既存企業の本業を破壊するGAFAに代表される「ディスラプター」のビジネスモデルを3つに分類しています。Amazonを例にすると、ほとんど送料無料という「コストバリュー」、早く届くという「エクスペリエンスバリュー」、そしてユーザーが古本を売ることもできるという「プラットフォームバリュー」です。多くのディスラプターはこの中から複数を組み合わせて来るのがやっかいですね。 [gallery link="file" columns="1" size="full" ids="8238"] これに対抗して、既存企業は4つの戦略を取ることができます。「退却」「収穫」という防御的な戦略と、「占拠」「破壊」という攻撃的な戦略があり、これについても「対デジタル・ディスラプター戦略 既存企業の戦い方」に詳しく解説があります。 [gallery link="file" columns="1" size="full" ids="8239"] 「退却」などど聞くと、一見とても消極的に思えるかもしれませんが、既存企業としてはこの4つ戦略のポートフォリオからどれかを選択し、自らバリューを生み出し、ディスラプターの3つのバリューに対抗するわけです。そしてもちろん、その中で学習を重ね、戦略と実践を洗練させていくことが必要です。 経営陣がこれらを正しく実施するには、企業全体としての変革目標のアウトラインを定めた理念や、「トランスフォーメーション・オーケストラ」と呼ばれる指揮者と楽団のメタファーが必要となるですが、これらについてはウェイド教授の次作にて詳しく解説されています。

リーダーに求められる最も重要な能力は「アジリティ」

高津:デジタル・ボルテックスの渦中にある既存企業の経営陣にとって、最も重要な能力はアジリティです。アジリティは日本語だと「俊敏」とか「機敏」と訳されますが、なかなか日本語に変換しにくい概念です。ですから、それまで石橋を叩くように製品の品質を守り、向上することでビジネスを成功させてきた日本企業こそ、アジリティに対して抵抗を示す傾向があります。 [gallery link="file" columns="1" size="full" ids="8240"] そこで、IMDはアジリティを3つの要素に分解して定義しました。「Hyper Awareness(超高度な察知力)」、「Informed Decision Making(情報に基づく意思決定)」、そして「Fast Execution(迅速な実行)」です。これによって獲得したデジタルビジネス・アジリティこそが、ディスラプターのスピード、柔軟性に対抗できるのです。これについては「対デジタル・ディスラプター戦略 既存企業の戦い方」に解説がありますので、ぜひご一読ください。 また、アジリティと並んでデジタル時代のリーダーシップに不可欠な要素に「HAVE」があります。これは、「Humble:謙虚さ」「Adaptable:順応性」「Visionary:ビジョン」「Engaged:エンゲージメント」の頭文字を取ったもので、ウェイド教授の次作にて詳しく解説されます。 元になったウェイド教授のレポート「Redefining Leadership for a Digital Age」の英語の原文はどなたでも読めますので、参考になさってください。

DBICが提供する人材育成プログラム

DBIC副代表 西野弘 西野:DBICは人材育成として設立したわけではありませんが、DXを達成するにあたってのキーがテクノロジーではなく人材である以上、人材育成にフォーカスするのは必然でした。 日本の大企業がイノベーションを起こすためのNPOという前例のない取り組みでしたので、まずは国内外の大学や研究機関をまわってパートナーを探し、その中でちょうどIMDさんとシスコさんが提携して人材育成もやると伺って、「これだ!」とパートナーシップを結んで3年間共に歩んできました。 DBICの人材育成の特徴としては、以下の4つをコンセプトにしています。

  • 5感を取り戻してアンテナの高い人財
  • 競争だけでなく共創が出来る人財
  • 自立した人材
  • 危機感を持って、楽しく行動出来る人財

2016年度に立ち上げたDBICは、まずは国内外のパートナー様と新しいチャレンジををやり尽くしました。2018年は、そこから得た知見を元に体系化した「Digital Transformation」「Design Thinking」「Discover Myself」「Diving Program」から成る「4Dモデル」を使ってメンバー企業のイノベーション促進に取り組みました。 そして2019年は、そこに「Social Innovation by Design」を加えた「4D+Sモデル」をスタートしたところです。ソーシャルイノベーション、つまり社会課題の解決をしていかないと、地球が持続できないのです。例え私たちの世代が逃げ切れたとしても、子や孫の世代に責任を持って地球というバトンを渡せなかったら意味がありません。 それだけに厳しいことも言います。NPOなので資金も潤沢ではありません。ただ、それに共鳴してくださるIMDやシンガポールマネージメント大学、そしてデンマークデザインセンターといったパートナーが私たちを支えてくださっています。まだDBICに未加入でご興味のある企業様がいらっしゃったら、ぜひ気軽にお声がけください。 編集注:「2019年活動方針」「サービスリスト」「4D+Sモデル」について詳しくは各リンク先をご参照ください。

IMDのプログラム構造

IMD北東アジア代表 高津 尚志氏 高津:ここからは、先程お話したような世界のDXのリサーチ結果を、IMDとしてどのような学習プログラムに落とし込んでいるのかをご説明します。 まずは構造の話をさせてください。IMDのプログラムは「対象者」の観点から、「企業カスタマイズ型(特定企業の参加者だけを対象に、その企業のニーズにあわせたもの」、「公開型(誰でも参加できるオープンなもの)」、そしてそのふたつを組み合わせた「ハイブリッド型」に分かれます。 また、「提供手法」の観点からは「対面型(参加者が物理的に一箇所に集合して学ぶ)」、「オンライン型(デジタル端末をベースに学ぶ)」、両者を組み合わせた「ブレンド型」があります。 本日は「公開型」に絞ってお話します。LDBT(Leading Digitl Business Transformation)と呼ばれる5日間のプログラムが、DBICさんと提携してやっている「DBIC-IMD デジタルビジネス・トランスフォーメーションプログラム」の雛形になったもので、どちらも主任講師はマイケル・ウェイドです。 スイスのIMDで一週目はLDBTを受講していただき、2週目は「Digital Strategy」や「Digital Finance」といったLDBTに関連した2.5日のプログラムを連続受講していただくのがおすすめとなっており、日本からも多くの方が参加されています。

世界的な評価を受けたデジタルラーニングが日本語対応

高津:IMDではオンラインプログラムを受けていただくこともできます。IMDのオンラインプログラムは最後まで脱落せずに受講していただける率が92〜95%という驚異的な高さが特徴です。 これは、オンラインで教材を提供するだけでなく、「バディ」と呼ばれる同じタイミングで受講するパートナー生徒をマッチングしたり、IMDの教授がコーチングをしたり、バーチャルでありながら「リアル」な体験ができることが理由だと考えられています。日本の大企業での本格導入も決まっています。 [gallery link="file" columns="1" size="full" ids="8260"] この度、日本語へのローカライズが終わって導入がスタートするのが「Digital Disruption(デジタル変革)」のコースです。これは9セッション(8週間)あり、1セッションあたり4時間くらいの学習が必要とされています。 IMDのデジタルラーニングは世界的にも評価が高く、いくつかのアワードもいただいていますが、それは「学び」としてのメソッドの確かさに起因していると私は理解しています。 編集注:ここで、高津氏により日本語字幕付きのデジタルラーニング動画教材のデモが上映されました。 私もこのビデオを最初に見たときは、まんまと間違えてしまいましたが、この授業のテーマが「Informed Decision Making(情報に基づく意思決定)」であったことを考えれば、納得の回答でした。このように、受講者に「考えさせる」ような教材になっていることで、それを自社の課題に置き換えてみて、バディやコーチと話してみることが、このプログラムを飽きずに完走できる秘訣になっているのではないでしょうか。

2019年のIMDデジタルラーニングへの参加方法

高津:今年、DBICとのコラボレーションで「Digital Disruption(デジタル変革)」のコースを導入します。学習アドバイザーには日本でトップクラスのコーチング人材ということでHRファーブラ代表の山本紳也さん、そしてグローバルインパクト代表パートナーの船川敦志さんにご担当いただけることになりました。 [gallery link="file" columns="1" size="full" ids="8261"] 図版にあります通り、「Digital Disruption(デジタル変革)」のデジタルラーニングは3つの受講法があります。まず、英語のオリジナル版がありますので、御社がグローバルな展開をされているのであれば、海外から、または外国人の従業員が受講するにはこれが向いているでしょう。 [gallery link="file" columns="1" size="full" ids="8262"] また、日本語版についてはDBICさんとのコラボレーションにより前半4週間をオンラインで、後半については2019年9月27日〜28日にDBIC Tokyoにマイケル・ウェイド教授が来て、対面研修で学ぶことができます。DBICのメンバー企業様であれば、おひとりは無料で参加できます。 もしくは、すべての日本語版のプログラムをデジタルラーニングで、日本の他業種の皆様と、同じタイミングで日本語で学ぶプログラムも準備中です。これは2019年秋にスタート予定です。ご興味がある企業様がいらっしゃいましたら、ぜひDBICさんと共に、お話を伺わせてください。

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